「設備が入ったのに、何を確認すればいいかわからない」。受入検査では、設備仕様を試験項目と合否基準へ落とし込み、誰がどの記録で次の段階を承認するかを先に決める必要がある。

確認不足を残すと、搬入後や量産開始後に不具合対応や再試験が必要になるおそれがある。この記事ではFAT・SAT・量産承認を3段階の整理例とし、試験範囲、保留事項、次工程への判断記録をつなぐ。呼称・承認者・検収条件は、各社の手順と契約で確認する。

受入検査とは何か|なぜ3段階に分けるのか

受入検査とは、新規設備を量産ラインに組み込む前に、仕様通りに動くことを段階的に確認するプロセスだ。設備導入の全体フローの中では、設備製作完了から量産立上げの間に位置する重要な関門となる。

段階を分けると、メーカー工場で確認できる仕様、据付後に変わる条件、量産条件で評価する品質を整理しやすい。各段階で確認済みの範囲と残る試験を記録する。

  • FAT(Factory Acceptance Test):メーカー工場で仕様への適合を確認。是正・再試験と搬出判断を記録する
  • SAT(Site Acceptance Test):自社工場への設置後に実施。輸送・設置による変化を確認
  • 量産承認(Production Approval):実際のワークで量産条件を満たすか最終確認

メーカー工場で是正できれば、搬入後の再派遣や設備停止を避けられる場合がある。ただし、部品手配や再設計が必要なら同日には直せない。修正内容、必要な再試験、搬出を認める条件を発注側とメーカーで合意する。

受入検査 3段階フロー

確認済みの範囲と残る試験を、次の段階へ引き継ぐ

STEP 1|FAT
工場立会検査
場所:メーカー工場
・仕様書との照合
・I/O全点確認
・連続運転テスト
・ドキュメント受領
是正・再試験 → 搬出判断
→
STEP 2|SAT
設置確認・現地検査
場所:自社工場(据付後)
・搬入後の外観・損傷確認
・ユーティリティ接続確認
・ライン連携動作確認
・現地安全確認
輸送・据付の変化を検証
→
STEP 3|量産承認(PA)
Production Approval
場所:自社量産ライン
・実ワーク・量産条件で実施
・測定系・安定性を確認
・要求された指標で評価
・品質・製造部門の承認
・全数または抜取り検査
品質判定を量産GOへ引継ぎ
FATで確認した版・条件・是正結果をSATへ渡し、品質判定と残課題を量産GOの判断へつなぐ。
項目 FAT(メーカー工場) SAT(自社工場) 量産承認(PA)
実施場所 メーカー工場 自社工場(設置後) 自社量産ライン
主体 発注側+メーカー技術者 生産技術エンジニア+メーカー技術者(立会) 生技・品質・製造部門
主な確認項目 仕様適合・I/O全点・性能測定・連続運転 据付状態・ライン連携・ユーティリティ・安全 実ワーク品質・工程能力(Cpk)・再現性
判定の基準 合意仕様・試験結果・保留処置に基づくFAT判定と搬出可否 現地条件での性能・連携・安全機能と残課題の判定 測定系・工程状態を確認し、顧客/社内基準と所定の承認者で判定

FAT(Factory Acceptance Test・工場立会検査)の進め方と確認項目

FATはFactory Acceptance Test(工場検収)の略で、設備をメーカーの工場で検査する最初の関門だ。設備仕様書に記載した要求事項を一つひとつ突き合わせる作業になる。搬出前に是正内容を詰めるための段階だが、すべての不具合を発見できる保証はない。後の是正や再試験の扱いも事前に合意しておく。

仕様の合格基準と検査方法を整理する下書きには、設備仕様書テンプレートの「検収条件」を使える。案件の要求・試験条件・確認者を記入し、承認済み仕様と対応させる。記入しただけで合意や合格を証明するものではない。

事前準備

FATに持参するものを整理しておく。

  • 承認済みの設備仕様書・図面
  • 検査用ワーク(実品、又は目的に対する代表性と適用範囲を合意した代替品)
  • 検査成績書のフォーマット(メーカーに事前送付)
  • 合否判定基準、試験条件、判定者、保留時の扱い(寸法等の数値と、停止・復帰等の期待する挙動)

