振動対策で最初にやることは「振動源の特定」

設備が振動している、床に振動が伝わる——こういった問題に対して、とりあえず防振ゴムを敷いてみる、という対応をしても効果が出ないことが多い。

振動対策の成否は「どこで振動が発生していて、どこで問題になっているか」を正しく理解できるかにかかっている。

対策は大きく3つ:

  1. 振動源を弱くする(発生源対策)
  2. 振動が伝わらないようにする(防振)
  3. 振動エネルギーを吸収する(制振)

振動の基本用語

用語 意味
固有振動数 その構造が最も振動しやすい周波数(Hz)
共振 外力の振動数と固有振動数が一致したときに振幅が急増する現象
減衰 振動エネルギーが熱などに変換されて振幅が小さくなること
防振比 振動源の振動がどれだけ伝わらなくなったかの割合

共振は最も危険な状態。 減衰を無視した線形モデルでは、固有振動数と一致する正弦外力が加わり続けると、振幅が増え続ける。これは理想化したモデルの話で、実機では減衰などによって応答が変わる。設備設計では固有振動数を振動源から避けることが基本原則。


防振の設計(振動が伝わらないようにする)

防振とは、振動源と被影響側の間に「柔らかい要素(防振マウント)」を挟んで、振動の伝達を遮断すること。

防振の原理

防振効果を見るときは、何を入力とし、どこへの伝達を減らすかを決める。機械から床への防振では「加振力に対して床へ伝わる力の比」、床から機器への除振では「床の変位振幅に対する機器の絶対変位振幅の比」を振動伝達率として扱う。いずれも、伝達率が1より小さければ対象の振動伝達が低減している。ブリヂストンの防振設計解説も、この2つを分けて説明している。

以下は、対象方向の運動を質量・線形ばね・粘性減衰の1自由度系で近似し、定常的な正弦振動を受ける場合の関係。起動・停止中の応答や、機械の曲げ・ねじりを含む複数の振動モードは別に確認する。

振動数比 r = f / f0
 f:対象の加振周波数(Hz)
 f0:支持された系の対象方向の固有振動数(Hz)

0 < r < √2 のとき → 伝達率は1より大きい(増幅域)
r = √2 のとき → 伝達率は1
r > √2 のとき → 伝達率は1より小さい(防振域)

初期選定の目安: f0 を f の 1/3以下(r≧3)に置き、必要な伝達率を満たすか確認する。rだけで実機の合否は決まらない。減衰を大きくすると共振付近の増幅は抑えられる一方、防振域の伝達率は高くなるため、対象周波数・荷重・方向に対応するメーカーの伝達率曲線で評価する。Newportの基礎解説も、共振の抑制と高周波側の防振性能を分けている。

防振マウントの固有振動数の計算

f0 = (1/2π) × √(k/m)
 k:対象方向の合成バネ定数(N/m)
 m:支持質量(kg)

静的たわみ量から見積もる場合:
 自重でのたわみ δ = m×g / k なので f0 = (1/2π) × √(g/δ)
 g = 980 cm/s² を入れると
f0 ≒ 5 / √δ(Hz)
 δ:静的たわみ量(cm)
 ※ δ を mm で入れるなら f0 ≒ 15.8 / √δ

静的たわみ量が大きいほど(柔らかいほど)固有振動数が低くなる。ただし防振ゴムは、揺らしたときのばね定数が静的なばね定数より大きい(動倍率)。静的たわみから出した f0 より実際は高めに出るので、ゴムの場合はメーカーが示す動倍率や固有振動数の値で確かめる。

