量産後に不良が出てから気づく、という失敗をなくしたい

新工程を設計するときは、部品を逆向きに挿入できるか、その状態を検査で見つけて流出を止められるかなど、起こりうる失敗を調べる。試作がうまくいったことだけで、量産時の全条件を確認できたとはしない。

「なぜ量産前に気づかなかったか」──この問いに対する体系的な答えがFMEAだ。

工程FMEA(Process FMEA / PFMEA)は、工程で起きうる失敗を事前に書き出し、影響の大きさ・起きやすさ・見つけにくさを評価して、対策の優先順位を決める手法だ。


FMEAの基本構造:3つの評価軸

FMEAでは、工程に求める機能から起こりうる失敗と影響を調べ、必要な対策を決める。本記事は、その評価方法の一つであるRPN方式の入門として、S・O・Dを各1〜10で評価する場合を説明する。FMEA全体が掛け算だけで完了するわけではない。

RPN = S × O × D
評価軸 英語 意味 評価
S(Severity) 影響度 故障モードが発生したときの被害の大きさ 1〜10
O(Occurrence) 発生頻度 現在の予防管理を踏まえた、対象の原因による故障の起きやすさ 1〜10
D(Detection) 検出難易度 現在の検出管理で、対象の原因や故障を次工程・顧客へ渡す前に見つけられるか 1〜10

RPN(Risk Priority Number)は3つの積で、この尺度では最大1000になる。比較の手掛かりにはなるが、発生確率そのものや安全の合否ではない。低いRPNだけを理由に重大な影響を除外しない。

自動車分野のAIAG & VDA FMEAハンドブック第1版(2019年)は、RPNに代えてAP(Action Priority)で対策の優先度を扱う。実務では、顧客要求と採用する手引き・評価表の版を先に確認する。APを全業界の必須方式としたり、RPNから独自に換算したりしない。AIAGの第1版公表


評価基準をそろえる

点数の意味は、採用する評価表と対象工程に合わせてチームで統一する。以下は採点前に確認する観点で、規格や顧客指定の採点表の代替ではない。故障の影響を示すSと、原因・管理に依存するO・Dを分けて記録する。

S(影響度)

確認すること 記録する内容
誰に、何が起こるか 自工程、次工程・納入先、最終使用者への影響。機能低下、組付け不能、安全・法規への影響など
最も重い影響は何か 同じ故障モードに複数の影響がある場合、採用表に従って最も重い影響を評価する
何を変えると影響が小さくなるか 発生後の影響を変える設計・工程の変更。検査を増やしただけではSを下げない

安全・法規に関わる影響は、RPNの大小にかかわらず対策と妥当性を確認する。後述するS=9〜10の注意も重大な影響を見落とさないためのもので、具体的な点数の割当ては採用表に従う。

O(発生頻度)

確認すること 記録する内容
どの原因を評価しているか 向き違い、締結条件の設定違いなど、対象原因とそれを防ぐ現在の管理
実績の条件は比較できるか 生産数・観測期間、検出方法、材料・設備・作業条件、類似工程との差
予防管理の効果を確認したか どの原因を防ぐか、試験・工程実績などの根拠と適用条件

「発生を観測していない」と「情報を集めていない」は別で、どちらも「発生しない」の証明にはならない。 情報が不足する場合は不足点と確認担当・期限を残し、類似工程や試行結果で補う。実績がないことだけを理由にO=1〜2へ下げない。点数は対象原因と予防管理の根拠を採用表へ照らして決める。

D(検出難易度)

確認すること 記録する内容
何を、どこで見つけるか 対象原因・故障、検査位置、次工程・顧客へ渡す前かどうか
対象の不良を見つけられるか 不良の大きさ・向き・ばらつき、設備速度や環境を含む確認条件と結果
検出後にどう扱うか 停止・排除・隔離と、その動作確認。警報が出るだけで流出防止が完了したとはしない

目視・センサ・自動検査という方式名だけでDの点数は決まらない。検出管理の有効性を確認し、その証拠を採用表に対応させる。検出対象や排除条件が変われば再確認する。BoschのFMEA手引き(2012年、評価と管理の考え方 pp.29–35)


PFMEAの進め方:5ステップ

ここでは入門用に作業を5段階へまとめる。AIAG & VDAの正式な7ステップを置き換えるものではない。対象範囲・要求仕様・採用する様式と版をそろえ、設計・生産技術・品質・現場など、必要な知識を持つメンバーで進める。

PFMEA実施手順
STEP 1|工程を書き出す
工程フローと工程番号をそろえ、「何を、どの要求どおりに行うか」を書く。部品挿入・締結・溶接・検査など
STEP 2|失敗と影響・原因・現管理をつなぐ
要求を満たさない状態(向き違い・欠品など)から、影響と原因を区別し、現在の予防管理・検出管理を対応づける
STEP 3|根拠をもとに評価する
影響・原因・現管理を根拠にS・O・Dを評価。RPN方式なら積を計算し、AP方式なら採用表で確認する
STEP 4|対策を決める
重大な影響をRPNだけで除外せず、採用方式で対策を判断。対策内容・担当者・完了期限・効果の確認方法を決める
STEP 5|実施結果を確認して更新する
実施日・確認結果・証拠を残してS・O・Dと残留リスクを再評価。管理計画・作業標準・検査基準の版にも反映する

