seigitech

機械材料選定の基礎:鉄鋼・アルミ・樹脂をJIS記号で理解する

最終更新日 2026-06-03読了時間 約7対象:設備設計担当・生産技術エンジニア(材料初学者含む)

この記事でわかること

S45C・SS400・A5052など代表材料の特性と選定基準をJIS記号とともに実務向けに解説。

設備の部品図に「S45C」と書いてある。なぜS45Cなのか、SS400ではダメなのか——材料記号を記号として丸暗記するだけでは、この問いに答えられない。材料選定は「どれが強いか」だけでなく、コスト・加工性・環境適合性のバランスを総合的に判断する行為だ。本記事では、JIS記号の読み方から主要材料の特性、実務的な選定フローまでを体系的に整理する。


1JIS材料記号の読み方

JIS(日本産業規格)の材料記号は、頭文字の組み合わせに規則性がある。この体系を理解すると、初見の材料記号でも大まかな材質・用途を推測できるようになる。

JIS材料記号プレフィックス一覧

SS
一般構造用鋼
例:SS400
S+数字+C
機械構造用炭素鋼
例:S45C
SCM
クロムモリブデン鋼
例:SCM435
SUS
ステンレス鋼
例:SUS304
A+数字
アルミ合金
例:A5052
C / MC
エンプラ(MCナイロン等)
例:MCナイロン
POM
ポリアセタール
例:ジュラコン

数字部分の読み方にも規則がある。S45Cの「45」は炭素含有量0.45%を示し、数値が大きいほど高炭素・高強度だが溶接性は下がる。SS400の「400」は引張強さの下限値(N/mm²)だ。アルミ合金のA5052は「5000番台=Mg系合金」という番台ルールに従い、Mg添加で耐食性と強度を高めた材料であることが読み取れる。

JIS規格の正式文書はJSA Web Storeで参照できる(有料)。鉄鋼の材料記号体系はJIS G 4051(機械構造用炭素鋼)に詳述されている。


2鉄鋼材料の種類と選び方

設備部品に最もよく使われる4材種を強度・溶接性・コストの軸で比較する。

材料 引張強さ(目安) 溶接性 コスト 主な用途
SS400 400〜510 N/mm² フレーム・架台・ブラケット
S45C 570〜690 N/mm² 可(予熱推奨) シャフト・歯車・治具
SCM435 930〜1130 N/mm² 要注意 高負荷シャフト・ボルト
SUS304 520 N/mm² 以上 食品機械・腐食環境

SS400は「とりあえずの鉄」として最もコストが低く、溶接も容易だ。強度が十分でよければ、まずSS400から検討する。ただし焼き入れができないため、摺動部や高面圧箇所には使えない。

S45Cは中炭素鋼で、焼き入れ・焼き戻し処理によってHRC40〜55程度の硬さを得られる。回転軸・カム・治具プレートなど「強度と硬さが両立して必要な部品」に広く使われる。溶接は可能だが予熱が必要で、溶接前後の歪み対策が欠かせない。

SCM435はクロムモリブデン鋼で、焼き入れ後の引張強さが1000 N/mm²を超える。高トルクシャフトや高強度ボルトに使われるが、加工コストと材料費が高いため、必要強度を計算で確認してから採用する。

SUS304はオーステナイト系ステンレスで、耐食性に優れるが磁性がなく熱膨張係数が鉄の1.5倍ある点に注意。設備仕様書の材質要件については設備仕様書の書き方も参照されたい。

鉄鋼の材料規格はJIS G 3101(一般構造用圧延鋼材)で確認できる。


3アルミ合金の種類と選び方

アルミ合金は鉄に比べて比重が約1/3(2.7 g/cm³)と軽く、切削加工性が高い。設備の可動部・搬送アーム・カバー類など「軽量化が効く箇所」に積極的に使う。

材料 引張強さ(目安) 耐食性 加工性 主な用途
A1050 75〜95 N/mm² 板金・反射板・電気部品
A5052 195〜260 N/mm² 構造板・ブラケット・タンク
A6061 260〜310 N/mm² 押出形材・構造部品
A7075 500〜570 N/mm² 航空・高負荷治具

A1050は純アルミに近く、強度は低いが成形性・溶接性・耐食性が高い。強度が不要な板金部品や電気絶縁部品に使われる。

A5052はMg系合金で、アルミ板材として最も流通量が多く入手しやすい。強度と耐食性のバランスが良く、設備部品の「標準アルミ板」として広く使われる。

A6061はMg-Si系で押出加工性に優れ、アルミフレーム材(Misumi・八幡ねじ等の溝付き形材)の多くがこの材料だ。切削加工後のアルマイト処理との相性も良い。

A7075はZn系の超高力アルミで、引張強さが500 N/mm²を超える。設備部品には過剰スペックになることが多いが、軽量かつ高強度が必要な精密治具に使われる。

アルミ合金板材の規格はJIS H 4000(アルミニウム合金の板及び条)に規定されている。


4エンジニアリングプラスチックの活用

金属部品を樹脂に置き換えることで、軽量化・絶縁・騒音低減・コストダウンを同時に達成できる場面がある。ただし「樹脂だから弱い」という先入観で候補から外す前に、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の特性を正しく理解しておきたい。

