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設備導入中級2026-05-30

設備受入検査の進め方|FAT・SAT・量産承認の全手順

工場立会検査(FAT)から設置確認(SAT)・量産承認まで、設備受入検査の全フローと実務チェックポイントを解説。

「設備が入ったのに、何を確認すればいいかわからない」——初めて受入検査を担当する若手エンジニアが一番戸惑うのはこの感覚だ。メーカーは「検査してください」と言うが、何をどの順番で見ればいいか、手順書には書いていないことが多い。

受入検査を適当に済ませると「量産が始まったら不良が続出した」という事態に直結する。メーカーはすでに次の仕事に移っており、対応は後回し。現場は不良対応で疲弊し、立上げ担当者は板挟みになる。受入検査は、そうした事態を未然に防ぐための「最後の砦」だ。この記事では、FAT・SAT・量産承認の3ステップで何を・なぜ・どう確認するかを実務目線で解説する。

受入検査とは何か|なぜ3段階に分けるのか

受入検査とは、新規設備を量産ラインに組み込む前に、仕様通りに動くことを段階的に確認するプロセスだ。設備導入の全体フローの中では、設備製作完了から量産立上げの間に位置する重要な関門となる。

受入検査を3段階に分ける理由は、「問題が発覚する場所」によって対処コストが大きく変わるからだ。

  • FAT(Factory Acceptance Test):メーカー工場で実施。問題があればその場で直せる
  • SAT(Site Acceptance Test):自社工場への設置後に実施。輸送・設置による変化を確認
  • 量産承認(Production Approval):実際のワークで量産条件を満たすか最終確認

メーカー工場で見つけた不具合はその日に修正できる。しかし自社ラインに搬入した後では、メーカー技術者の再派遣を手配し、設備を止めている期間が発生する。コストも時間も桁が違う。早い段階で問題を潰すほど、後工程の手戻りを小さくできる。

受入検査 3段階フロー

早い段階で問題を発見するほど、修正コストが小さい

<!-- FAT -->
<div style="flex:1;min-width:160px">
  <div style="background:#3b82f6;color:#fff;font-size:12px;font-weight:700;padding:8px 14px;border-radius:8px 8px 0 0;text-align:center">STEP 1|FAT</div>
  <div style="border:2px solid #3b82f6;border-top:none;border-radius:0 0 8px 8px;padding:14px;height:100%;box-sizing:border-box">
    <div style="color:#1e40af;font-size:11px;font-weight:700;margin-bottom:6px">工場立会検査</div>
    <div style="color:#475569;font-size:11px;margin-bottom:8px">場所:<strong>メーカー工場</strong></div>
    <div style="background:#dbeafe;border-radius:4px;padding:8px;font-size:11px;color:#1e40af">
      ・仕様書との照合<br>
      ・I/O全点確認<br>
      ・連続運転テスト<br>
      ・ドキュメント受領
    </div>
    <div style="margin-top:8px;background:#fef2f2;border-radius:4px;padding:6px;font-size:10px;color:#ef4444">問題発見 → その場で修正可</div>
  </div>
</div>

<div style="display:flex;align-items:center;padding:0 4px;color:#94a3b8;font-size:18px;align-self:center">→</div>

<!-- SAT -->
<div style="flex:1;min-width:160px">
  <div style="background:#f59e0b;color:#fff;font-size:12px;font-weight:700;padding:8px 14px;border-radius:8px 8px 0 0;text-align:center">STEP 2|SAT</div>
  <div style="border:2px solid #f59e0b;border-top:none;border-radius:0 0 8px 8px;padding:14px;height:100%;box-sizing:border-box">
    <div style="color:#92400e;font-size:11px;font-weight:700;margin-bottom:6px">設置確認・現地検査</div>
    <div style="color:#475569;font-size:11px;margin-bottom:8px">場所:<strong>自社工場(据付後)</strong></div>
    <div style="background:#fef3c7;border-radius:4px;padding:8px;font-size:11px;color:#92400e">
      ・搬入後の外観・損傷確認<br>
      ・ユーティリティ接続確認<br>
      ・ライン連携動作確認<br>
      ・現地安全確認
    </div>
    <div style="margin-top:8px;background:#fef2f2;border-radius:4px;padding:6px;font-size:10px;color:#ef4444">輸送・据付の変化を検証</div>
  </div>
</div>

