「軸が穴に入らない」「がたつきがひどい」——嵌め合いの設計ミスは組立工程での手戻りと製品不良の原因になる。設備設計において穴と軸の関係を「なんとなく」で決めていると、後工程で組付けや機能の問題につながり得る。本記事では、JIS B 0401(寸法公差及びはめあい)に基づく公差と嵌め合いの基礎概念から、軸受設計や熱膨張対応まで、実務で直面する判断を数値例付きで解説する。


公差とは何か:基本用語の整理

公差域の概念図(例:φ50H7)

最大許容
寸法
50.025 mm(+0.025)
上の寸法
許容差 ES
← 公差域 0.025 mm(当該寸法の許容範囲)→
基準寸法
(最小許容)
50.000 mm(±0)
下の寸法
許容差 EI
公差 T = ES − EI = 0.025 − 0 = 0.025 mm(H7 穴の場合、EI = 0 が特徴)

公差の議論を始める前に用語を整理しておく。JIS B 0401-1:2016はサイズ公差・サイズ差とはめあいの基礎、-2は公差クラスの表を扱う。本記事は三木プーリの用語解説(2016版抜粋)とメーカー表を使い、従来の図面で見かける「基準寸法」「寸法公差」という呼び方で説明する。規格全文の逐条解説ではない。図面の線・寸法を読めることを前提に、記号→寸法限界→すきま計算→使用条件→測定方法の順に確認する。

基準寸法(呼び寸法)は許容差を加減する基準の値で、製造時に狙う寸法と同じとは限らない。「φ50の穴」であれば50mmが基準寸法となる。

上の寸法許容差(ES/es)は基準寸法からの上限のずれ量だ。穴の場合は大文字ES、軸の場合は小文字esで表す。

下の寸法許容差(EI/ei)は基準寸法からの下限のずれ量だ。穴はEI、軸はei。

寸法公差(T)は上の許容差と下の許容差の差で、公差域の幅を示す。T = ES − EI(穴の場合)。

公差域は最大許容寸法と最小許容寸法の間の範囲だ。この範囲は当該寸法の要求であり、形状・姿勢・表面状態などを含む部品全体の合格を保証しない。測定結果の不確かさと合否の判定方法も決めておく。

具体的な数値例を示す。「φ50H7」の穴の場合、JIS規格から ES = +0.025mm、EI = 0mm が定まる。つまり穴の合格範囲は 50.000〜50.025mm だ。公差域の幅は 0.025mm(= 25μm)となる。

図面の公差記号を読めるようになる基礎は機械図面の読み方・書き方でも解説している。


嵌め合いの3種類と選定基準

3種類の嵌め合い比較

すきまばめ
最小すきまは0以上
手で組めるかは形状・表面・温度等も確認
用途例:スライドピン・ガイドブッシュ(条件を確認)
代表:H7/g6、H7/f7
中間ばめ
すきま・しめしろどちらも起こりうる
寸法ばらつきにより結果が変わる。精密位置決めに使う
用途例:ノックピン・位置決めピン
代表例:H7/k6
しまりばめ
穴の最大径 ≦ 軸の最小径
材質・しめしろ・形状に合う組付け方法を選ぶ
用途例:ギア・プーリーボス(保持力を確認)
代表:H7/p6、H7/r6

穴と軸の組付け前の寸法限界を比較して、すきまばめ・中間ばめ・しまりばめを区別する。以下では「穴径−軸径」を符号付きの差とし、正ならすきま、負ならしめしろがあると表す。最小すきまは穴の最小径−軸の最大径、最大すきまは穴の最大径−軸の最小径で求める。

すきまばめ(clearance fit)は最小すきまが0以上になる組合せだ。限界で0になる場合も含む。スライドピンやガイドブッシュなどの候補になるが、手で組付けできるかは形状誤差・表面状態・温度・はめあい長さにも左右される。H7/g6、H7/f7などでも、必要ながた・油膜・案内精度を確認する。軸受外輪への適否は後述の荷重条件で判断する。

しまりばめ(interference fit)は穴の最大径が軸の最小径以下になる組合せだ。こちらも限界で差が0になる場合を含む。圧入・加熱や冷却を利用した組付けなど、材質・しめしろ・形状に合う方法を選ぶ。H7/p6、H7/r6などが候補だが、寸法区分によって分類が変わる組合せもあるので表の注記まで確認する。ギアやプーリーの保持力・伝達トルク、部品を傷めない取外し方法は、公差記号だけでは決まらない。

軸にプーリーやギアを取り付ける場合の固定方式は、止めねじ・キー・摩擦締結具を含む比較で整理している。

中間ばめ(transition fit)はすきまになる場合もしまりになる場合もある中間的な組み合わせだ。寸法のばらつきによって結果が変わる。ノックピン、位置決めピンなど「精度よく固定するが、分解も必要」な部位に適する。H7/k6などが候補になる。呼び寸法ごとの限界値と、組付け・取外しの条件を確認する。