防振マウントの選定手順

① 振動源の振動数(Hz)を確認する
 → 回転数(rpm)÷ 60 は回転1次の周波数。噛合等の成分も別に確認する

② 必要な f0 を計算する
 → f0 ≦ f / 3 を初期目安に、必要な伝達率と減衰から確認する

③ 支持質量(kg)と重心位置を確認し、各マウントの負荷を求める

④ f0 と支持質量から必要な合成バネ定数 k を計算する
 k = m × (2π×f0)²

⑤ 各マウントの許容荷重・たわみと、起動停止・横揺れ時の安定性を確認する

⑥ 対象方向の動ばね定数・支持荷重・伝達率をカタログで確認して選定

回転1次だけが振動源とは限らない。PCB Piezotronicsの技術資料では、回転周波数15Hz・歯数22の歯車で噛合周波数330Hzを扱っている。機械の運転範囲と、実測で大きい振動成分を対応させる。複数マウントで支持する場合は、合成バネ定数と総支持質量を対応させ、1個のバネ定数に総質量を組み合わせない。各マウントは重心による荷重分担に合わせて選ぶ。

防振マウントの種類

方式名だけで固有振動数の範囲や優劣を決めず、選定する製品の支持荷重・方向・動ばね特性・減衰条件を確認する。

種類 製品ごとに確認する条件
防振ゴム(天然ゴムなど) 方向別の支持・許容荷重、ばね定数と動静ばねの関係。倉敷化工のKE形のように、方向で剛性が異なる製品もある
発泡系の防振材 材料の種類、支持面積・厚さ・面圧に対応するたわみと動ばね特性。GetznerのSylomer資料は厚さや荷重条件を分けて示している
コイルスプリング 支持荷重に対応するたわみ・ばね定数、横方向の安定性、許容変位、必要な減衰。Masonのスプリングマウントでは横方向の安定性と追加変位の余裕も仕様に含めている
エアマウント(空気バネ) 支持荷重、使用圧力・空気供給、レベル調整、方向別の伝達率。Newportの設置説明書のように、製品の供給・調整条件を確認する
粘弾性ダンパー(制振用) 対象周波数・温度での減衰特性と取付構成。マウントの固有振動数とは別に、構造へ減衰を与える効果を評価する

制振の設計(振動を吸収する)

制振とは、構造に減衰材を加えて振動エネルギーを熱に変換し、振幅を小さくすること。

制振材の貼り付け

薄い鋼板パネル(カバー・ダクト・制御盤)の対策には、制振シートで板の曲げ振動を減衰させる方法がある。

選定時に見る条件: 制振材の種類、使用温度と対象周波数、パネルや制振層の厚さ、拘束層の有無、接着状態を確認する。3Mの制振材資料も、温度・周波数に対する材料特性と、積層構成による性能を分けて示している。材料単体の損失係数を、そのまま貼付後のパネル全体の低減量とは扱わない。

効果の確認: メーカー資料の試験条件と対象パネルの条件を照合し、貼付前後で問題となる振動成分を比較する。測定位置・方向・運転条件をそろえ、必要な低減量を満たすか判断する。

動吸振器(ダイナミックダンパー)

特定の振動数で問題が起きているとき、その振動数に同調した副振動系(おもり+バネ)を追加することで主振動を抑制する。

固有振動数を合わせる:
 f_absorber = √(k_a / m_a) / (2π) ≒ f_problem

使いどころ: 特定の回転数でだけ振動する(共振点が明確)、防振で対応困難な場合。 注意: 固定同調型は、同調させた振動数の近傍で振動を抑えるが、大きく離れると効果が低下し、主系の振幅が増加する場合がある。回転数が変化する機械では、使用する振動数範囲での周波数応答を確認する。


共振を避ける設計

共振が最大のリスクなので、設計段階で固有振動数と振動源の振動数が重ならないように設計する。

固有振動数の変え方

固有振動数を上げたい 固有振動数を下げたい
部材を太くする・断面を大きくする 部材を細くする・防振マウントを柔らかくする
支持点を増やす・スパンを短くする 支持点を減らす
剛性の高い材料に変える —

上表は固有振動数を動かす方向を示す。部材を細くする、支持点を減らすなどの変更は、強度・たわみ・座屈・転倒や移動への安定性を満たす範囲で検討する。固有振動数だけを合わせず、変更後の荷重と変位が設備・支持部の許容範囲に収まることを確認する。

