ステンレスボルトの販売ページに「SUS304」と書いてあっても、それだけではボルトの引張強さや耐力は決まりません。 材質のほかに、A2-70などの強度区分、適用する製品規格、メーカーが示す値の条件を確認します。

この記事は、ボルトの強度表示と資料の探し方を材質別に整理した参照ページです。目的別の入口は次のとおりです。

  • 呼び径(M8など)と強度区分から荷重を計算する:鋼・ステンレスの規格計算
  • 材質名やメーカー名から製品資料を探す:製品資料一覧
  • 樹脂ボルトを選び直す:まず樹脂を選んだ理由と維持する条件を整理し、製品値とサイズを比較します。条件に適合するかどうかは、表示された候補と製品資料を読者自身が照合して判断します。
  • 締付トルク、必要軸力、本数や緩み対策:ボルト締結の設計と計算。樹脂ボルトでは、そこで扱う一般的な考え方に加えて、製品資料や供給元が示す締付条件・長期荷重の条件も確認します。

材質・強度区分・表面処理を分けて読む

「黒いボルト」「ステンレスのM8」のような呼び方だけでは、強度を調べるための条件が足りません。

製品に書かれる項目 表示の例 読み取れること・追加で調べること
材質 SCM435、SUSXM7、SUS316L、Ti-6Al-4V、PEEK 素材の種類。熱処理・加工・配合なども確認する
鋼の強度区分 8.8、10.9、12.9 区分に対応する機械的性質。径・形状・適用規格の条件を合わせる
ステンレスの表示 A2-70、A4-80 前半は鋼種区分、後半は強度区分。SUS材質名とは別の情報
寸法 M8×1.25、長さ25 mm ねじの呼び径・ピッチ・長さ。M8だけで強度区分は分からない
表面処理 黒染め、三価クロメート、ステンレスブラック 表面の仕様。処理名から強度区分を決めない

材質名、強度区分、表面処理は別の情報です。どれか一つだけでは強度を決められません。この記事では、以降もこの三つを分けて扱います。

例えばNBKの黒色ボルトには、SCM435・四三酸化鉄皮膜・12.9のSNS-Jと、SUSXM7・ステンレスブラック・A2-70のSNSS-BKがあります。 同じ黒色でも材質と強度区分は異なります。

ステンレスは「SUS名」と「A2-70」を別々に確認する

SUS304やSUS316は材料の種類を表します。 一方、A2-70の「A2」はオーステナイト系ステンレスの鋼種区分、「70」は強度区分です。 SUS304系ではA2、SUS316系ではA4の表示が見られますが、SUSの材質名だけでA2・A4の区分を決めず、購入するねじの仕様に記載された区分を確認します。

A2・A4の50、70、80はどの強度か

次の表に、オーステナイト系の代表的な強度区分を示します。 単位はMPaで、1 MPa = 1 N/mm²です。

強度区分の表示例 引張強さ Rm の最小値 0.2%耐力 Rp0.2 の最小値 確認する条件
A2-50・A4-50 500 MPa 210 MPa 製品がこの区分に適合するか
A2-70・A4-70 700 MPa 450 MPa 適用径・製品規格・頭部の表示
A2-80・A4-80 800 MPa 600 MPa 同上。材質名だけで80と推定しない

出典:Bossard「Stainless steel fasteners」2025-01版、p.36のボルト・小ねじ・植込みボルトの欄にある、呼び径M39以下を対象とする値です。 この表の値は、ナットの保証荷重や材料試験片の強度とは分けて読んでください。

強度区分の値には、適用する呼び径の範囲があります。 ISO 3506-1:2020の公式概要では、並目ねじM1.6〜M39、細目ねじM8×1〜M39×3を対象範囲とし、この範囲外の径でも所定の要件を満たす場合に鋼種・強度区分の表示を用いる余地があるとしています。 範囲外の径を検討するときは、採用する製品の資料で条件を確認します。 なお、Bossard資料の発行版(2025-01)と、同資料が準拠するISO 3506-1の年版は別の情報です。本記事は、この資料に掲載された値として引用しています。