工程と評価根拠をつなぐ記入例

以下は説明用の仮想例で、実際の不良や対策実績ではない。端子挿入工程の一つの故障モードを、表の上から下へつないで読む。

項目 記入例・確認内容
工程・機能/要求 工程10:端子を指定向き・指定位置へ挿入する。要求は図面と組立仕様の該当版を参照
故障モード 端子の向きが逆になる
影響 後工程で嵌合できない。出荷後の影響も製品機能から調べ、確認できた最も重い影響でSを評価
原因 治具が逆向きでも端子を受け入れ、向きを取り違えて装填できる
現在の予防/検出管理 予防:向きの作業表示。検出:挿入後の目視確認。各管理の有効性と実績を確認してO・Dを評価
評価と対策 採用表の版とS・O・Dの根拠を記載。逆向きでは着座しない治具と、挿入後の向き検査を検討し、予防・検出の役割を分ける
担当・期限 設備担当A:治具の試作・確認を試行開始前まで。品質担当B:検査と排除の確認を量産判定会まで。実務では氏名と日付を確定する
実施・再評価 逆向きや対象ばらつきで試験し、実施日・結果・残る課題を記録。効果が確かめられた項目だけ再採点し、管理計画・標準の文書IDと版を更新

この例では実績データや製品影響が確定していないため、点数を作って埋めない。未実施対策の期待値と、実施・効果確認後の評価も区別する。VDA QMCの手順解説(pp.4–6)


対策の方向:S・O・Dのどれを下げるか

目的は点数を下げることではなく、実際のリスクを小さくすることだ。対策がどこに作用するかを分け、効果の根拠がある評価だけを更新する。

S:影響を小さくする
製品・工程の変更で故障が起きた場合の影響を変える。影響が変わらなければ、予防・検出を強化してもSは下げない
O:原因の発生を抑える
原因を除く・発生を抑える管理を検討する。治具や標準化の名称ではなく、対象原因への効果を確認する
D:見逃しを減らす
対象の原因・故障を見つける管理を改善する。検出能力に加え、停止・排除など流出を防ぐ動作も確認する

原因を除く・起きにくくする対策を先に検討し、残る故障には適切な検出管理を組み合わせる。ポカヨケにも予防型と検出型があるため、導入しただけでOとDの両方を下げない。 対象不良の条件、装置の設定・保全、検出後の処置まで確認する。AIAGの予防・検出管理の説明


よくある失敗パターン

パターン①:低いRPNだけで重大な影響を除外する

計算だけの仮定例として、S=10、O=1、D=1ならRPNは10になる。ただし、積が小さくても影響度Sが小さくなったわけではない。この数値は実在事故や対象工程の採点結果ではない。

重大な影響を、RPNが低いという理由だけで除外しない。 S=9〜10の意味と必要な対策は、採用する評価表と適用要求で確認する。現在の管理の妥当性、追加対策と残るリスクの判断根拠を記録する。

パターン②:評価の根拠を確認せず点数を決める

OやDの低い点数を付ける前に、原因の発生や現在の管理に関する根拠がそろっているかを確認する。点数1の意味も採用表で確かめ、情報不足を「発生しない」「確実に検出できる」に置き換えない。

設計・生産技術・品質・現場など、必要な知識を持つ人で根拠を確認する。複数人なら偏りがなくなるとは限らない。類似工程の経験は、対象条件と記録を照合し、未確認の記憶と確認済みの実績を分けて使う。

パターン③:変更後もFMEAを見直さない

設計・工程を変更する場合は、新しい故障モードや、原因・管理への影響を調べる。変更前のFMEAを保存しただけでは、変更後のリスクを評価したことにはならない。

FMEAは「作るもの」ではなく「更新し続けるもの」だ。設計変更・工程変更・不具合発生のたびに見直す。


社内で説明するときの言い方

  • 設計レビューで:「影響度の高い項目について、適用する評価表と対策要求、現状の管理の妥当性を確認しましょう。RPNだけで対策不要とせず、判断理由と残るリスクを記録します」
  • 現場へ:「同じ工程・条件での不具合やヒヤリハットの記録を確認したいです。観測期間と件数、未報告の可能性を分け、評価の根拠に使えるか検討します」
  • 経営層へ:「量産前に故障モードと管理方法を検討し、必要な対策を決めます。費用効果は自社の対象工程と発生・流出の条件から見積もり、一定倍率の削減を前提にはしません」

PFMEA実施チェックリスト

  • 対象範囲・工程番号をそろえ、各工程の機能と要求を記録したか
  • 故障モード・影響・原因・現予防/検出管理を対応づけたか
  • 顧客要求と採用する評価表・方式・版を確認し、S・O・Dの根拠と不足情報を記録したか
  • 複数人(設計・生産技術・品質・現場)でレビューしたか
  • 重大な影響をRPNの大小だけで除外せず、対策とその妥当性を確認したか
  • 対策の担当・期限と実施日・効果の証拠を残し、S・O・Dと残留リスクを再評価したか
  • 設計・工程変更や不具合を受けてFMEAを見直し、管理計画・標準・検査基準の更新と結び付けたか

まとめ

工程FMEAは、工程の機能・要求から失敗とその影響を整理し、量産前からリスクを減らすための手法だ。

RPNは評価方法の一つで、採用方式と顧客要求を確認して使う。重大な影響を積の小ささだけで除外せず、未観測を発生なしとみなさない。原因への予防と検出管理の役割を分け、効果を確認して評価を更新する。

FMEAの価値は「作ること」ではなく「対策を実行して更新し続けること」にある。


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