<div style="display:flex;align-items:center;padding:0 4px;color:#94a3b8;font-size:18px;align-self:center">→</div>

<!-- PA -->
<div style="flex:1;min-width:160px">
  <div style="background:#22c55e;color:#fff;font-size:12px;font-weight:700;padding:8px 14px;border-radius:8px 8px 0 0;text-align:center">STEP 3|量産承認(PA)</div>
  <div style="border:2px solid #22c55e;border-top:none;border-radius:0 0 8px 8px;padding:14px;height:100%;box-sizing:border-box">
    <div style="color:#14532d;font-size:11px;font-weight:700;margin-bottom:6px">Production Approval</div>
    <div style="color:#475569;font-size:11px;margin-bottom:8px">場所:<strong>自社量産ライン</strong></div>
    <div style="background:#dcfce7;border-radius:4px;padding:8px;font-size:11px;color:#14532d">
      ・実ワーク・量産条件で実施<br>
      ・工程能力(Cpk≧1.33)算出<br>
      ・品質・製造部門の承認<br>
      ・全数または抜取り検査
    </div>
    <div style="margin-top:8px;background:#fef2f2;border-radius:4px;padding:6px;font-size:10px;color:#ef4444">合格後に量産立上げ開始</div>
  </div>
</div>
問題発見のコスト:FAT(最小)→ SAT(中)→ 量産開始後(最大)。FATで潰せる問題はFATで潰す。
項目 FAT(メーカー工場) SAT(自社工場) 量産承認(PA)
実施場所 メーカー工場 自社工場(設置後) 自社量産ライン
主体 発注側+メーカー技術者 生産技術エンジニア+メーカー技術者(立会) 生技・品質・製造部門
主な確認項目 仕様適合・I/O全点・性能測定・連続運転 据付状態・ライン連携・ユーティリティ・安全 実ワーク品質・工程能力(Cpk)・再現性
合否基準 仕様書記載の数値基準・保留事項ゼロ 現地条件での性能再確認・ライン疎通 Cpk≧1.33・関係部署全員承認

FAT(Factory Acceptance Test・工場立会検査)の進め方と確認項目

FATはFactory Acceptance Test(工場検収)の略で、設備をメーカーの工場で検査する最初の関門だ。設備仕様書に記載した要求事項を一つひとつ突き合わせる作業になる。ここで問題を見つけ切ることが、メーカーとの交渉力を保てる唯一のタイミングだ。量産が始まってからでは遅い。

事前準備

FATに持参するものを整理しておく。

  • 承認済みの設備仕様書・図面
  • 検査用ワーク(実際の製品、またはそれに準じるもの)
  • 検査成績書のフォーマット(メーカーに事前送付)
  • 合否判定基準(数値で定めたもの)

合否基準を口頭で「だいたい」と済ませると、その場では合格させてしまい、後で「聞いていた話と違う」という揉め事になる。数値で書いたものを事前に共有し、双方合意した状態でFATに臨むこと。準備不足のまま現地へ行くと、メーカーのペースで検査が進み、重要な項目を見落とすリスクが高まる。

確認項目

機械・構造面

  • 図面との寸法一致(主要箇所を実測)
  • 安全装置・インターロックの動作確認
  • ケーブル・配管の取り回しと固定状態
  • 銘板・ラベルの貼付確認

寸法を確認せずに搬入すると、ラインへの組み込み時に取付穴が合わないことがある。安全装置の動作未確認は、万が一の事故時に企業責任に直結する。

電気・制御面

  • I/Oチェック(全点確認が原則)
  • 非常停止の動作と復帰手順
  • アラーム表示と対処メッセージの内容
  • バックアップデータの取得方法確認

I/Oの一点見落としが量産ラインの停止につながることがある。特にセンサー信号の誤配線は、誤動作や設備破損の原因になりやすい。「全点確認は時間がかかる」と省略したくなるが、後から確認する方がはるかにコストがかかる。

