設備の締結部が緩むと、位置ずれや製品不良、部品の脱落につながることがあります。ボルト締結では、必要な押付け力を確保すると同時に、ボルト・雌ねじ・被締結部材へ過大な力をかけないことが重要です。本記事では、強度区分、軸力とトルク、配置、緩み対策を、この両側の条件から整理します。
ボルトの強度区分と材質の選び方
鋼製ボルトの「8.8」「10.9」などは強度区分です。小数点の前の数と後の数から、区分の基準となる呼び引張強さと、呼び降伏点または呼び耐力との比を読み取ります。名称から計算した呼び値を、そのまま各製品の保証値として使わないことが大切です。
| 強度区分 | 記号の読み方 | 呼び引張強さ (N/mm²) |
呼び降伏点・耐力 (N/mm²) |
選定時の確認 |
|---|---|---|---|---|
| 4.6 | 400 × 0.6 = 240 | 400 | 240 | 荷重と部品の役割 |
| 8.8 | 800 × 0.8 = 640 | 800 | 640 | 径・製品による規定の違い |
| 10.9 | 1,000 × 0.9 = 900 | 1,000 | 900 | 雌ねじ・座面側の強度 |
| 12.9 | 1,200 × 0.9 = 1,080 | 1,200 | 1,080 | 疲労・環境・施工条件 |
強度区分の読み方
- 小数点の前の数 × 100 = 呼び引張強さ(N/mm²)
- 小数点の後の数 ÷ 10 = 呼び引張強さに対する呼び降伏点・耐力の比
表は記号を理解するためのもので、設計用の最小値一覧ではありません。例えば三木プーリの技術資料(JIS B 1051:2000抜粋)では、10.9の引張強さは呼び1,000に対して最小1,040 N/mm²と区別されています。実際の選定では、購入する製品の適用規格・版・径・形状と、保証される機械的性質を確認します。
強度不足には、強度区分を上げるほか、径・本数・接合部の構造を変える方法があります。高い強度区分を選んでも、相手側のねじ山や座面が先に変形すれば締結は成立しません。繰返し荷重、衝撃、温度、腐食環境まで含めて判断します。
ステンレスボルトの注意点
「A2-70」ではA2が鋼種区分、70が強度区分を示します。「SUS304」という材料名だけから、完成したボルトの強度区分を決めることはできません。NBKのSNSX比較資料にはA2-70の引張強さ700 N/mm²・0.2%耐力450 N/mm²が参考値として掲載されていますが、当該資料自身も保証値ではないと明記しています。採用するボルトの仕様で確認してください。
強度区分や製品の強度データが見つからないときは、ボルトの強度区分・材質別の調べ方を参照してください。表示の読み方と資料の確認順、チタン・樹脂を含む材質別の確認先をまとめています。
ステンレスの締結では、かじりへの対策も必要です。潤滑剤や表面処理は製品・使用環境に合うものを選び、潤滑を変更したら締付条件も見直します。材料選定の考え方は機械材料選定の基礎も参照してください。
締付トルクと軸力の計算式
締付けによってボルトは引っ張られ、被締結部材は圧縮されます。接合面の摩擦を利用する締結では、この押付け力で滑りに抵抗します。締付トルクと初期軸力の関係を概算する式が、次のT = k × d × Fです。
基本式:T = k × d × F
- T:締付トルク(N・m)
- k:トルク係数(無次元)
- d:ボルト呼び径(m)
- F:締付けで与える目標軸力(N)
kはねじ面・座面の摩擦などをまとめた係数です。表面処理の名称だけで一意に決まらず、潤滑、相手材、再使用、施工条件にも左右されます。
計算例:M12ボルトを目標軸力20 kNで締める仮定
- k = 0.17(説明のための仮定値)
- d = 0.012 m
- F = 20,000 N
T = 0.17 × 0.012 × 20,000 = 40.8 N・m
これは式と単位の確認例です。黒染め・無潤滑なら常にk = 0.17になる、M12なら40.8 N・mでよい、という指定ではありません。
目標トルクは、採用する締付け方法、摩擦条件、工具精度などによる軸力のばらつきを考慮して設定します。下限の軸力で滑り・分離の条件を満たし、上限でもボルトや被締結体を損傷しないかを、対象の資料・試験で確認します。ばらつきの割合を全締結へ一律に当てはめないでください。
トルク係数を採用する前の確認
| 確認する条件 | 設計・施工で固定すること |
|---|---|
| 表面処理と相手部品 | ボルトだけでなく、ナット・座金・座面の組合せをそろえる |