引張強さは、引張試験での最大荷重を所定の断面積で割った応力です。 0.2%耐力は、0.2%の永久ひずみに対応する応力です。 どちらも応力の値であり、そのまま締結部に加えてよい荷重を示すものではありません。

A4-70とA2-70は、どちらも強度区分70です。 A2かA4かという材質側の確認と、70か80かという強度側の確認を分けます。 同じ材料組成でも加工によってねじの強度が変わる例として、BUMAX 88と109の製造工程の説明も参考になります。

ステンレスの強度が見つからないときの確認順

  1. 製品ページの「材質・仕上げ」と「強度区分」を探します。寸法表だけで終わらず、技術資料やPDFも開きます。
  2. A2-70などの表示があれば、適用規格・版と径・頭部形状の条件を照合します。
  3. 引張強さや破断荷重の表では、その値が保証値か参考値か、最小値などの条件が付くかを確認します。表の脚注も含めて読みます。
  4. 材質名だけで強度が示されていなければ、型番と使用条件を添えて供給元に確認します。素材の一般値で空欄を埋めず、未確認のまま残します。

確認先には「M8のSUSボルト」だけでなく、型番、長さ、ピッチ、頭部形状、使用温度、必要な機械的性質を伝えます。 試験成績書や適合証明が必要なら、発注前に対応可否を確認します。

A2・A4以外のステンレス

ステンレスには、マルテンサイト系のC、フェライト系のF、二相系のDもあります。 また、析出硬化系や、メーカー独自の高強度シリーズもあります。 A2・A4の表の値を、これらへ一律に当てはめることはできません。 ISO 3506-1:2020の公式概要と、採用候補の製品資料を確認します。

JIS B 1054-1:2013が基にしているのはISO 3506-1:2009で、ISO 3506-1:2020とは版が異なります。 JSAの公開プレビューで、JIS側の基になった版を確認できます。 本記事は公開概要・プレビューとメーカー資料に基づきます。規格全文は未確認です。

鋼の8.8・10.9・12.9は呼び値と最小値を区別する

鋼の強度区分には4.6、4.8、5.6、5.8、6.8、8.8、9.8、10.9、12.9などがあります。 区分名が示す呼びの値と、規格に示される最小値は一致するとは限りません。 例えば10.9の呼び引張強さは1,000 MPaですが、下表の最小値は1,040 MPaです。

強度区分・呼び径 d 引張強さ Rm の最小値 0.2%耐力 Rp0.2 の最小値
8.8、d ≤ 16 mm 800 MPa 640 MPa
8.8、d > 16 mm 830 MPa 660 MPa
10.9 1,040 MPa 940 MPa
12.9 1,220 MPa 1,100 MPa

出典:Bossard「Screws property class 4.6 to 12.9」2025-01版、p.12。

出典の8.8の行には、d ≤ 16 mmの欄は構造用ボルトには適用しない、d > 16 mmの欄は構造用ボルトではd ≥ M12とする、という脚注が付いています。 この表は一般の機械用ねじを読む入口として使い、構造用ボルトを使う場合は、該当する製品規格と採用品の資料で条件を確認してください。 また、8.8のこの径の区切りを、10.9や12.9へそのまま当てはめないでください。

表のRp0.2列は0.2%耐力です。出典資料では、4.6や5.6などは降伏点、4.8・5.8・6.8は完成ねじの規定非比例伸び応力という別の項目で示されており、同じ列に並べて比較できません。 4.8・5.8・6.8の値には、保証応力比の計算に用いる値であり、試験で確認する値としては扱わない旨の脚注も付いています。 これらの区分を使うときは、適用する規格・資料の項目名と脚注を確認します。

資料によっては、強度が応力(MPa)ではなく保証荷重や破断荷重(N)で示される場合があります。応力の最小値と荷重の値は、別のものとして読みます。

ISO 898-1:2013の公式概要は、常温で試験する炭素鋼・合金鋼のボルト、小ねじ、植込みボルトを対象としています。 対象範囲は並目ねじM1.6〜M39、細目ねじM8×1〜M39×3で、引張荷重を受けない止めねじは対象外です。 低頭・皿頭などでは頭部形状によって荷重負担能力が下がる場合があり、材質や区分が同じでも標準的な六角穴付きボルトと同じ荷重を負担できるとは限りません。