合否基準を口頭で「だいたい」と済ませると、その場では合格させてしまい、後で「聞いていた話と違う」という揉め事になる。数値や期待する挙動、試験方法を記録して事前に共有し、双方合意した状態でFATに臨むこと。準備不足のまま現地へ行くと、メーカーのペースで検査が進み、重要な項目を見落とすリスクが高まる。

確認項目

機械・構造面

  • 図面との寸法一致(主要箇所を実測)
  • 安全装置・インターロックの動作確認
  • ケーブル・配管の取り回しと固定状態
  • 銘板・ラベルの貼付確認

寸法を確認せずに搬入すると、ラインへの組み込み時に取付穴が合わないことがある。安全機能は、設備のリスクと設計した保護方策に対応する試験項目で確認する。項目へのチェックだけを実機の安全検証の代わりにしない。

電気・制御面

  • I/Oチェック(全点確認が原則)
  • 非常停止の動作、リセットだけでは再始動しないこと、別の起動操作までの復帰手順
  • アラーム表示と対処メッセージの内容
  • 対象機器・設定・ソフト版を特定したバックアップと復元条件の確認

I/Oの一点見落としが量産ラインの停止につながることがある。特にセンサー信号の誤配線は、誤動作や設備破損の原因になりやすい。対象I/Oと期待する入出力、実施済み項目を対応付け、未確認項目は理由と確認段階を明記する。

性能面

  • サイクルタイムの実測(仕様値との比較)
  • 精度・繰り返し精度の測定
  • 連続運転テスト(設備種別、負荷、品種切替、温度変化、通信構成を踏まえ、時間・サイクル数・監視項目・合否基準を試験計画で合意する)
  • 異常発生時の自動停止・回復動作

連続運転では、稼働中の温度・寸法の変化や停止履歴を確認する。通信断の発生条件を調べる試験時間と、通信断後に監視が作動するタイムアウト設定時間は別である。一定時間止まらなかっただけで、すべての運転条件や異常時動作を確認したとはしない。

ソフトウェア・ドキュメント面

  • レシピ・パラメータのバックアップ確認
  • ソフトウェアバージョンの記録
  • 設定値ドキュメントの受領
  • 取扱説明書・回路図・パーツリストの受領確認

ドキュメントを受け取らずに搬入すると、現地でのトラブル時に「どこを見れば直せるかわからない」状態になる。受領する資料、版、時期、保管先を事前に定め、試験で確認した構成との一致を記録する。FAT後の修正を反映した最終版の提出期限も決めておく。

バックアップは、必要なソフト、対応版、接続機器、権限、復元手順と組にして受け取る。設備を安全に扱える条件でメーカー手順に沿って復元可能性を確認し、復元後に必要な設定・機能の再確認範囲を記録する。バックアップ形式と復元経路に制約がある例は、Siemens S7-1200の公式説明でも確認できる。

PLCのデータを受け取る際は、編集用プロジェクトと実機保存データの照合で、用途・収録範囲・実機との対応を受領票に整理できる。ファイルを開けたこと、実機と照合したこと、復元を検証したことを分けて記録するための確認項目を示している。

FATで保留になった項目は、内容、影響、担当者、期限、再試験方法、承認者を記録する。FAT判定、搬出許可、SAT完了は同じ判断ではない。安全上又は契約上、搬出前の解消が必要な項目は解消を確認する。現地でしか検証できない項目等を持ち越す場合は、その範囲・使用制限・解消段階を明記して所定の承認を得る。単に「後で直す」と言っただけで合格や搬出可とは扱わない。

たとえば製作中にセンサーを変更した場合は、変更理由・承認記録・図面/ソフト版を、影響する検出・停止・復帰の試験項目へ対応付ける。既存の変更管理表と検査成績書に同じ変更IDを残し、是正後の再判定へ引き継ぐ。

SAT(設置確認・現地検査)の進め方

SATは自社工場への搬入・設置が完了した後に行う。FATをクリアした設備でも、輸送・据付によって状態が変化していることがある。「FATで合格したから問題ない」という思い込みが最も危険だ。

搬入直後に確認すること

  • 外観の損傷(輸送傷、凹み)
  • 搬入経路での衝撃履歴(衝撃ラベルがあれば確認)
  • 水平出し・アンカー固定の状態
  • 配線・配管の接続状態

損傷を搬入直後に確認しないと、後から「搬入前からあった傷か、設置後にできた傷か」の判別ができなくなる。発見時点と状態を写真付きで記録し、メーカーや輸送担当と確認する。