選定の判断軸をまとめると以下のとおりだ。

  • 分解・交換を重視する場合は、必要なすきまと取外し方法を確認する
  • 位置決めを重視する場合は、すきまだけでなく形状・位置の要求も確認する
  • 摩擦で保持・トルク伝達する場合は、しめしろ・接触圧・負荷・強度を確認する

穴基準と軸基準:どちらを使うか

JISの嵌め合い方式には穴基準(hole basis)と軸基準(shaft basis)の2つがある。

穴基準は穴の位置記号をH(下の許容差 = 0)とし、H7などの公差クラスを選んで、軸側の公差域クラスを変えることで嵌め合いの種類を選定する方式だ。「H7/g6」のHが穴基準を示す。穴基準が広く使われる理由は穴の加工の難しさにある。穴はドリル・リーマ・ボーリングといった工具が必要で、軸に比べて精密な調整が難しい。一方、軸(丸棒)は旋削や研削で微妙な寸法調整がしやすい。したがって穴を固定して軸で合わせるほうが実際の製造では合理的なのだ。

軸基準は軸の位置記号をh(上の許容差 = 0)とし、h6などの公差クラスを選んで、穴側を変える方式だ。例えば次のような条件で検討する。

  • 市販の鋼棒・精密シャフト(h6・h5仕上げで購入)をそのまま使う場合
  • 1本の軸に複数の穴部品(異なる嵌め合い)を組み付ける場合(軸を共通化できる)
  • 細い軸の寸法変更が困難な場合

穴基準を出発点にしても、購入品の寸法・加工方法・工具・互換性を比較して方式を決める。上の例だけが軸基準を採用できる条件ではない。材質の選定が嵌め合い設計に影響するケースは材料選定の基礎も参照されたい。


公差記号(H7/g6など)の読み方

「H7/g6」のような公差記号は2つの情報を持つ。

文字(位置記号)は公差域の位置を指定する。大文字は穴、小文字は軸で、Hは穴の下限が基準寸法に一致(EI = 0)、hは軸の上限が一致(es = 0)する。文字の並びを「基準寸法からの距離が増える順」と覚えず、符号を含む上下の許容差を表で読む。

数字(IT等級)は基準寸法の区分と組み合わせて公差幅を決める。H7やg6のように文字と等級を合わせたものが公差クラスだ。同じ寸法区分なら小さい等級ほど狭い幅になるが、「IT7なら何mm」と寸法を無視して値を決めない。必要機能と加工・検査能力から選ぶ。

例えばφ50 H7/g6は、①穴H7と軸g6を別に読み、②50mmを含む「30mmを超え50mm以下」の公差値を選び、③µmをmmへ換算して50mmに加減し、④穴の最小径−軸の最大径、穴の最大径−軸の最小径を計算する。メーカー表では行をさらに分割している場合があるので、50mmを「50mm超」の行へ入れない。

代表的な嵌め合い組み合わせの実用早見表を示す。対象はφ50mmの例であり、用途欄だけで機能を保証する選定表ではない。

組み合わせ 穴の範囲(mm) 軸の範囲(mm) すきま(+)/締め代(−)の範囲 用途
H7/f7 50.000〜50.025 49.950〜49.975 +0.025〜+0.075 ゆるいすきまばめ(スライド)
H7/g6 50.000〜50.025 49.975〜49.991 +0.009〜+0.050 精密すきまばめの例
H7/k6 50.000〜50.025 50.002〜50.018 −0.018〜+0.023 中間ばめ(ノックピン)
H7/p6 50.000〜50.025 50.026〜50.042 −0.042〜−0.001 しまりばめ(圧入)

上表の数値は三木プーリのはめあい公差一覧表で該当する穴H7と軸f7/g6/k6/p6を照合できる。例えばg6の許容差は−9/−25µmであり、h6の0/−16µmとは異なる。規格を発注・検査条件に使う場合は、採用するJIS B 0401-2:2016(JSA・有料)と図面要求を確認する。


軸受の嵌め合い設計

転がり軸受の嵌め合いは、誤った選定が軸受の早期破損に直結するため、慎重な設計が必要だ。

確認するのは軌道輪に対するラジアル荷重方向の相対回転だ。軌道輪に対して荷重方向が回る側は、はめあい面のクリープを防ぐため、しまりばめを基本に検討する。輪の回転・静止だけでは判定しない。

内輪(インナーレース)が回り、荷重方向が機械に対して一定なら、内輪は回転荷重、静止した外輪は静止荷重になる。一方、回転体の不釣合いによって荷重方向も回る場合、静止した外輪にも回転荷重が作用し得る。方向が不定・変動する荷重も別に確認する。

外輪(アウターレース)とハウジングのはめあいは、軸受外径の実際の許容差とハウジング穴の公差クラスを組み合わせて評価する。標準軸受外径を一般軸のjs6とみなし「H7/js6」と指定しない。静止荷重で外輪の軸方向移動を許す条件と、回転荷重・衝撃荷重を受ける条件では選定が異なる。

