ノギスで測り直すたびに値が変わっても、その場で「部品が不良」「測る人の腕が悪い」とは決められません。 まず確かめるのは、同じ部品の同じ箇所を、同じ測り方で測っているかです。 測る位置を変えた結果と、同じ位置で測り直した結果が混ざると、何を見直せばよいのか分からなくなります。

ここでは、機械から取り外した部品の外側寸法をノギスで測る場面を対象に、確認と記録の進め方を示します。 回転中の軸など、動いている機械にノギスを当てる作業は対象外です。 内径、溝幅、段差、深さは当て方が異なるため、外側測定の手順をそのまま流用しないでください。

合否を出す前に、測る箇所を一つに決める

最初に、図面のどの寸法を調べるのかを確認し、部品の向きと測定位置を写真か簡単なスケッチで示します。 「幅を測る」だけの指示では、端に近い位置か中央か、面取りを避けた位置かが人によってそろいません。 図面の指示や検査手順が読み取れないときは、自分で決めずに設計・品質担当へ確認します。

図面から、許される寸法の上限と下限を確認します。 範囲の読み方に迷う場合は公差と嵌め合いの基礎を参照してください。 ただし、図面の許容範囲が分かっても、測り方が安定しないまま都合のよい値だけを採って合格にはできません。 合否が変わりそうな結果が出たら、社内の手順に沿って判定をいったん保留し、測定条件とあわせて品質担当へ相談します。

ノギスの状態を確認してから、当て方をそろえる

ジョウは、部品を挟む測定部分です。 使用前に、測定面の汚れ、スライダの動き、がたつき、ジョウの傷みを確認します。清掃や点検の方法は、使用機種の取扱説明書に従ってください。 閉じたときにゼロを示すかも確認します。 傷みや動きの異常が見つかったら、ゼロ表示だけ合わせて使い続けず、測定器の管理担当へ渡します。

ミツトヨのノギス使用ガイドでは、外側測定の誤差要因として、過大な測定力、斜めの挟み方、ジョウ先端付近での測定を挙げています。 強く挟めば正確になるわけではありません。 部品と測定面を適切に接触させ、その姿勢を保ったまま読み取ります。 アナログ目盛は正面から読みます。

次の表は、原因を切り分けるための順番の提案です。 使用の可否や清掃方法の判断は、機種の取扱説明書と社内の測定器管理手順を優先してください。

確認すること そろえる内容 そろわない場合の相談先・論点
測定器 管理番号、点検・校正の状態、外観と動き 測定器の管理担当へ、このまま使い続けてよい状態か
測定箇所 同じ部品、位置、方向、測定する面 設計・品質担当へ、図面要求をどの位置で測るか
当て方 ジョウの接触位置、傾き、力のかけ方 指導担当へ、承認された測定方法との違い
読み取り 部品を保持した姿勢、目盛を見る方向 自分で確認、値を読む前後で位置が変わっていないか

同じ位置の測り直しと、位置を変えた測定を分ける

同じ位置を測り直すときは、その都度いったん部品からジョウを離し、同じ方法で当て直した値を1回ずつ順番に残します。 部品を挟んだまま表示だけを読み直す記録とは、確認している動作が違います。 何回繰り返すか、どこまでのばらつきなら使ってよいかは、検査の目的と社内手順で決めるもので、一律に何回で十分とは言えません。

位置を変えて調べるときは、同じ位置の反復とは別の行に記録します。 位置によって値が変わったというだけで部品形状の不良と確定せず、当て方や測定方法が適切かも確認します。 別の人にも測ってもらう場合は、先に測定位置と手順を共有してから比べます。

以下は、相談に使う記録欄の例です。 実測結果や、統計的な合否基準を示したものではありません。

部品識別 位置・方向 測定器・測定者 測定順 測定値と単位 当て直し・変更点
[番号] [写真の位置A・幅方向] [管理番号・氏名] [順番] [読み取った値・mm] [同じ方法で当て直し]
[同じ番号] [写真の位置B・幅方向] [管理番号・氏名] [順番] [読み取った値・mm] [位置だけ変更]

条件を変えて値が安定したときも、変更前の値を消さずに残します。 平均値だけにすると、当て直しごとにどれだけ振れたのか、合否の境界をまたいだのかが見えなくなります。 平均を採用するかどうかは検査方法として決めることであり、ばらつきを隠すための処理には使いません。

表示の細かさだけで、測定の確かさを決めない

最小表示量は、デジタル表示が変わる最小の刻みです。 細かく表示されることと、その寸法を同じ細かさで正しく判定できることは別です。 使用している型番の精度仕様と、測定方法をあわせて確認します。

ミツトヨの精度表記に関する案内では、対象のノギスについて、外側測定の誤差と、内側・深さ・段差などの測定を対象とするシフト誤差を区別して表記しています。 対象はJISマーク制度対象製品を除くノギスで、2021年7月の工場出荷分からの変更として告知されたものです。 同じ測定器でも、どの測定に対する仕様かを読み分ける必要があります。 この案内は2021年時点の告知なので、いま使っている型番の取扱説明書や仕様資料を確認する入口として使ってください。

繰り返し測って値がそろっても、それだけで正しい値だと確認できたことにはなりません。 逆に、部品の形状や求められる公差に対して、ノギスでは判断が難しい場合もあります。 測定器を買い替える前に、測定方法と必要な確かさ、基準器による確認の要否を品質担当と検討します。

解決しないときは、数値と確認した範囲を渡す

相談するときは「何回測っても値が違います」だけで終えず、図面の対象寸法、部品識別、測定位置の写真、ノギスの管理番号、反復ごとの値を添えます。 清掃・点検の結果と、誰が何を変えて測ったのかも書き添えます。

たとえば「同じ位置を同じ方法で当て直しても値がそろわない。位置を変えた測定は別表にまとめた。合否の確定は保留している」と伝えれば、どこまで確認済みかが相手に伝わります。 これは報告文の書き方の例であり、特定の原因を断定するものではありません。

繰り返し行う検査で測り方をそろえる必要があれば、検査治具と測定方法の設計へ進みます。 測定結果を工程能力の評価に使う前にも、測定側のばらつきを確認してください。