SAT本体の確認

FATと同様の性能確認を現地で再実施するのが基本だが、特に以下の点に注意する。

ユーティリティ接続後の動作確認

  • エア圧・電圧が仕様範囲内か
  • 排熱・排気の経路が確保されているか

メーカー工場と自社工場では電源環境や配管圧力が異なることがある。動作が不安定な場合は、運転時の実測値と仕様範囲を照合する。原因をユーティリティだけに決めつけず、負荷や他設備の動作との関係も記録する。

ライン連携の確認

  • 前後工程との搬送タイミング
  • 上位システム(MES・PLCネットワーク)との通信
  • アラームの通知先設定

工場で相手機器を接続する統合試験や模擬信号によって、事前に確認できる連携もある。IEC 62381:2024の公開概要も、FATとは別に工場統合試験(FIT)を扱っている。工場で実機・模擬のどちらを使い、何を確認したかを残し、現地の実接続・配置・負荷で未確認の範囲をSAT等で検証する。設備立上げトラブルと対策も、現地での切分けに活用できる。

安全確認

  • 作業エリアの動線と設備の干渉がないか
  • 安全柵・ライトカーテンの位置が実際の作業に合っているか

SATは「FATの再確認」ではなく「現地固有の条件を検証する場」だと意識する。現地の作業環境を踏まえて設計時の想定と実際の保護範囲を照合する。安全評価をSATだけへ先送りせず、設計・試運転前・変更後の確認へつなぐ。

量産承認(PA)の基準と手順

ここでは量産条件での品質判定を量産承認(Production Approval、PA)と呼ぶ。実際の量産ワークを使い、承認する品種・条件・品質特性の範囲を確認する段階だ。FAT・SATをクリアしても、実際のワークで求める品質を安定して出せなければ意味がない。

PAの進め方

  1. 要求と対象の確定:顧客・社内基準の採用版、品種、品質特性、規格限界、判定者を決める。
  2. 条件と標本計画:材料・治具・設定だけでなく、時間帯・設備・工具等の想定変動を含む対象範囲を定める。試験で生産する総個数と、特性を測る個数・採取時点・群分けを区別する。個数は評価目的、求める推定精度、顧客要求に基づいて決める。
  3. 測定と工程状態の確認:測定器の分解能、偏り、繰返し・測定者間のばらつきを確認する。時系列の変化や層別を調べ、異常原因や異なる分布を混ぜたまま指数を計算しない。
  4. 品質・工程の評価:特性と分布に合う方法、ばらつきの推定方法で、要求されたCpk・Ppk等を評価する。「Cpk≧1.33」を採用する場合も、その要求と適用条件を記録する。個々の製品又はロットの合否は、別に定めた検査方法・判定基準で確認する。
  5. 判定と記録:データ、対象版、条件、推定の不確かさ、未解決事項を残し、品質・製造・生技等の所定の承認者が判定する。必要な根拠が足りなければ、試験追加や保留の扱いを決める。

30〜50個を、あらゆる工程に通じる「統計的最低限」とは扱わない。NISTの工程能力の解説でも、推定や信頼区間の条件によって標本数の説明が異なる。短時間の良品だけを集めても、量産の変動範囲を代表するとは限らない。

PAは可能な限り実際の量産ワークで実施することが原則だ。代替品を使う必要がある場合は、材質・形状・加工や組付けへの影響の代表性、確認できない範囲、追加試験と顧客/社内の承認条件を決める。

PAは生技だけで完結せず、品質部門・製造部門の承認を経ることで「ライン全体として合意した」という証拠になる。この記録が後のトレーサビリティにもなる。設備の稼働効率を定量的に見たい場合は、OEEの基礎を参照してほしい。PAと合わせてOEE目標値を設定しておくと、量産開始後の改善活動につなげやすい。

PAは「この条件なら品質が出る」という判定の記録で、量産に入る許可そのものとは分けて扱うほうが食い違いが起きにくい。人員・保全・初期流動の体制まで含めた量産GOとの関係は、量産移行の判断基準で整理している。