性能面

  • サイクルタイムの実測(仕様値との比較)
  • 精度・繰り返し精度の測定
  • 連続運転テスト(設備種別・重要度に応じて4〜24時間が目安。精密機器は熱膨張や通信タイムアウトが短時間では顕在化しないため、特に長時間テストを推奨する)
  • 異常発生時の自動停止・回復動作

連続運転テストは「単発では動くのに、しばらく回すと止まる」という問題を炙り出すための工程だ。省略すると、量産開始直後の夜勤帯で設備が止まる、という最悪のシナリオを招く。

ソフトウェア・ドキュメント面

  • レシピ・パラメータのバックアップ確認
  • ソフトウェアバージョンの記録
  • 設定値ドキュメントの受領
  • 取扱説明書・回路図・パーツリストの受領確認

ドキュメントを受け取らずに搬入すると、現地でのトラブル時に「どこを見れば直せるかわからない」状態になる。FAT当日に受領し、内容を確認するのが鉄則だ。

FATで「保留」にした項目は必ず文書化し、SAT前に解消されたことを確認する条件を明記しておく。口頭での「後で直します」は証拠にならない。

SAT(設置確認・現地検査)の進め方

SATは自社工場への搬入・設置が完了した後に行う。FATをクリアした設備でも、輸送・据付によって状態が変化していることがある。「FATで合格したから問題ない」という思い込みが最も危険だ。

搬入直後に確認すること

  • 外観の損傷(輸送傷、凹み)
  • 搬入経路での衝撃履歴(衝撃ラベルがあれば確認)
  • 水平出し・アンカー固定の状態
  • 配線・配管の接続状態

損傷を搬入直後に確認しないと、後から「搬入前からあった傷か、設置後にできた傷か」の判別ができなくなる。メーカーへの責任追及ができなくなる前に、写真付きで記録しておくこと。

SAT本体の確認

FATと同様の性能確認を現地で再実施するのが基本だが、特に以下の点に注意する。

ユーティリティ接続後の動作確認

  • エア圧・電圧が仕様範囲内か
  • 排熱・排気の経路が確保されているか

メーカー工場と自社工場では電源環境や配管圧力が異なることがある。「仕様値内のはずなのに動作が不安定」という場合、ユーティリティの実測値を確認すると原因が見つかることが多い。

ライン連携の確認

  • 前後工程との搬送タイミング
  • 上位システム(MES・PLCネットワーク)との通信
  • アラームの通知先設定

ライン連携はFATでは確認できない項目だ。単体では動いても、前後工程と繋いだ瞬間にタイミングがずれることがある。設備立上げトラブルと対策でも触れているが、ライン連携まわりのトラブルはSATで早期発見できることが多い。

安全確認

  • 作業エリアの動線と設備の干渉がないか
  • 安全柵・ライトカーテンの位置が実際の作業に合っているか

SATは「FATの再確認」ではなく「現地固有の条件を検証する場」だと意識する。現地の作業環境を踏まえた安全確認は、SATでしかできない。

量産承認(PA)の基準と手順

量産承認(Production Approval、PAと略すことが多い)は、実際の量産ワークを使って「本当にものが作れるか」を確認する最終ステップだ。FAT・SATをクリアしても、実際のワークで求める品質を安定して出せなければ意味がない。

PAの進め方

  1. 条件設定:量産と同一の材料・治具・パラメータで実施する
  2. サンプル数の決定:統計的に意味のある数(最低30〜50個が目安)。ただし30〜50個は工程能力計算の統計的最低限であり、自動車部品(PPAP)や医療機器では300個以上を要求するケースもある。社内基準・顧客要求を先に確認すること。
  3. 全数検査または抜き取り検査:品質の重要度に応じて選ぶ
  4. 工程能力の算出:Cpk1.33以上が一般的な合格基準(社内基準による)
  5. 判定と記録:合否を文書化し、関係部署(品質・製造・生技)の承認を得る

「類似品でやりました」では量産時の材料ばらつきや治具の当たりを確認できない。PAは可能な限り実際の量産ワークで実施することが原則だ。

PAは生技だけで完結せず、品質部門・製造部門の承認を経ることで「ライン全体として合意した」という証拠になる。この記録が後のトレーサビリティにもなる。設備の稼働効率を定量的に見たい場合は、OEEの基礎を参照してほしい。PAと合わせてOEE目標値を設定しておくと、量産開始後の改善活動につなげやすい。