チタン・樹脂・非鉄金属は製品ごとのデータへ進む

本記事では、チタンや樹脂を8.8やA2-70に換算しません。 材料の引張強さ、完成ねじの引張破断荷重、ねじり破断トルクは、それぞれ異なるデータです。 資料の単位と対象を確認してから比較します。

材質・系統 製品で確認する表示 強度資料を読むときの要点
純チタン チタン2種、TW340など 純チタンの種類と、採用する製品の試験値を確認する
チタン合金 Ti-6Al-4V、64チタンなど 純チタンと分ける。材料値と完成ねじの値を混ぜない
アルミ合金 合金番号、調質、製品の区分 合金番号と調質まで確認する。「アルミ」という名称で共通値を置かない
黄銅・銅・銅合金 材料記号、製品仕様 材料物性だけなら、ねじの強度は別途確認する
PA・POM・PC・PP・PVC 樹脂の種類、グレード、成形品の型番 温湿度・荷重時間・形状の条件を合わせる
PEEK・PPS・RENY 無充填か繊維強化か、充填率 同じ樹脂名でも配合の異なる製品値を転用しない
PTFE・PFA・PVDF フッ素樹脂の種類、完成ねじの資料 耐薬品性の説明と締結強度を分ける
ニッケル合金・モリブデンなど 合金番号、製品型番、熱処理 耐熱材料という名称だけで高温の使用荷重を決めない

表示例には、材料の種類を示す名称と、製品シリーズを示す名称が混在します。手元の資料にある表記がどちらなのか、どのような材料を指すのかは、製品資料で確認します。

値の位置付けは脚注まで確認します。例えば、NBKの64チタン六角穴付きボルトSNSTGのPDFには、引張強さ895 N/mm²以上、0.2%耐力825 N/mm²以上と記載されています。 ただし、この表には参考値であり保証値ではないという注記があります。 「以上」という表記だけを抜き出して、購入品の保証値として扱わないでください。

樹脂ボルトについては、製品値を比べる前に、次項で選んだ理由と維持する条件を整理します。

樹脂を選んだ理由を保って、強度を見直す

樹脂ボルトの強度が足りないときは、樹脂を選んだ理由を満たせるかを先に確認します。 絶縁のために使う場合と、薬液への耐性を確保するために使う場合では、変更できる材質が違います。複数の理由があれば、すべてを条件として残します。

強度を比べる前に、次のような条件を整理します。各製品の性能は資料で確認してください。

樹脂を選んだ理由 先に確認すること 強度が足りないときの検討の進め方
電気を通したくない 必要な絶縁性能と、候補グレードの電気特性 絶縁条件を満たす製品に絞って材質・径を比較する。強化材や添加剤が変わる場合も、変更後のグレードの電気特性で確認する
磁気への影響を避けたい 装置が許容する磁気特性と、製品仕様 非磁性の条件を満たす候補から探す。ボルト単体だけでなく、座金・ナットなど併用する部品の仕様も確認する
薬液への耐性が必要 薬品名・濃度・温度・接触時間 使用条件に適合する樹脂を先に絞る。材質を変えにくい場合は、取付寸法が許す範囲で径や締結構造の見直しを検討する
軽くしたい 許容質量と取付寸法 強度だけでなく、径を大きくした後の質量や、座金・ナット・カラーなど必要な部品を含む構成で比較する

確認先の例は、NBKの電気絶縁性、非磁性、軽量化の製品案内です。 樹脂ねじ技術資料では、強度・耐熱性・耐薬品性を別々に示しています。強度の高い順が、その用途に適した順とは限りません。耐薬品性も、実際の使用条件での確認が必要です。

例えば耐薬品性を理由に材質を固定しているなら、別の樹脂へ替える前に、同じ材質で径や構造を変えられるかを検討します。 逆に、取付穴径を変えられないなら、必要な機能を満たす別グレードの資料を探します。 どちらの場合も、変更後の締結部の強度と、樹脂を選んだ理由を満たせるかを改めて確認します。径を上げるだけで解決するとは限りません。