判断の対象を混ぜないよう、測定値の信頼性はNISTの測定システムの評価、工程のばらつきは工程能力、ロットの受入可否は抜取検査で確認する。PAの判定記録・対象条件・残課題を量産GOの入力とし、正式な移行許可を誰が出すかを決めておく。

受入検査チェックリストの作り方

チェックリストは「確認した」という記録であると同時に、担当者が替わっても同じレベルで検査できる標準化ツールだ。確認方法と判定根拠を記録すれば、担当者が替わったときにも試験条件と残課題を引き継げる。

良いチェックリストの条件

  • 合否を再現して判断できる:寸法は「○○±○○mm以内」、動作は停止・リセット・起動の期待結果を定める
  • 確認方法が書いてある:「目視」「実測(ノギス)」「テスターで計測」など
  • 確認者のサインまたは印欄がある:責任の所在を明確にする
  • 保留事項の記入欄がある:その場で解決できなかった項目を追跡できるように

RFQの進め方の段階から仕様書に検査項目の叩き台を入れておくと、FATチェックリストの作成がスムーズになる。メーカーに「この項目を検査成績書に含めてください」と早めに伝えることで、当日の手戻りを減らせる。

よくある失敗と対策|受入後トラブルを防ぐために

受入時に見落とさないよう、検査段階と対策を照らし合わせる。

失敗①:「FATで合格したから」と信頼しすぎてSATを省略

輸送・据付により支持状態や位置関係が変わる可能性を考慮し、機種別の手順と合意した受入仕様に沿って、据付状態・水平・精度などを確認します。FATの結果だけで設置後の適合を認定せず、搬入前後の記録と未解決項目を残します。責任範囲は契約と事実確認に基づいて整理します。

失敗②:連続運転テストをしないまま合格にする

単発動作の確認だけでは、連続運転時の温度変化や通信の問題を十分に確認できない場合がある。対象機種・負荷・運転期間に合う試験をFATとSATへ割り当て、観測する項目、合否と未実施条件を記録する。時間不足を理由に未確認条件を合格扱いしない。

失敗③:実際の量産ワークでPAをやらない

類似品で動いたことだけでは、量産時の材料ばらつきや治具との接触を検証しきれない場合がある。実ワークで現れる不具合を見逃さないよう、代替品との相違、対象条件、残る試験を確認する。

失敗④:口頭での合意だけで検査を通過させる

「あとで対応します」「次回来たときに確認します」という口頭約束は記録に残らない。保留事項はすべて書面化し、期限と担当者を明記する。合意内容と完了を確認できる記録を、発注側とメーカーで共有する。

失敗⑤:品質部門・製造部門を巻き込まずに生技だけで完結させる

受入検査は生技の仕事だが、「量産で使えるか」の判断は品質・製造の視点も必要だ。特にPAは関係部署の承認をセットにする。生技だけで合格にした場合、後から品質部門が「聞いていない」と異議を唱えるケースがある。

トラブル事象 見落とした検査ステップ 対策
搬入後の据付変化による精度不良 SAT(据付後の精度再確認) メーカー手順と受入仕様に沿って据付状態・精度を確認する
運転中に通信異常や温度による精度変化が発生 FAT/SATの運転条件・異常時試験 対象の負荷・構成・観察期間・合否を定め、履歴と必要な再試験を記録する
類似品と実ワークの差を確認できていない PA(量産条件の代表性) 実ワークを原則とし、代替する場合は代表性・限界・追加試験を合意する
保留事項が放置されたまま量産開始 FAT〜SAT(書面による保留管理) 保留事項は期限・担当者を明記した書面で管理する
品質部門が受入内容を把握しておらず後から異議 PA(関係部署の合意形成) PAは品質・製造部門の承認をセットにして実施する

まとめ:確認結果と残課題を次の判断へつなぐ

受入検査は「書類を揃えるための儀式」ではない。量産で起きうるトラブルを前倒しで潰す、実質的なリスク管理の場だ。

FAT・SAT・量産承認では、確認した版と条件、未確認の範囲、是正と承認の記録を次へ渡す。工場で再現できる試験と現地の実条件で行う試験を分け、品質判定を人員・保全等も含む量産GOへつなぐ。

試験個数・運転時間・指数の値だけで承認を決めず、要求に対して何を確認できたかを示す。保留事項は、次へ進める条件と解消を確認する人まで決めて管理する。