工程FMEAの基本|「作れない・組めない・検出できない」を設計段階でつぶす
この記事でわかること
工程FMEA(PFMEA)の考え方と実務での進め方を解説。故障モード・影響度・発生頻度・検出難易度の評価方法、RPN計算、設計段階での改善アクションの決め方まで現場目線でまとめます。
1量産後に不良が出てから気づく、という失敗をなくしたい
新工程を立ち上げた。最初はうまくいっていたが、2ヶ月後に組立不良が多発した。原因を調べると、ある部品の挿入向きが逆になることが稀にあり、検査でも見落としていた。
「なぜ量産前に気づかなかったか」──この問いに対する体系的な答えがFMEAだ。
工程FMEA(Process FMEA / PFMEA)は、工程で起きうる失敗を事前に書き出し、影響の大きさ・起きやすさ・見つけにくさを評価して、対策の優先順位を決める手法だ。
2FMEAの基本構造:3つの評価軸
FMEAは以下の3つを数値化して掛け合わせる。
$$ RPN = S \times O \times D $$
| 評価軸 | 英語 | 意味 | 評価 |
|---|---|---|---|
| S(Severity) | 影響度 | 故障モードが発生したときの被害の大きさ | 1〜10 |
| O(Occurrence) | 発生頻度 | その故障モードが起きる頻度 | 1〜10 |
| D(Detection) | 検出難易度 | 現在の管理方法で検出できるか | 1〜10 |
RPN(Risk Priority Number):3つの掛け算。最大1000。RPNが高いほど優先して対策する。
3評価基準の目安
評価者によってバラつかないよう、社内で基準を統一することが重要だ。以下は一般的な目安。
S(影響度)
| 点数 | 基準 |
|---|---|
| 9〜10 | 安全・法規に関わる。人身事故・製品のリコールリスク |
| 7〜8 | 製品機能が失われる。顧客クレームになる |
| 5〜6 | 製品の一部機能が低下。顧客が気づくが許容範囲内 |
| 3〜4 | 外観・軽微な不具合。顧客が気づかない可能性がある |
| 1〜2 | 影響がほぼない |
O(発生頻度)
| 点数 | 基準 |
|---|---|
| 9〜10 | 頻繁に発生(10個に1個以上) |
| 7〜8 | 時々発生(100個に1個程度) |
| 5〜6 | まれに発生(1,000個に1個程度) |
| 3〜4 | ほとんど発生しない(10,000個に1個以下) |
| 1〜2 | 発生しない(類似工程での実績なし) |
D(検出難易度)
| 点数 | 基準 |
|---|---|
| 9〜10 | 現在の管理方法では検出できない |
| 7〜8 | 検出は難しく、見逃すことがある |
| 5〜6 | 人の目視検査で検出できるが確実ではない |
| 3〜4 | 工程内検査・センサで検出できる |
| 1〜2 | 自動的に検出でき、工程外には流出しない |
4PFMEAの進め方:5ステップ
工程フローに沿って「何をする工程か」を一覧にする。部品挿入・締結・溶接・検査など
「この工程で何が間違いうるか」を列挙。向き違い・欠品・トルク不足・寸法外れなど
各故障モードについて3軸を評価してRPNを出す。経験のある複数人で評価する
RPNが高いものから対策を検討。S=9〜10のものは絶対に対策する(RPNに関係なく)
対策を実施した後、S・O・Dが改善されたかを再評価して残留リスクを確認
5対策の方向:S・O・Dのどれを下げるか
RPNを下げるには、S・O・Dのどれかを下げればよい。どれを狙うかで対策の内容が変わる。
重要:Dを下げる(検出強化)は「発生してしまうことを前提にした対策」だ。 Oを下げる(発生しにくくする)対策のほうが根本的で優れている。検出強化だけに頼る対策は、検査を増やすだけでコストが上がりやすい。
6よくある失敗パターン
パターン①:RPNが低いからと放置したS=10の故障モードが事故になった
計算したRPN = 10(S=10, O=1, D=1)だったため、優先度が低いと判断して対策しなかった。実際に発生したとき、人身事故につながった。
S=9〜10(安全・法規に関わる)はRPNに関係なく必ず対策する。 RPNは優先順位の目安であり、高リスクの除外判断には使わない。
パターン②:一人で評価して楽観的な点数になった
担当者が一人でFMEAを記入したところ、O=1(ほとんど発生しない)とD=1(確実に検出できる)が多く、RPNが軒並み低くなった。量産後に複数の故障モードが実際に発生した。
FMEAは複数人(設計・生産技術・品質・現場)でレビューすることで、楽観的な評価を防ぐ。現場経験者が「実際に似た工程でこういうことが起きた」という情報を入れることが重要だ。
パターン③:FMEAを作って終わりにした
量産前にFMEAを作成してファイルに保存したが、その後の設計変更・工程変更でFMEAを更新しなかった。変更後の工程に新しいリスクが入っていた。
FMEAは「作るもの」ではなく「更新し続けるもの」だ。設計変更・工程変更・不具合発生のたびに見直す。
7社内で説明するときの言い方
- 設計レビューで:「このFMEA、S=9の項目が対策なしになっています。RPNが低くても影響度が高い故障モードは必ず対策が必要です」
- 現場へ:「FMEAは『こんな間違いが起きたら何が困るか』をあらかじめ整理したものです。現場で実際に起きたヒヤリハットを教えていただくと、発生頻度の評価が現実的になります」
- 経営層へ:「FMEAを量産前に実施することで、量産後の不良対応コストを大幅に削減できます。不良1件の対応コストは、設計段階での改善コストの10倍以上になることが一般的です」
8PFMEA実施チェックリスト
- 全工程を工程フローに沿って書き出したか
- 各工程で「何が間違いうるか」を複数パターン書き出したか
- S・O・Dの評価基準が社内で統一されているか
- 複数人(設計・生産技術・品質・現場)でレビューしたか
- S=9〜10のものは全て対策があるか(RPNに関係なく)
- 対策後のS・O・Dを再評価したか
- 設計変更・工程変更時にFMEAを更新する仕組みがあるか
9まとめ
工程FMEAは「量産後に気づく」という最悪のパターンを設計段階で防ぐツールだ。
RPN(S×O×D)で優先順位をつけ、高いものから対策する。ただしS=9〜10は絶対に対策する。対策はDを下げる(検出強化)より、Oを下げる(発生しにくくする)を優先する。
FMEAの価値は「作ること」ではなく「対策を実行して更新し続けること」にある。
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この記事の執筆者
seigitech 編集部
生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。