整理した条件に照らして製品値を比べる

製品資料に数値があるかどうかは、製品によって異なります。 例えば日本ケミカルスクリューのPEEK/GF30六角穴付きボルトのように、ねじ径別の破断荷重を掲載する製品があります。 ガラス繊維を含むPEEK/GF30と無充填PEEKを同じ材料として比較せず、製品と試験条件をそろえます。 NBKの樹脂ねじ技術資料では、素材の耐熱温度とねじの使用可能温度も区別しています。

樹脂ボルトの比較ページは、製品資料にある数値の比較を補助するものです。絶縁性や耐薬品性などの適合条件で、自動的に候補を絞る機能はありません。 表示された候補が条件に合うかどうかは、先に整理した条件と製品資料を照合して判断してください。

基準にする製品と呼び径を選び、「同じ径で材質を変える」「同じ製品を太くする」「掲載値を保って細くする」から検討の方向を選びます。 このうち「掲載値を保って細くする」は、引張破断荷重とねじり破断トルクのどちらか一方を指標として選び、その指標の掲載参考値が基準品を下回らない候補のうち、径が小さいものを探す操作です。必要な荷重を入力して可否を判定するものではなく、二つの指標を同時に維持するものでもありません。 選ばなかった側の指標は下がる場合があるため、候補は引張破断荷重とねじり破断トルクの両方で確認してください。 候補は最大3件まで選び、基準品と横並びで比較できます。

比較する値は製品資料の参考値です。同じメーカーでも試験条件が同じとは限りません。 「資料値の下限」は、入力した値以上の製品を探すための検索条件であり、許容荷重や推奨締付トルクではありません。細径化の検討とは別の操作です。 長期荷重、温度、吸湿、相手ねじの条件も別途確認します。データが見つからない製品は、強度未確認として扱います。

国内の製品資料を材質から探す

別ページの製品資料一覧では、鋼・ステンレス・チタン・樹脂・非鉄金属・特殊合金の製品シリーズを、材質名やメーカー名から絞り込めます。 製品名、頭部形状、確認できた呼び径、強度データの有無と位置付け、国内の供給元へのリンクをまとめています。 標準品と受注製作品は区別しています。在庫状況や国内流通品のすべてを収録しているわけではないため、型番ごとの取扱いは供給元で確認してください。

例えば特殊合金の製品資料は、タカヤマのハステロイ製ファスナーやレアメタル受注製作の案内で確認できます。 公開ページに完成ねじの強度が載っていない場合は「資料に記載なし・要確認」と表示しています。素材の一般値から推定した数値は掲載していません。

応力と荷重の関係:M8の計算例

同じ強度区分でも、ねじ径とピッチによって荷重に対応する断面積が変わります。 ねじ部の引張を比較するときは、応力断面積 Asを使います。外径の円の面積で計算すると、ねじ溝の影響を反映できません。

説明用に、M8並目の応力断面積を約36.6 mm²、A2-70の0.2%耐力を450 N/mm²とした計算例を示します。

450 N/mm² × 36.6 mm² = 16,470 N ≒ 16.5 kN

断面積は、Fairfield大学の機械設計講義資料にある As = π/4 × (d − 0.9382p)² と、MISUMIの並目ピッチ表から計算した概算です。

16.5 kNは0.2%耐力に対応する荷重であり、加えてよい外力ではありません。 締結したボルトには締付けによる初期軸力があり、外力の増分の分担、疲労、せん断、雌ねじや座面の強度も別に検討します。

鋼・ステンレスの規格計算では、並目ねじの呼び径と強度区分を選び、計算に用いた応力断面積・強度値・出典を結果と一緒に確認できます。 チタンや樹脂の製品参考値を、この計算へ自動的に適用することはありません。 接合部の設計へ進むときは、ボルト締結の設計と計算を参照してください。

資料の確認日と適用範囲

資料確認日は2026年10月15日です。製品資料の改訂や型番変更があれば、リンク先の仕様を確認してください。 鋼・ステンレスの規格値は10〜35℃での試験を前提とするもので、高温・低温・腐食環境での使用荷重を保証する値ではありません。 個別製品の採用時には、その製品が適合する規格・版・径・形状と、供給元が保証する範囲を改めて確認してください。