構造の剛性を上げて共振を避ける設計と、防振マウントを柔らかくして伝達を減らす設計は、目的が異なる。前者は問題となる曲げ・ねじり等の固有振動数を使用する加振周波数から離す。後者は支持された系の固有振動数を下げ、防振域で必要な伝達率を満たすか確認する。単に「2倍以上高い」または「1/3以下」なら設備全体が安全・良好とは判断せず、使用する回転数範囲と対象の振動モードを照合する。


起こり得る問題と確認事項

起動・停止時に共振域を通過する

防振マウントで支持した系では、起動・停止時に加振周波数が共振域を通過し、一時的に大きく揺れる場合がある。

確認事項: 共振域を通過するときの変位・荷重を確認し、加減速条件の見直しや減衰の追加を検討する。

加減速の変更は、機器メーカーが認める範囲と必要な停止性能を守って行う。共振域の通過中に生じる変位・荷重が、マウントや接続部の許容範囲に収まるか確認する。Masonの粘性ダンパーのような過渡的な大変位への対策もあるが、定常運転の防振性能とは分けて選定する。

横方向の変位で安定性を損なう

柔らかいマウントで支持するときは、横方向の変位が大きくなり、機械の安定性を損なう場合がある。

確認事項: 上下・横方向それぞれの剛性、重心位置、荷重分担から支持状態を確認する。必要に応じて過大変位を制限する機構を検討する。

横拘束を追加するときは、重心位置・荷重分担・許容変位を確認し、対象方向の防振を妨げる常時接触や剛結を避ける。例えばAMCのスナッバーは、通常時は設計空隙内の動きを許し、過大変位で拘束する構造を採る。必要な転倒・移動防止と防振の両立は、機械とマウントの条件に合わせて検討する。

精密機器へ床の振動が伝わる

CMM(三次元測定機)・精密天秤・半導体検査装置などの近くにプレス機・コンプレッサーなどがあると、床を介した振動が測定や検査へ影響する場合がある。影響は床振動の周波数・振幅と、機器の感度によって変わる。

確認事項: 設置場所の変更や振動源側の対策に加え、床から機器への伝達を減らす除振台を検討する。除振台は防振要素を介して床から台上への伝達を減らす装置であり、床から独立した基礎を意味するものではない。Newportの選定解説のように、設置場所の測定結果と除振装置の伝達率を対応させる。採否は機器メーカーの設置条件を基準に判断する。


社内で説明するときの言い方

上司・設計者に対して: 「このモーターは50Hzの振動が出るので、防振マウントの固有振動数は15Hz以下に抑えます。現状のゴムマウントは固有振動数が30Hzなので効果が不十分です。」

この説明例を使う際は、50Hzを主要な加振成分として扱えることを確認する。15Hz以下はr≧3の初期目安を満たすが、30Hzでも上のモデルでは伝達率は1未満になる。「不十分」かどうかは、対象方向・支持荷重・減衰を含む伝達率と、必要な低減量を比べて判断する。

外注先・設備メーカーに対して: 「精密測定機器の近くに設置するので、その機器のメーカーが示す許容床振動を満たせるかを確認し、満たせない場合は除振台を設計に含めてください。」

床振動の許容値をこちらで数字を決めて渡さない。 必要な厳しさは装置によって桁で違い、根拠なく厳しい値を書くと除振の費用だけが膨らむ。まず据え付ける装置の設置条件を取り寄せ、その値を基準に話す。受入れ時は、メーカー条件が床の許容値なのか、除振台上・装置上の応答の条件なのかを確認し、測定位置・方向、振動速度の実効値(RMS)などの評価指標、周波数帯と平均時間をそろえて測定結果を比較する。周辺設備や対象装置の運転状態もメーカーと確認し、測定時の条件として記録する。床の測定値を除振台上や装置上の応答と同じものとして扱わない。共通の物差しが要るときは、床振動を周波数帯ごとの振動速度で等級分けした VC 曲線(VC-A〜E など)が使われる。


まとめ:振動対策の選び方

  1. 振動源を特定する——何Hz・何方向か
  2. 共振を確認する——固有振動数と振動数が重なっていないか
  3. 対策を選ぶ——防振(マウント)か制振(減衰材)か発生源対策か

次のステップ: