「増産できますか?」に即答できるか

営業から「来月から月産3,000個に増やせる?」と聞かれたとき、すぐに答えられるかどうかは生産能力の数字を把握しているかどうかで決まる。

生産能力計算は「今の設備・人員でどれだけ作れるか」と「目標を達成するために何が足りないか」を定量的に示すもの。この計算ができると、設備投資・残業・外注の判断に根拠が持てる。


生産能力計算の基本式

まず、月産目標が総処理数か良品数かを決めます。ここでは1台の設備が1品種を処理する場合の、月間の良品数を見積もります。

月間良品能力(個)= 月間生産予定時間(秒)
                  ÷ 運転中の平均CT(秒/個)
                  × 時間可動率
                  × 良品率

月間生産予定時間 = 1シフトの生産予定時間 × 稼働日数 × 1日あたりシフト数

この式では、生産予定時間から休憩など生産を予定しない時間を先に除きます。時間可動率は「停止を除いた運転時間 ÷ 生産予定時間」、平均CTは「同じ運転時間 ÷ 総処理数」、良品率は「良品数 ÷ 総処理数」です。85%は0.85として計算します。

説明用の仮定例:

  • 停止を除いた運転中の平均CT:30秒/個
  • 休憩を除く生産予定時間:1シフト8時間、月22日、1日1シフト
  • 時間可動率:85%(段取り・故障などの停止をここで計上)
  • 良品率:98%

月産能力 = (8×3600×22×0.85×0.98) / 30 = 17,592.96 ≒ 17,593個

小数を四捨五入した計画上の概算です。実際の完成数や納期を保証する数字ではありません。


稼働率の設定とロスの二重計上

OEE総合値を、この式の時間可動率へそのまま代入しないでください。 OEEは時間・速度・品質の各要素を含みます。理想CTを使うなら「生産予定時間 ÷ 理想CT × OEE」で良品数を求める整理ができ、良品率をもう一度掛ける必要はありません。VorneのOEE計算の説明でも、時間・性能・品質の母数を分けています。

測定方法によって、CTに含まれるロスも変わります。Lean Enterprise InstituteのCTの区分には、段取り時間を個数に配賦した実効CTもあります。停止や段取りをCTに含めたなら、時間や率から同じ分を再び引かないことが必要です。

使用する値 先にそろえる条件
停止を除いた運転中の平均CT その運転時間に対応する時間可動率と、総処理数に対する良品率を使う
理想CTとOEE総合値 OEEと同じ生産予定時間を使い、速度・品質を再補正しない
全生産予定時間÷良品数で求めた実績秒/良品 同条件の計画では停止・品質が既に含まれるため、同じ率を重ねない

短時間停止をCTと停止時間のどちらへ含めるかも、測定時に決めておきます。「新しい設備だから90%」といった区分だけで率を決めず、対象の品種・段取り回数・稼働条件に合う実績を使います。実績がない場合は仮定を明記し、低め・想定・高めのケースで不足量を比べ、立上げ後に見直します。


必要設備台数の計算

目標生産量を達成するために何台の設備が必要かを計算する。

必要台数 N = 目標月産数 ÷ 1台あたり月産能力

同能力の設備を同じ期間使える場合、必要な整数台数は端数を切り上げ

例: 目標月産25,000個、1台の月産能力17,593個の場合 N = 25,000 ÷ 17,593 = 1.42 → 2台必要

1台目に能力いっぱいまで割り当てたとき、残りは2台目の能力の約42%です。これは能力に対する割当負荷の割合で、前の式の時間可動率85%とは別です。均等に割り当てれば各台約71%になります。同じ品種を加工できること、要員・段取り・納期を満たせることを確認します。余力へ追加作業を割り当てる際も、能力計算で既に見込んだ段取り時間と重複させません。

多品種の場合

複数品種を同一設備で生産する場合、品種別の加工負荷と切替ごとの段取り負荷を時間で合計します。

総必要時間 = Σ(品種iの必要投入数 × 運転中CT)
             + Σ(段取り回数 × 1回の段取り時間)

必要台数の概算 = 総必要時間 ÷ 1台あたり使用可能時間

良品目標から求める場合、必要投入数は目標良品数÷想定良品率とします。上の式では段取りを分子へ足したので、分母の使用可能時間から同じ段取りを引きません。休憩・保全・その他の停止と、CTに含むロスをどちらへ計上したかを記録します。手直しや再投入が必要なら、その加工負荷も別に見込みます。

Oracleの能力計画も、個数に比例する所要時間とロットごとの所要時間、使用可能時間を区分しています。合計時間が足りることに加え、設備ごとの品種適合、共有人員、作業順序と納期を確認します。


ボトルネック工程の特定

同じ品種・経路・期間で比較すると、最も小さい工程能力がラインの出力上限を制約します。台数や稼働条件が異なる工程では、CTが最長かどうかだけで判断しません。

ラインの月産能力の上限 ≤ 工程別能力の最小値

工程を単独で測った能力の最小値が、そのまま連結ラインの実出力になるとは限りません。材料待ち、後工程の詰まり、共有人員、停止の連鎖などを確認します。MITの直列生産ラインの研究例でも、単独設備の能力と連結後の出力、工程間在庫の影響を分けています。

工程別キャパシティ計算の手順

① 同じ期間・品種・良品換算にそろえ、CT・時間・率・台数を確認する
② 各工程の能力を計算し、最小の工程を制約候補にする
③ 連結運転時の待ち・停止・品質損失を確認する
④ 増強後も全工程を比較し、制約が移らないか確認する

説明用の仮定例: 各工程1台、休憩を除く生産予定時間は8時間×22日、1日1シフト、品質損失はないものとします。運転中CTと時間可動率から個数を計算し、四捨五入しています。

工程 運転中CT 時間可動率 月産能力の概算
工程A 20秒/個 90% 28,512個
工程B 35秒/個 85% 15,387個
工程C 25秒/個 88% 22,303個

この条件では工程Bが制約候補です。約15,387個/月は工程別比較から求めた上限であり、連結時の追加ロスを見込んで計画します。


シフト計画への落とし込み

残業・シフト増で対応できるか

目標生産量がボトルネックの能力を超える場合、シフト増や残業で対応できるか計算する。

2シフト月産能力 = 1シフト月産能力 × 2
残業2時間追加時 = 1シフト月産能力 × (10/8)

追加時間でもCT・時間可動率・良品率が同じで、前後工程・要員・材料が対応できる場合の比例計算です。休憩、引継ぎ、段取りや追加停止が変わるなら、その条件で再計算します。

注意: シフト増とあわせて保全計画も見直します。使用時間や回数に基づく点検・交換は早く到来する場合がありますが、暦日基準の保全まで一律に2倍になるわけではありません。

増産判断のフローチャート

目標月産数 > 現状能力?
 YES → ボトルネックを特定する
  ↓
 残業・シフト増で対応できるか?
  YES → コスト計算して実施判断
  NO  → 設備増設を検討
   ↓
  設備投資のROI計算 → 投資判断

よくある失敗

失敗1:ロスの範囲をそろえずに計算する

理想CTだけで時間を割り、停止・速度低下・不良を全く見込まないと、能力を高めに見積もります。一方、実測CTでも測定範囲が曖昧なまま率を掛ければ、ロスを二重に計上することがあります。

対策: CTの測定時間と個数の定義を記録し、時間・CT・率の対応をそろえます。新設備では立上げ中も実績を更新し、代表品種・負荷・作業者の習熟などが計画条件に近づいた段階で再計算します。一定の月数だけで安定したと判断しません。

失敗2:ボトルネック以外に投資する

工程Bが制約で工程Aの供給は十分なのに、工程Aの速度・台数だけを増やしても、工程Bが制約のままならラインの出力上限は変わりません。

対策: 増産目的なら、まず制約を特定し、その工程を十分に動かせるようにします。制約が変わらず、供給にも問題がない場合、余剰工程の速度だけを上げても出力上限は増えません。ただし、他工程の品質・故障・供給の改善で制約工程の停止を減らせる場合があります。安全・保全など別目的の改善まで無効とはしません。TOCICOの制約理論の概要も、制約の活用、他工程の従属、能力向上と再評価を区分しています。

失敗3:良品率の低下を無視する

不良率が上がると実際の良品出荷数が減る。不良率1%と5%では、同じサイクルタイムでも良品の月産数が大きく変わる。

良品率95%の場合、100個投入で5個が不良になる。月産目標が良品数なので、投入数は月産目標 ÷ 良品率で計算する。


社内で説明するときの言い方

上司・経営者に対して: 「この仮定では工程Bの能力が約15,387個/月で最小です。20,000個へ増やす案として、停止・CTの改善、増設、シフト増を比較します。工程Bを増強した後も工程Cや人員・材料が対応できるか確認し、費用を試算します。」

生産管理担当に対して: 「この仮定では、来月18,000個の計画に対して工程Bの能力が約2,613個不足します。連結運転時のロスも確認した上で、能力改善、外注、納期調整の実行可能性を相談したいです。」


まとめ:生産能力管理の3ステップ

  1. 工程別の良品能力を計算する——同じ定義の生産予定時間 ÷ 運転中CT × 時間可動率 × 良品率
  2. 制約候補と連結条件を確認する——工程別能力の最小値と、待ち・詰まりなどによる実出力の差を見る
  3. 制約への効果を比較する——改善・増設・シフト変更の前後で全工程と必要資源を再確認する

計算ツールへの入力

需要から必要なペースを求めるときはタクトタイム計算を使います。月間需要、日数、シフト数と、生産を予定する1シフトの時間を入力します。結果のTTは需要側の値で、設備の実測CTや能力そのものではありません。

自動ライン能力試算は、停止を含まないCT、停止を控除する率、休憩を除いた1シフトの時間から総処理数の上限を試算します。今回の30秒・85%・8時間なら816個/シフトです。ツールは良品率を別入力しないため、本記事の月間良品数へは日数・シフト数・良品率を別に対応させます。この例では816×22×0.98≒17,593個です。ツールは整数を切り捨て表示するので、一般の月次計画では丸め前の式で再計算します。

次のステップ: