seigitech

工程FMEAの基本|「作れない・組めない・検出できない」を設計段階でつぶす

最終更新日 2026-06-03読了時間 約6対象:生産技術担当者、品質管理担当者、新工程の立上げを担当するエンジニア

この記事でわかること

工程FMEA(PFMEA)の考え方と実務での進め方を解説。故障モード・影響度・発生頻度・検出難易度の評価方法、RPN計算、設計段階での改善アクションの決め方まで現場目線でまとめます。

1量産後に不良が出てから気づく、という失敗をなくしたい

新工程を立ち上げた。最初はうまくいっていたが、2ヶ月後に組立不良が多発した。原因を調べると、ある部品の挿入向きが逆になることが稀にあり、検査でも見落としていた。

「なぜ量産前に気づかなかったか」──この問いに対する体系的な答えがFMEAだ。

工程FMEA(Process FMEA / PFMEA)は、工程で起きうる失敗を事前に書き出し、影響の大きさ・起きやすさ・見つけにくさを評価して、対策の優先順位を決める手法だ。


2FMEAの基本構造:3つの評価軸

FMEAは以下の3つを数値化して掛け合わせる。

$$ RPN = S \times O \times D $$

評価軸 英語 意味 評価
S(Severity) 影響度 故障モードが発生したときの被害の大きさ 1〜10
O(Occurrence) 発生頻度 その故障モードが起きる頻度 1〜10
D(Detection) 検出難易度 現在の管理方法で検出できるか 1〜10

RPN(Risk Priority Number):3つの掛け算。最大1000。RPNが高いほど優先して対策する。


3評価基準の目安

評価者によってバラつかないよう、社内で基準を統一することが重要だ。以下は一般的な目安。

S(影響度)

点数 基準
9〜10 安全・法規に関わる。人身事故・製品のリコールリスク
7〜8 製品機能が失われる。顧客クレームになる
5〜6 製品の一部機能が低下。顧客が気づくが許容範囲内
3〜4 外観・軽微な不具合。顧客が気づかない可能性がある
1〜2 影響がほぼない

O(発生頻度)

点数 基準
9〜10 頻繁に発生(10個に1個以上)
7〜8 時々発生(100個に1個程度)
5〜6 まれに発生(1,000個に1個程度)
3〜4 ほとんど発生しない(10,000個に1個以下)
1〜2 発生しない(類似工程での実績なし)

D(検出難易度)

点数 基準
9〜10 現在の管理方法では検出できない
7〜8 検出は難しく、見逃すことがある
5〜6 人の目視検査で検出できるが確実ではない
3〜4 工程内検査・センサで検出できる
1〜2 自動的に検出でき、工程外には流出しない

4PFMEAの進め方:5ステップ

PFMEA実施手順
STEP 1|工程を書き出す
工程フローに沿って「何をする工程か」を一覧にする。部品挿入・締結・溶接・検査など
STEP 2|各工程の故障モードを書き出す
「この工程で何が間違いうるか」を列挙。向き違い・欠品・トルク不足・寸法外れなど
STEP 3|S・O・DでRPNを計算する
各故障モードについて3軸を評価してRPNを出す。経験のある複数人で評価する
STEP 4|対策を決める
RPNが高いものから対策を検討。S=9〜10のものは絶対に対策する(RPNに関係なく)
STEP 5|対策後のRPNを再評価する
対策を実施した後、S・O・Dが改善されたかを再評価して残留リスクを確認

5対策の方向:S・O・Dのどれを下げるか

RPNを下げるには、S・O・Dのどれかを下げればよい。どれを狙うかで対策の内容が変わる。

Sを下げる(最優先)
設計変更で影響を根本的に小さくする。影響度は製品設計に依存するため、生産技術だけでは変えにくいことが多い
Oを下げる(発生しにくくする)
ポカヨケ・治具・標準化で誤りが起きにくくする。根本対策として最も効果的
Dを下げる(検出しやすくする)
センサ・検査機器・チェックシートで確実に検出できるようにする。発生はするが流出を防ぐ

重要:Dを下げる(検出強化)は「発生してしまうことを前提にした対策」だ。 Oを下げる(発生しにくくする)対策のほうが根本的で優れている。検出強化だけに頼る対策は、検査を増やすだけでコストが上がりやすい。


6よくある失敗パターン

パターン①:RPNが低いからと放置したS=10の故障モードが事故になった

計算したRPN = 10(S=10, O=1, D=1)だったため、優先度が低いと判断して対策しなかった。実際に発生したとき、人身事故につながった。

S=9〜10(安全・法規に関わる)はRPNに関係なく必ず対策する。 RPNは優先順位の目安であり、高リスクの除外判断には使わない。

パターン②:一人で評価して楽観的な点数になった

担当者が一人でFMEAを記入したところ、O=1(ほとんど発生しない)とD=1(確実に検出できる)が多く、RPNが軒並み低くなった。量産後に複数の故障モードが実際に発生した。

FMEAは複数人(設計・生産技術・品質・現場)でレビューすることで、楽観的な評価を防ぐ。現場経験者が「実際に似た工程でこういうことが起きた」という情報を入れることが重要だ。

パターン③:FMEAを作って終わりにした

量産前にFMEAを作成してファイルに保存したが、その後の設計変更・工程変更でFMEAを更新しなかった。変更後の工程に新しいリスクが入っていた。

FMEAは「作るもの」ではなく「更新し続けるもの」だ。設計変更・工程変更・不具合発生のたびに見直す。


7社内で説明するときの言い方

  • 設計レビューで:「このFMEA、S=9の項目が対策なしになっています。RPNが低くても影響度が高い故障モードは必ず対策が必要です」
  • 現場へ:「FMEAは『こんな間違いが起きたら何が困るか』をあらかじめ整理したものです。現場で実際に起きたヒヤリハットを教えていただくと、発生頻度の評価が現実的になります」
  • 経営層へ:「FMEAを量産前に実施することで、量産後の不良対応コストを大幅に削減できます。不良1件の対応コストは、設計段階での改善コストの10倍以上になることが一般的です」

8PFMEA実施チェックリスト

  • 全工程を工程フローに沿って書き出したか
  • 各工程で「何が間違いうるか」を複数パターン書き出したか
  • S・O・Dの評価基準が社内で統一されているか
  • 複数人(設計・生産技術・品質・現場)でレビューしたか
  • S=9〜10のものは全て対策があるか(RPNに関係なく)
  • 対策後のS・O・Dを再評価したか
  • 設計変更・工程変更時にFMEAを更新する仕組みがあるか

9まとめ

工程FMEAは「量産後に気づく」という最悪のパターンを設計段階で防ぐツールだ。

RPN(S×O×D)で優先順位をつけ、高いものから対策する。ただしS=9〜10は絶対に対策する。対策はDを下げる(検出強化)より、Oを下げる(発生しにくくする)を優先する。

FMEAの価値は「作ること」ではなく「対策を実行して更新し続けること」にある。


10関連記事

👷

この記事の執筆者

seigitech 編集部

生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。