受入検査チェックリストの作り方

チェックリストは「確認した」という記録であると同時に、担当者が替わっても同じレベルで検査できる標準化ツールだ。個人の記憶や経験に頼った検査は、担当者が変わった瞬間に品質が落ちる。

良いチェックリストの条件

  • 合否が数値で判断できる:「良好」ではなく「○○±○○mm以内」
  • 確認方法が書いてある:「目視」「実測(ノギス)」「テスターで計測」など
  • 確認者のサインまたは印欄がある:責任の所在を明確にする
  • 保留事項の記入欄がある:その場で解決できなかった項目を追跡できるように

RFQの進め方の段階から仕様書に検査項目の叩き台を入れておくと、FATチェックリストの作成がスムーズになる。メーカーに「この項目を検査成績書に含めてください」と早めに伝えることで、当日の手戻りを減らせる。

よくある失敗と対策|受入後トラブルを防ぐために

受入検査の現場でよく見かける失敗パターンを整理する。自分が「やりがち」なものがないか照らし合わせてほしい。

失敗①:「FATで合格したから」と信頼しすぎてSATを省略

輸送・設置後に精度が狂うケースは珍しくない。特に精密機器や大型設備は据付後の水平確認と精度再測定が必須だ。SATを省略して量産を始め、後から「精度不良の原因は据付時のゆがみだった」と気づいても、その時点ではメーカーへの責任追及が難しくなっている。

失敗②:連続運転テストをしないまま合格にする

単発動作は正常でも、連続運転で熱膨張や通信タイムアウトが発生することがある。FATでの連続運転テストは省略しないこと。「時間がない」という理由で省略した結果、量産初日の夜間に設備が止まった、という話は実際に起きている。

失敗③:実際の量産ワークでPAをやらない

「類似品でやりました」では量産時の材料ばらつきや治具の当たりを確認できない。類似品での検証は「だいたい動く」を確認したに過ぎず、実ワークで初めて顕在化する不良が必ず存在する。

失敗④:口頭での合意だけで検査を通過させる

「あとで対応します」「次回来たときに確認します」という口頭約束は記録に残らない。保留事項はすべて書面化し、期限と担当者を明記する。口頭約束が守られなかった場合、証拠がなければ泣き寝入りになる。

失敗⑤:品質部門・製造部門を巻き込まずに生技だけで完結させる

受入検査は生技の仕事だが、「量産で使えるか」の判断は品質・製造の視点も必要だ。特にPAは関係部署の承認をセットにする。生技だけで合格にした場合、後から品質部門が「聞いていない」と異議を唱えるケースがある。

トラブル事象 見落とした検査ステップ 対策
量産開始後に精度不良が続出 SAT(据付後の精度再測定) 搬入後に水平出しと精度測定を必ず再実施する
連続運転で通信タイムアウトが発生 FAT(連続運転テスト) FATで4〜24時間(設備種別・重要度に応じる)の連続運転テストを必須条件にする
類似品でPAを通過させたが実ワークで不良 PA(実ワークによる検証) PAは必ず実際の量産ワークと量産条件で実施する
保留事項が放置されたまま量産開始 FAT〜SAT(書面による保留管理) 保留事項は期限・担当者を明記した書面で管理する
品質部門が受入内容を把握しておらず後から異議 PA(関係部署の合意形成) PAは品質・製造部門の承認をセットにして実施する

まとめ:受入検査は量産立上げへの最短ルート

受入検査は「書類を揃えるための儀式」ではない。量産で起きうるトラブルを前倒しで潰す、実質的なリスク管理の場だ。

FAT・SAT・量産承認の3ステップには、それぞれ「その場でしか確認できないこと」がある。FATでの連続運転テスト、SATでの現地ライン連携確認、PAでの実ワーク検証——どれも省略できない理由がある。初めて担当する場合は、各ステップで「なぜこれを確認するのか」を意識しながら進めると、チェックリストの項目が単なる作業ではなく「意味のある確認」になる。

手間を惜しんで省略した分だけ、必ず後で回収を迫られる。丁寧な受入検査こそ、スムーズな量産立上げへの最短ルートだ。