NTN総合カタログ「7. はめあい」§7.3・表7.2では、軸受形式・精度等級・軸径・荷重区分、鋼製中実軸やハウジング材質などの適用条件を分けている。「φ50だからk5かm5」「衝撃ならn5〜p5」と一律には決めず、該当する欄と注記を選ぶ。型式、動等価ラジアル荷重と基本動定格荷重の関係、温度、表面状態を選定記録に残す。

しめしろを増やし過ぎると軌道輪の応力増加や内部すきまの減少を招くため、必要なしめしろだけでなく上限側も確認する。非分離形軸受の自由側で軸方向に移動させる構成、組付け・取外しの方法、軸方向固定は一緒に検討する。NSK「はめあいとすきま」も負荷・粗さ・運転温度と内部すきまの関係を説明している。


温度・材料による嵌め合い変化

設計時点では適切な嵌め合いであっても、運転中の温度変化によって締め代やすきまが変化することがある。

寸法の自由熱膨張を計算する式は次のとおりだ。穴と外輪それぞれの変化を計算し、その差からしめしろの変化を考える。

ΔL = α × L × ΔT
  • α:線膨張係数(m/(m·K))
  • L:基準寸法(m)
  • ΔT:温度変化(K)

線膨張係数は材種・温度域に対応する値を確認する。以下は、径80mmのアルミ系ハウジングと鋼系外輪について、両方が一様に80K上昇し、自由膨張すると仮定した計算例だ。説明用にαを23.5×10⁻⁶/Kと11.7×10⁻⁶/Kと置く。SS400の値を実際の軸受鋼にそのまま適用したものではない。式のLをmmで入れればΔLもmmになる。

  • ハウジング穴の膨張:80 × 23.5 × 10⁻⁶ × 80 = 0.15040mm
  • 外輪外径の膨張:80 × 11.7 × 10⁻⁶ × 80 = 0.07488mm
  • 自由寸法の差:0.15040 − 0.07488 = 0.07552mm(約0.076mm、しめしろが減る方向)

初期しめしろを仮に0.050mmとすれば、この単純計算では差を吸収できない。ただし実機は両部品の温度が同じとは限らず、接触圧による変形や肉厚の影響もある。実際の材料・各部温度を使い、残るしめしろ、応力、軸受内部すきまをメーカーの方法で再評価する。初期しめしろを一律に増やせばよいわけではない。

止め輪・肩・ナットなどの軸方向保持は、軸方向荷重や脱落への対策だ。はめあい面での円周方向のクリープを防ぐ設計の代わりにはならない。固定側と自由側の役割、保持部の強度も分けて確認する。


現場での測定と合否判定(まとめ)

設計した公差を現場で確認するには、測定工具と測定方法の選定が欠かせない。

ノギスの読取り単位は型式による。ミツトヨの説明ではアナログ0.05mm・0.02mm、デジタル0.01mmの例がある。IT等級だけで使用可否を決めず、対象寸法の公差幅、機器仕様、当て方・測定力・測定位置を含めて判断する。

マイクロメータも型式と測定範囲を選ぶ。例えばミツトヨのMDC-25〜100MXの最小表示量は0.001mmだが、これが測定誤差の上限を意味するわけではない。外側用で穴の内径を直接測るのではなく、内径マイクロメータやボアゲージなど、必要な位置・方向を測れる機器を選定する。

限界ゲージ(栓ゲージ・リングゲージ)は、通り側・止まり側で所定の限界を確認する方法だ(渡辺精密工業の通止リングゲージ説明)。寸法値を直接記録する測定とは役割が異なる。量産での作業時間、必要な記録、ゲージの管理・摩耗、数量を含めて選び、「量産なら最も効率的」「±0.01mm以下なら費用が高い」と一律に決めない。

三次元測定機(CMM)は幾何公差を含む複合的な測定が必要な場合に使う。精密部品の初物確認や品質問題の調査に活用する。

現場での合否判定チェックリストをまとめる。

  • 表示分解能だけで合否を決めず、偏り・繰返し性・作業者間の差・温度などを含む測定能力と判定方法を公差幅に照らして確認する。ゲージR&Rはその評価の一部であり、分解能比だけの保証にしない
  • 校正結果・使用中の点検・損傷や摩耗を確認し、校正周期を用途と安定性に合わせて管理する。期限内という情報だけで測定結果を保証しない
  • 寸法の基準温度20℃に対し、部品・工具の温度を安定させる。別の温度で測る場合は材種の膨張係数による補正と、その不確かさを評価する。同温度にするだけで熱影響がなくなるとはしない
  • 穴の真円度・テーパに問題がないかを複数方向で確認する
  • しまりばめの圧入前に締め代計算書と実測値を照合する
  • アルミ×鉄など異種材料の嵌め合いでは温度変化の影響を評価済みであることを確認する
  • 軸受嵌め合いはメーカー推奨値との照合を記録として残す

分解能と測定不確かさは別の概念である(BIPM VIM・表示器の分解能、測定不確かさ)。温度と校正周期の考え方はNISTの寸法計測FAQも参照できる。

受入検査のフロー全体については設備受入検査の実務も参照されたい。