材料 引張強さ(目安) 耐熱温度 特長 主な用途
MCナイロン(PA6) 80〜90 N/mm² 100〜120℃ 自己潤滑・耐摩耗 ガイド・スライダー・ローラー
POM(ジュラコン) 65〜70 N/mm² 90〜110℃ 寸法精度・低摩擦 カム・ギア・スペーサー
PEEK 100 N/mm² 以上 250℃以上 耐熱・耐薬品・高強度 高温治具・半導体設備部品

MCナイロンは自己潤滑性があり、無給油で摺動できる。金属に対して攻撃性が低く、相手材を傷つけにくい。食品機械では金属異物混入リスクを減らすために積極採用される。

**POM(ポリアセタール)**は寸法安定性が高く、精密ギアやカムなど「寸法が仕上がり精度に直結する部品」に向く。ただし塩酸・硝酸など強酸環境では使えない。

PEEKは連続使用温度が250℃を超え、強度と耐薬品性を両立する。コストは高いが、高温環境や半導体製造装置など特殊環境では代替が難しい素材だ。工程状態からの自動化設計で扱うような自動化設備でも、エンプラ活用が設備の軽量化・メンテナンス性向上につながる。


5材料選定の実務フロー

材料選定を「なんとなく」で行うと、後工程で強度不足や加工困難が発覚して手戻りが発生する。以下のフローで優先順位を付けて絞り込む。

材料選定フロー

STEP 1
強度・剛性要件の確認
引張・せん断・曲げ応力を計算
STEP 2
環境条件の確認
温度・腐食・クリーン度
STEP 3
コスト・入手性の確認
在庫品か特注か・納期
STEP 4
加工性・標準化の確認
工法適合・社内標準照合

ステップ1:強度要件の確認 まず負荷を計算する。引張・圧縮・せん断・曲げ——どの応力が支配的かを特定し、必要な引張強さ・耐力・硬さを数値で出す。「なんとなく強そう」は禁物だ。

ステップ2:環境条件の確認 腐食環境(水・油・薬液・塩分)・温度(最高・最低)・食品接触の有無を確認する。SUSやエンプラを使うべき場面がここで決まる。

ステップ3:加工・溶接条件の確認 切削・板金・溶接のどの工法で作るかによって選べる材料が変わる。溶接が必要なら高炭素鋼は避ける。精密切削ならA6061やPOMが有利だ。

ステップ4:コストと入手性の確認 SS400・A5052・POMは汎用材で在庫品が多く、価格が安定している。SCM435やPEEKは特注・長納期になりやすい。緊急対応時の代替入手経路も含めて考える。

ステップ5:社内標準との照合 多くの工場には内製部品の材料標準がある。標準外材料を使う場合は、承認フローが必要なことが多い。工程設計の基本で定めた工程条件とのすり合わせも忘れずに行う。


6コストダウンのための材料代替事例

材料代替はコストダウンの代表的な手段だが、機能・品質を損なわずに行うには根拠が必要だ。以下に実務で検討されやすい代替パターンと注意点をまとめる。

事例1:S45C → SS400(強度余裕がある箇所) シャフトや治具プレートで強度計算の安全率が3以上ある場合、SS400への代替でコストを20〜40%削減できる。ただし摺動部・焼き入れが必要な箇所は不可。切り替え前に応力計算の再確認と、現場担当者との合意が必要だ。

事例2:SUS304 → SUS430(磁気・コストが課題の場合) SUS430はフェライト系で磁性があり、SUS304より安価(概ね30〜50%程度)。耐食性は若干劣るが、軽微な湿潤環境であれば問題ない。ただし溶接部の耐食性低下に注意し、溶接が多い構造物への代替は慎重に判断する。

事例3:アルミ → MCナイロン・POM(軽量化+コストダウン) ガイドプレートやスペーサーをエンプラに変えることで、材料費と加工費を同時に削減できる。特にMCナイロンは切削加工が容易で、機械加工コストがアルミの60〜70%になる場合もある。強度・温度・化学環境の3条件を確認してから代替を決定する。

事例4:SUS304 → 防錆処理SS400(腐食が軽微な場合) 塗装・ユニクロめっき・ドブめっきを施したSS400は、軽微な錆び対策として機能する。食品接触や定期的な洗浄が必要な箇所には使えないが、機械内部の非接触部品であれば検討に値する。


7まとめ:材料選定チェックリスト

  • 負荷計算を行い、必要引張強さ・硬さの数値目標を設定したか
  • 腐食環境・温度・食品接触の有無を確認したか
  • 加工工法(切削・溶接・板金)と材料の適合性を確認したか
  • コストと入手性(在庫品か特注か)を確認したか
  • 社内材料標準と照合し、逸脱する場合は承認フローを確認したか
  • 材料代替を行う場合、安全率と機能要件の再計算を行ったか
👷

この記事の執筆者

seigitech 編集部

生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。