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熱処理の基礎|焼入れ・焼き戻し・浸炭窒化の使い分けと設計への組み込み方

最終更新日 2026-06-03読了時間 約5

この記事でわかること

硬くしたいだけじゃないのに焼入れを指定している、熱処理後の寸法変化を考慮していない、どの熱処理を選べばいいか分からない。目的別の熱処理選定と設計への組み込み方を整理します。

1「硬くしたい」だけでは熱処理は選べない

部品を「硬くしたい」ときに何でも焼入れを指定するのは危険だ。焼入れは硬さを上げる一方で、脆くなる・寸法が変化する・材料によっては割れるというリスクを伴う。

熱処理は「何を目的に・どの深さまで・どの程度の硬さにするか」で使い分ける必要がある。


2主要な熱処理の目的と特徴

熱処理 目的 硬さの変化 硬化深さ
焼入れ(全体) 全体を硬くする 大(HRC50〜65) 全断面
焼き戻し(焼入れ後必須) 靭性回復・脆さ低減 やや低下
浸炭焼入れ 表面だけ硬く・芯部は粘い 表面HRC60〜65 0.5〜2mm
窒化処理 表面硬化・変寸が少ない HV800〜1100 0.1〜0.5mm
高周波焼入れ 局所的な表面硬化 HRC55〜65 1〜5mm
焼なまし 軟化・加工性向上 低下 全断面
焼ならし 組織均一化・応力除去 標準化 全断面

3各熱処理の詳細

焼入れ+焼き戻し

鋼を高温(800〜900℃)に加熱後、水・油・空気で急冷して硬化させる。焼入れ単体では脆くて使えないため、必ず焼き戻し(150〜700℃に再加熱後に冷却)とセットで使う。

  • 焼き戻し温度が低い(低温焼き戻し)→ 高硬度・まだ脆い(刃物・ゲージ類)
  • 焼き戻し温度が高い(高温焼き戻し)→ 硬度低下・靭性大(ギヤ・シャフト類)

使える鋼材: 炭素鋼(S45C以上)・合金鋼(SCM・SKD・SKH等) 使えない鋼材: SS400(炭素量が少なすぎて硬化しない)

浸炭焼入れ

低炭素鋼(S15C・SCM415など)の表面に炭素を浸み込ませてから焼入れする。表面は硬く・芯部は粘い「二層構造」になる。

  • 使いどころ: ギヤ・スプロケット・カム・ピン——衝撃荷重を受けながら表面が摩耗する部品
  • 変寸が大きい: 浸炭層の膨張・収縮で寸法が変化する。精度部品は浸炭後に研削仕上げを前提に設計する

窒化処理

500〜520℃で窒素を表面に浸透させる。低温処理のため寸法変化が極めて小さい(0.01mm以下)。

  • 使いどころ: 精密スピンドル・ゲージ・型部品——寸法変化が許されない高精度部品
  • 硬化深さが浅い(0.1〜0.5mm): 研削代を取りすぎると硬化層がなくなる。設計時に硬化層の残りしろを確保する
  • 使える鋼材: クロム・アルミ・モリブデン含有鋼(SACM・SKD61等)に効果が高い

高周波焼入れ

高周波誘導加熱で表面だけを急速加熱・急冷する。必要な部分だけを局所的に硬化できる。

  • 使いどころ: シャフトのジャーナル部・歯車の歯面・ピストンロッド
  • 変寸: 浸炭より少ないが窒化よりは大きい。重要部位は高周波後に研削仕上げを入れる

4熱処理の選定フロー

目的は何か?
│
├─ 全体を強くしたい(衝撃+摩耗)
│  → 浸炭焼入れ(低炭素鋼)
│  → 焼入れ焼き戻し(中炭素鋼)
│
├─ 表面だけ硬くしたい(寸法変化許容)
│  → 高周波焼入れ(局所)
│  → 浸炭焼入れ(全面)
│
├─ 表面を硬くしたい(寸法変化NG)
│  → 窒化処理
│
├─ 加工のために軟らかくしたい
│  → 焼なまし
│
└─ 残留応力を取りたい
   → 応力除去焼なまし

5設計への組み込み方

図面への記載

【焼入れ焼き戻しの場合】
熱処理:焼入れ焼き戻し
硬さ:HRC 40〜45(全面)

【浸炭焼入れの場合】
熱処理:浸炭焼入れ焼き戻し
有効硬化層深さ:0.8〜1.2mm
表面硬さ:HRC 58〜63
芯部硬さ:HRC 30〜40
(注)熱処理後 歯面・軸受け座 研削仕上げ

【窒化の場合】
熱処理:ガス窒化処理
窒化層深さ:0.3〜0.5mm
表面硬さ:HV 700以上
(注)窒化前に仕上げ加工。窒化後研削不可

寸法変化の対応

熱処理後の寸法変化を見越して加工する必要がある。

熱処理 寸法変化の目安 設計対応
全体焼入れ 0.1〜0.5% 精度部位は熱処理後研削
浸炭焼入れ 0.1〜0.3% 必ず研削代を確保
窒化処理 <0.01% 研削不要(ただし研削代をゼロにしない)
高周波焼入れ 0.05〜0.2% 重要部は研削代確保

6よくある失敗

失敗1:SS400を焼入れ指定する

SS400は炭素量が低く(0.25%以下)、焼入れしても硬化しない。「硬くなりませんでした」と外注先から連絡が来る。

対策: 焼入れが必要なら最低でもS45C以上を使う。

失敗2:焼入れ後に旋削加工する

焼入れ後の鋼はHRC40〜60と硬く、一般の旋削工具では加工できない。設計変更で焼入れ後に追加加工が必要になると大問題になる。

対策: 熱処理の前後の加工工程を設計段階で整理する。「熱処理前に加工→熱処理→研削のみ」が原則。

失敗3:薄肉部品を焼入れする

薄肉・急激な断面変化のある部品を焼入れすると、急冷時の温度差で割れが発生する。

対策: 薄肉部品には窒化・浸炭(低ひずみ処理)を選ぶ。全体焼入れが必要なら焼割れ防止のための形状見直しを行う。


7社内で説明するときの言い方

上司・設計者に対して: 「この部品は高精度で窒化後に研削できないので、寸法変化の少ない窒化処理を選びます。ただし窒化層が薄いので設計硬化深さを図面に明記します。」

外注先・熱処理業者に対して: 「浸炭焼入れ後に軸受け座をΦ30h6に仕上げる研削加工があります。研削代として片側0.15mm残してください。」


8まとめ

  • 全体強化 → 焼入れ焼き戻し(S45C以上)
  • 表面硬化・衝撃あり → 浸炭焼入れ(低炭素鋼)
  • 精密・寸法変化NG → 窒化処理
  • 局所硬化 → 高周波焼入れ
  • 熱処理後の寸法変化を設計に織り込む

次のステップ:

👷

この記事の執筆者

seigitech 編集部

生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。