測定器に貼られた「校正済み」のラベルが示すのは、前回校正の時点の情報です。その後に起きた落下や汚れ、当日の動作の異常までは示しません。 逆に、使用前にゼロ点が合っていても、これから使う測定範囲の全体が今回の要求を満たすとは限りません。 校正の結果、使用前の状態、今回の測定要求の三つを別々に照合すると、自分がどこまで確認できたのか、どこから先は確認していないのかを記録で説明できます。
この記事では、校正・日常点検・調整・使用可否の判断を分けて扱い、使用前の照合と、異常を見つけたときに残す記録の形を示します。 法令や顧客要求で検査・管理方法が定められている場合は、その対象と要求を先に確認してください。
校正・点検・調整は、同じ作業ではない
校正は、定めた条件のもとで、まず標準が与える値と測定器の表示との関係を不確かさとともに求め、次にその関係を使って表示から測定結果を得られるようにする操作です。 表示を狙った値へ合わせる調整や、要求を満たすことを確かめる検証とは区別します。 JCGMのVIM 2.39は、この区別を明記しています。
日常点検は、この記事では、使用前などに行う外観・動作・基準との比較の確認を指します。 呼び方だけで中身は決まりません。対象機器の手順書に、確認する点、行う条件、判定基準を定めておく必要があります。
| 作業・判断 | 何をするか・何が分かるか | それだけでは分からないこと |
|---|---|---|
| 校正 | 指定条件・測定点での標準値と表示の関係、その不確かさ | 校正後に起きた損傷や変化、校正していない点・条件での状態、今回の用途への適合 |
| 日常・中間点検 | 決めた点検項目について、その時点の状態 | 点検項目に入っていない範囲・特性 |
| 調整 | 狙った値を示すように測定系を変更する | 調整後の全範囲が要求を満たすか |
| 使用可否の判断 | 校正・点検結果を、用途の要求と判定ルールへ照合する | 記録のない条件まで含めた保証 |
VIMでは検証を、指定要求を満たしていることの客観的証拠を示すこととして扱い、必要な場合は不確かさを考慮するとしています。 また、調整後は通常、再校正が必要としています。 ですから、ゼロ調整をした事実だけを「校正完了」と記録しないでください。記録には実施したこと(ゼロ調整)をそのまま書き、校正の記録とは分けます。
使用前に、証明書・現物・用途を突き合わせる
校正証明書は、まず現物と突き合わせます。 同じ型式の別個体の証明書を見ていないか、識別番号が一致するか、校正された範囲が今回使う範囲を含むかを確認します。 そのうえで、校正結果と不確かさを、社内で定めた使用条件や合否の判断ルールに照合します。
次の表は、この記事で提案する確認の整理です。 校正機関の証明書様式や、特定規格の要求事項を置き換える表ではありません。
| 照合するもの | 記録に残す内容 |
|---|---|
| 現物と証明書 | 管理番号、製造番号、型式、証明書番号 |
| 使用する範囲 | 測定量・単位、使う範囲、校正された点・条件 |
| 結果の意味 | 偏りや補正の情報、不確かさ、合否が示される場合はその判定ルール |
| 現在の状態 | 汚れ・損傷・動作、点検値、落下や修理などの履歴 |
| 使用承認 | 適用する手順の版、判断者、使用を認めた範囲と制約 |
証明書に合否が記されている場合も、何に対する合否かを読みます。 「合格」という文字だけを根拠に、証明書に載っていない測定範囲や、より厳しい製品公差への使用を決めることはできません。 測定方法としての能力まで評価する場合は、検査治具の設計と評価で扱うばらつきや測定条件も合わせて確認します。
日常点検は、変化が見える記録にする
点検記録を「OK」のチェックだけにすると、前回からの変化を追えないことがあります。 基準器を使って数値で比較する点検なら、点検値・基準値と測定条件を残し、その時点で適用した限界値と並べて判定します。 限界値は、点検の前に手順で決まっているものです。点検後に、出た結果へ合わせて決めるものではありません。
次は仮定の記録例です。測定器や手順の番号は記入例で、数値や許容差は実機の仕様や推奨基準を示していません。
測定器M-012/点検手順IN-04 Rev.2/点検者・日時を記入。
基準器B-007を用い、手順で指定した点を測定。表示値、基準器の参照値、測定条件を記録。
手順の判定範囲内かを照合し、異常があれば使用を止めて管理担当へ連絡。
ゼロ調整や清掃を行った場合は、実施前の値、作業内容、実施後の値を別に残す。
ゼロ点の確認は、日常点検の一つです。 ゼロ点だけが合うことから、使用範囲全体の偏りや直線性まで確認したとはいえません。 どの点を調べれば必要な変化を捉えられるかは、測定器と用途に応じて、手順を定める担当者が決めます。
異常が見つかったら、現物と過去の結果を分けて扱う
点検値が手順の判定範囲を外れたとき、落下や損傷が見つかったときは、定めた手順に従って使用を止め、現物と台帳の両方に使用不可・確認待ちの状態を示します。 確認前に調整して発見時の状態を失わないよう、可能な範囲で発見時の値と状態を記録に残します。 再使用は、修理・調整・校正等の必要な処置と確認を経て、権限を持つ担当者が判断します。自分の判断でそのまま使い続けないでください。
過去の測定結果への影響は、今回の点検異常だけで一律には決まりません。 管理担当へ渡すのは、最後に状態を確認できた記録、異常を見つけた時刻、その間に測った対象と範囲、使用条件です。 「前回校正以降すべて不良」と断定することも、測定器を直したから過去の結果も問題ないと扱うことも避けます。 再測定や製品の隔離などの処置は、品質部門等が影響評価に基づいて決めます。個別の許容差や再検査の範囲など手元で判断できない点は「未確認」と書いて残し、そのまま担当へ渡します。
校正周期は、点検記録も使って見直す
ILAC-G24/OIML D10:2022は、校正間隔を決める際に、要求する不確かさ、摩耗・使用状況・環境、中間点検の結果などを考慮する考え方を示しています。 すべての測定器に共通する最適な周期はなく、校正履歴を保持して判断の根拠にする、という内容です。この文書は考え方を示す指針で、一般の現場に一律の法的義務を課すものではありません。
法令・顧客要求・採用する規格等で周期が指定されている場合は、その条件を確認します。 指定がない場合も、担当者の判断で期限を延ばすのではなく、管理責任者が履歴とリスクを評価して変更を承認します。 初めて測定器を担当する人が残す当日の点検値と異常履歴は、「今これを使っていいか」の判断材料になるだけでなく、次の校正・点検計画を見直すときの資料になります。