「MESを導入する」と決まったが、何を選べばいいかわからない

たとえば、DX推進の流れで「MES(製造実行システム)の導入を検討することになった」と依頼されたとします。

「いくつかのベンダーから提案が来ているので、比較して選定してください」

MESで扱える機能は製品や構成によって異なり、すべてを使う必要があるとは限りません。自社工場の課題と必須要件を整理し、使う範囲と費用を比較します。

この記事では、選定用に整理した10の機能例と、製品・連携・運用を比較するポイントを説明します。


選定用に整理したMESの10機能例

以下は本記事独自の選定用の整理です。ISA-95の公式な10分類や、全製品に標準搭載される機能の一覧ではありません。ISA-95は業務と製造側の活動・情報交換等を整理する規格群です。各機能を製品の標準・追加機能、設定、外部連携のどれで満たすかを確認します。

# 機能カテゴリ 内容 よく使う場面
1 生産スケジューリング 設備・人・資材の割り当てスケジュール作成 多品種・短納期工場
2 作業指示 作業者・設備への指示配布 紙の作業指示書を電子化したい場合
3 実績収集 生産数・不良数・作業時間などの収集 OEE改善・原価計算に使いたい場合
4 品質管理 検査結果記録・NG管理・SPC 検査記録の電子化・トレーサビリティ要求
5 在庫・資材管理 部品・原材料の引き当て・実績管理 ERPとの連携が必要な場合
6 設備管理 設備稼働状態の監視・アラーム管理 設備停止の原因分析がしたい場合
7 人員管理 作業者の技能・資格・シフト管理 多工程・多能工の工場
8 トレーサビリティ 製品ごとの製造履歴・部品照合 自動車・医療・食品など履歴追跡が必要な業界
9 文書管理 作業手順書・図面の配布・改訂管理 紙の手順書を廃止したい場合
10 エネルギー管理 電力・ガス・エアの消費量監視 省エネ対応・CO2削減が求められる工場

自社に何が必要かを判断する3ステップ

STEP1:解決したい業務と、必要な判断・指示を書き出す

MESは実績の可視化に加えて、作業指示や文書の配布・改訂管理などにも使われます。誰が・何を確認し・どう判断して対応するかを整理します。たとえば、次のような課題です。

  • 今日の生産実績を翌日まで集計できない
  • どのロットに問題があったかわからない
  • 設備がなぜ止まったか記録がない
  • 現場で参照する指示書の版がそろわない

STEP2:その問題が「何の機能」で解決できるか対応させる

洗い出した課題を機能例に対応させ、既存システムや運用で満たせる範囲と、不足する範囲を分けます。必要な機能数は業務・品質・顧客要求等によって変わります。機能を絞る場合も必須要件を外さず、担当者、使うデータ、受入れ条件を決めてください。

STEP3:将来の追加条件と、同じ期間の総費用を比べる

将来機能は、使う見込みと導入・追加の条件を確認します。初期費だけでなく、利用料・保守、設定・教育、版更新時の検証、データ移行等を同じ比較期間で見積もります。課金単位、契約期間、未使用時の費用、追加・解約の条件は契約によって異なるため、一律に毎年同じ費用がかかるとは決めません。


不要な機能への費用を見落とさない

検討する場面: 生産スケジューリングや文書管理を既存の仕組みで満たせる場合、MES側にも同じ機能を契約する必要があるかを確認します。未使用機能があっても、一体料金ならその機能を外すだけで費用が下がるとは限りません。

選定時に確認すること:

機能が使えることと、現場で使う目的・担当・手順が決まっていることは別です。未使用機能の数だけで削減できる金額を計算せず、費用の内訳と、その機能を外した場合の契約額を確認してください。


パッケージ選定で必ず確認する3つのポイント

ポイント①:既存設備・PLCとのデータ連携

PLC・SCADA等から自動収集する案では、メーカー名だけでなく型式・ソフトの版・通信方式、取得できる項目と周期を照合します。読み書きの権限、既存制御への影響、通信断と復旧後の欠け・重複の扱いを確認し、接続機器・設定・ライセンス・試験の作業と費用を見積もります。

接続費用は、設備ごとの通信対応、追加機器、設定・開発、試験の範囲によって変わります。接続台数と必要な作業を明示した見積もりを取り、本体ライセンスに含まれる範囲と追加費用を分けて比較します。

ポイント②:ERPとの連携方式

ERPとの受渡しは、APIかファイルかという方式名だけで工数や優劣を決めません。両者を併用する構成もあります。品目・ロット等の識別子、単位・時刻、データ量と頻度、変換、完了・失敗の確認と再送、訂正履歴を双方で合わせます。

契約前に、必要な生データと履歴をどの形式・粒度で出力できるか、利用権、出力費用、保管期間、契約終了時の取出しと移行条件も確認します。

ポイント③:カスタマイズの費用と工数

必須要件と標準仕様の差分を確認し、標準のまま使う、設定で合わせる、業務を見直す、追加開発する方法を比較します。追加開発が必要なら、作業範囲・費用・期間だけでなく、受入れ試験、保守責任、製品の版更新時の対応も見積もります。


グレーゾーン:自作かパッケージか

既存のExcelや簡易ツールを使う、パッケージを導入する、独自開発する案を比較します。拠点数だけで十分性を決めず、必要な記録・指示・共有・復旧の条件を満たすかで判断します。

選択肢 採用前に確認する条件
Excel・スプレッドシートと簡易ツール データ量・同時利用者・更新頻度、権限、版・履歴の管理と復旧を運用できるか
パッケージMES 必須機能と接続の適合、応答時間、追加費用、障害時の運用・支援を確認できるか
独自開発 独自要件への対応に加え、継続保守・セキュリティ更新・引継ぎと復旧を担えるか

「MESを入れること」を目的にせず、必要な業務をどう改善・管理するかで選びます。複数拠点へ広げる場合は、共通化するデータ定義・画面・運用と拠点固有の差を分け、追加接続・利用権・費用、担当者と再検証の範囲を確認します。


記録機能を自動車で例えると

MESの記録・分析の役割を、走行実績を記録するトリップコンピュータやドライブレコーダーに例えると理解しやすいでしょう。ただし、この比喩だけでは作業指示・文書管理等の役割までは説明できません。

  • PLC = エンジン・ブレーキを動かす制御装置(実際に設備を動かす)
  • SCADA = メーターパネル等(状態を監視し、必要に応じて操作する)
  • MES = トリップコンピュータ+ドライブレコーダー(走行実績を記録・分析する)

必要な記録がなければ、走行距離や渋滞の履歴を振り返りにくくなります。工場でも必要な実績と履歴を定め、それを既存の仕組み、MES、ほかの手段のどれで扱うかを選びます。MESという名称の製品が無いことだけで、記録ができないとは限りません。


この記事で判断できること

  • 本記事で整理した10の機能例から、自社の必須要件に必要な範囲を整理できる
  • パッケージ選定時に確認すべき3つのポイントがわかる
  • 未使用機能の費用と、既存手段・展開先を含む運用条件を比較できる

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参考資料

  • ISA:ISA-95の公開概要:活動と情報交換の整理。本記事の10項目を規格の公式一覧とする根拠にはしていません。
  • SAP:MESの概要:指示、文書、実績、品質等の機能の説明。特定製品の機能や導入効果を全製品に当てはめるものではありません。
  • Microsoft:第三者MESとの連携:特定製品における計画・実績の受渡し、APIと参照データのファイル等による連携、失敗処理の例。