| 潤滑剤・ねじロック剤 | 銘柄、塗布箇所、施工条件を指定し、乾燥状態の値を流用しない |
| 再使用と表面状態 | 摩耗・汚れ・腐食の判定と、再使用可能な条件を決める |
| 締付方法とばらつき | 対象の組合せでトルクと軸力の関係を確認し、管理範囲を決める |
NASAの締結設計資料も、トルク係数と軸力のばらつきを分けて扱っています。トルクレンチの精度だけを、そのまま軸力の精度として扱うことはできません。力学の基礎は機構設計の基礎も参照してください。
必要軸力の算出方法
まず、外力の方向と伝達経路を決めます。滑りを摩擦で防ぐ設計と、ボルト軸やピンでせん断力を受ける設計は、確認する部位が異なります。
せん断外力に対する必要軸力(摩擦締結の簡略モデル)
接合部が開かず、各ボルトが同じ残留押付け力を与え、対象とする摩擦面で荷重を分担する場合は、次の関係で滑りを確認できます。
Fmin ≥ Q × S / (μ × n × m)
- Fmin:使用時に残る、ボルト1本あたりの最小押付け力(N)
- Q:接合面に作用するせん断外力(N)
- S:この照査で採用する安全率(無次元)
- μ:対象接合面の滑りに対して採用する摩擦係数(無次元)
- n:荷重を分担するボルト本数
- m:このモデルで有効な摩擦面の数
摩擦係数は表面状態、処理、潤滑や汚れの条件を含めて確認します。安全率は荷重の不確かさ、故障の影響、適用する設計基準などから定め、全設備に共通の値にはしません。偏心や面の開きがある場合は、この等分担モデルのまま計算しません。
計算例:Q = 5,000 N、n = 2、m = 1、μ = 0.15、S = 2.5と仮定
Fmin ≥ 5,000 × 2.5 / (0.15 × 2 × 1) = 41,666.7 N ≈ 41.7 kN/本
ここで得た値は、使用時に必要な押付け力の下限です。締付け時の目標軸力へ移すには、ばらつき、なじみ、温度、軸方向外力による押付け力の減少を考慮します。同時に、締付けが上限側へばらついた場合でも、各部を過負荷にしないことを確認します。
引張外力に対する確認
接合面を開く方向の外力は、ボルトの軸力増加と、被締結部材の圧縮力減少に分かれます。その分担はボルトと部材の剛性や荷重の作用位置に依存します。したがって「初期軸力が外力の何倍以上ならよい」という条件だけで、強度と開離の両方を判定しません。
- 最小締付け状態では、使用荷重を受けても必要な押付け力が残るか
- 最大締付け状態では、外力による増分を加えてもボルト、雌ねじ、座面が許容範囲内か
- 繰返し荷重では、ボルトの変動応力と疲労を確認したか
参考に、M12並目・ピッチ1.75 mmの有効断面積を84.3 mm²、耐力を640 N/mm²、比較用の係数を仮に0.7とすると、84.3 × 640 × 0.7 = 37,766.4 N ≈ 37.8 kNです。この0.7は計算説明の仮定であり、一律の許容上限ではありません。実際の上限は締付け時のねじり、外力、相手部品なども含めて定めます。
先の41.7 kN/本の例では、ボルト径をまだ選んでいません。仮に37.8 kNを上限とする条件を同じ締結へ採用したら、必要下限を満たせないため、径・本数・摩擦面・荷重伝達方法を見直します。必要な最小値と、許容する最大値の間に、施工できる範囲を確保するのが選定の要点です。
ボルト本数とピッチ円の設計
フランジなどでは等配が候補になりますが、等配しただけで各ボルトの荷重が均等になるわけではありません。荷重の偏心、曲げモーメント、フランジの変形、締付け順序も分担に影響します。
ボルト本数決定のロジック
- 外力と荷重伝達方法を整理し、必要な押付け力を求める
- 径・強度区分・本数を仮に決め、各部の最小押付け力と最大荷重を確認する
- フランジの剛性、穴の縁端距離、工具スペース、施工方法を含めて配置を決める
4・6・8・12本は配置例であり、等配が可能な本数を限定するものではありません。
ピッチ円径(PCD)の設計
PCDを広げると、一定のモーメントに抵抗する腕の長さを確保できる場合があります。ただし、中心に作用する軸方向荷重の分担がPCDだけで小さくなるわけではありません。フランジの曲げや開離、各ボルトの最大荷重を確認して決めます。
配置と施工の注意点
- ねじ径、頭部の二面幅、工具の外形寸法を区別する。必要なのは工具の差込み・振り角・抜取りを含む空間です。KTCのレンチ寸法表でも、口径Sと外形D1・D2は別に示されています。
- ガスケット締結はボルト強度だけで決めず、必要な面圧、フランジ剛性、ガスケットの仕様、締付け手順を確認する。
- ボルト穴と位置決め部の役割を分ける。ピンを追加する場合も、はめあい・公差・組立性と荷重の伝達経路を設計する。
緩み防止の設計と対策部品
回転して緩む現象と、回転しなくても押付け力が減る現象を分けて考えます。後者には接触面のなじみや陥没、樹脂などのクリープ、温度変化による影響があります。回転防止部品を付けるだけで、これらをすべて防げるわけではありません。
緩み止め部品を比較するときの確認点
回転緩みへの対策
一般的な一巻きのばね座金について、NASA Fastener Design Manualは、十分に締め付けて平らになった状態ではロック作用を期待できないと説明しています。この指摘をあらゆる形状の座金へ広げず、採用部品と実際の振動・荷重・座面条件で効果を確かめます。
ハードロック工業のFAQでは、再使用に劣化・形状変化・ナット間の隙間の条件があります。NORD-LOCKの取付ガイドにも、相手面の硬さや柔らかさ、なじみ量による適用制限があります。「高性能品だから完全に緩まない」「何度でも再使用できる」とは扱わず、製品指定の施工・点検条件を設計へ組み込みます。
ねじロック剤は色だけで強度を選びません。Henkelの資料では、LOCTITE 222は紫色の低強度品、LOCTITE 243は青色の中強度品で、いずれも通常の手工具での分解が基本です。手工具で外れない場合の処置は製品資料と設備の条件に従い、加熱を一律の必須手順にしません。
なじみ・陥没・クリープへの対策
接合面や座面が変形すると、締付け後の押付け力が減ります。減少量と進み方は材料、面圧、温度、時間などに依存します。
- 座面の面積・硬さ・被締結部材の強度を確認する。座金を入れる場合も、座金自身とその下の部材が荷重に耐えられるか確認する。
- 再締付けの要否、時期、方法は接合部の設計と製品指定に基づいて決める。全箇所を一律に「24時間後に増し締め」としない。硬化したねじロック剤を使う締結は、再施工の扱いも確認する。
- 温度変化がある場合は、ボルトと部材の熱膨張差による軸力の増減を確認する。
脱落などの危険評価は機械安全とリスクアセスメントも参照してください。
実務チェックリスト:締結設計のよくある失敗
失敗1:雌ねじの有効長さ不足
必要なねじ込み長さは、相手材の強度、ねじ径・ピッチ、公差、有効にかみ合う長さ、荷重で決まります。面取りや不完全ねじを有効長に含めず、底付きや周囲の肉厚も確認します。「鋼なら1d、アルミなら1.5〜2d」のような比率だけで合格にせず、ねじ山のせん断や母材の破壊を確認します。インサートを使う場合も、インサートと母材側のねじ山を含めて検討します。
失敗2:異種金属腐食への対策不足
BSSAの解説では、異種金属腐食には金属間の電気的接触と、導電性の液体によるつながりが必要です。アルミ部材とステンレスボルトの組合せでも、湿潤・塩分・面積比などによって影響は異なります。
絶縁を対策にする場合、座金1枚だけで判断せず、ボルト軸、穴、ねじ部などを通る接触経路を確認します。絶縁材の圧縮やクリープで締結力を失わないことも必要です。
失敗3:樹脂部の圧縮を制御する部品の省略
樹脂を締め付ける構造では、クリープによる押付け力の低下を確認します。対策の一つが、荷重を受ける金属製のコンプレッションリミッターです。SPIROLの設計資料は、リミッターの長さ・公差、樹脂の厚さ、ボルト頭部と相手部材への着座を設計条件に挙げています。単なる樹脂スペーサーと同じものとして扱わず、必要な部品と組立条件を図面で指定します。
失敗4:締付条件の未規定
トルク値だけでなく、ボルト・ナット・座金、表面処理、潤滑剤・ねじロック剤、締付順序、工具と管理範囲、再使用・点検条件を図面または作業標準書に記載します。トルク法を採用するなら、対象条件で必要な軸力範囲を確保できることを確認します。ポカヨケ設計の基礎も合わせて参照してください。
まとめ:ボルト締結設計チェックリスト
- 強度区分の呼び値と、採用する製品の保証値・適用条件を区別したか
- 外力の方向と伝達経路を決め、滑り・開離・強度・疲労を確認したか
- ばらつきと使用中の変化を考慮して、必要最小軸力と許容最大荷重の両方を満たすか
- 配置、フランジの変形、工具の外形と作業空間を確認したか
- 回転緩みと、なじみ・陥没・クリープによる押付け力の低下を分けて対策したか
- 雌ねじの有効なかみ合いと、インサートを含む相手部材の強度を確認したか
- 腐食環境、絶縁経路、樹脂部の荷重支持を確認したか
- 部品・施工・再使用・点検条件を、図面または作業標準書へ反映したか