この記事でわかること

  • タクトタイム(TT)の定義と、サイクルタイム・リードタイムとの違い
  • TTの計算式と、稼働時間・必要生産数の正しい設定方法
  • ラインバランス率の算出方法とボトルネック工程の見つけ方
  • バランス率を目標にしてよい前提と、満たせないときのTOCでの組み方
  • TTを守れない工程が出たときの実務的な対処法
  • 多品種混流ラインでのTT設定方法と段取り時間の扱い方
  • 製品ステージ(開発・量産)によるTT設計アプローチの違い
  • 新ライン立上げ時にTTを決めるための手順

「タクトタイムは計算できる。でも、それをどうライン設計に使えばいいのかが分からない」。この記事は、その疑問を入口に、稼働時間の取り方・需要変動への対応・工程間のバランスを整理します。計算式と現場の条件を対応させ、設計へ落とし込む手順を説明します。

生産技術エンジニアの役割全体については生産技術とは何かもあわせてご覧ください。


タクトタイムとは何か|サイクルタイム・リードタイムとの違い

タクトタイム(Takt Time、以下TT)は「ラインのペースメーカー」です。何秒に1個出荷すればお客様の需要に間に合うか、を示す時間です。

よく混同される用語を整理します。

用語 定義 例
タクトタイム(TT) 稼働時間 ÷ 必要生産数 26,100秒 ÷ 300個 = 87秒/個
サイクルタイム(CT) 各工程が実際に1個を処理する時間 工程Aのプレス:78秒
リードタイム(LT) 対象とする投入から完成までの経過時間(待ち・搬送・滞留を含む) 20工程を通過する間の待ち・搬送を含め12時間(例)

TTはあくまで「需要から逆算した目標値」です。CTが実際の処理時間、LTが全体の流れる時間、という役割分担を頭に入れておきましょう。

TTは需要から決める基準で、工程能力そのものではありません。直列の1個流しで各工程が1個ずつ処理する例では、CTがTTを超える工程は能力不足の候補です。全CTがTT以下でも、停止・不良・供給不足を含めた実際の良品出来高が需要を満たすか確認します。並列・バッチ工程の能力は、台数や処理個数も含めて換算します。


タクトタイムの計算式と算出手順

計算式

TT(秒/個) = 1日の稼働時間(秒) ÷ 1日の必要生産数(個)

稼働時間の正しい取り方

ここでの「稼働時間」はその期間に生産へ使える計画時間です。休憩・朝礼・始業点検など、生産を行わないと決めた時間を除きます。「計画停止」という名称だけで全てを除くのではなく、段取りなどをどこへ計上するかを先に決め、OEEの計画生産時間とも対応させます。

例:8時間シフト(28,800秒)、昼休み30分・休憩1回10分・朝礼5分の場合 → 28,800 − 1,800 − 600 − 300 = 26,100秒が稼働時間

1日の時間配分(8時間シフトの例)
稼働時間 26,100秒
昼休み
稼働時間(TT計算に使う) 昼休み(1,800秒) 休憩・朝礼(900秒)

段取り時間(型替・品種切替)は計画停止として差し引く場合と、稼働時間内に収める前提で設計する場合があります。多品種ラインでは段取り時間の扱いをあらかじめ決めておくことが重要です(→後述「多品種混流ラインのタクトタイム設計」)。

注意:停止時間の控除とOEE補正を重複させない

本稿では需要のTTを計画時間から求め、故障・チョコ停・速度低下・不良の影響はOEE等で能力側へ織り込みます(→ OEEの基礎知識)。固定需要300個に対し、26,100秒から停止1,800秒を引けば、TTは87秒から81秒へ短くなり、要求は厳しくなります。停止控除後の時間を使い、さらに同じ停止を含むOEEで補正すると二重計上です。時間・数量の母数と、どの損失を一度だけ見込むかを明記してください。

必要生産数の取り方

日次必要生産数 = 月間需要 ÷ 稼働日数。需要に幅がある場合は、標準・上限・下限のシナリオを置きます。たとえば標準需要の1.05倍・1.10倍を比較する方法は感度分析の設定例であり、どの現場にも適切な安全係数ではありません。予測根拠と継続期間を確認します。

ここで迷うポイント:「どの需要数を使うか」

需要を小さく見込めば能力不足、大きく見込めば余剰投資につながる可能性があります。上限需要へ合わせる案と、シフト変更・段階的な能力追加等の案を、需要の継続期間、設備・人員・在庫・不足の費用、品質や運用の制約で比較します。上限設計が常に安いとは限りません。

計算例

  • 月間需要:6,000個、稼働日数:20日 → 1日の必要生産数:300個
  • 1日稼働時間:26,100秒
  • TT = 26,100 ÷ 300 = 87秒/個

ラインバランス設計の基本|バランス率とボトルネック工程

この節の工程別CT比較は、直列の1個流しを前提にします。炉・洗浄機・めっきタンクなどのバッチ工程でも、需要から求めるTTは使えます。ただし能力側はバッチ個数・サイクル・重なり・段取りから単位時間の良品数へ換算し、バッファや搬送も含めて確認します。

TTが決まったら、次は各工程のCTとTTを比較してラインが成立するか確認します。

バランス率の計算式

ラインバランス率(%) = 各工程CTの合計 ÷ (工程数 × TT) × 100

分母がTTである点に注意してください。分母を最大CT(ボトルネック工程のCT)にした「編成効率」という指標もあり、最大CTとTTが違うラインでは2つの%は一致しません。編成効率は工程間の偏りを見るとき、バランス率は需要に対する人・工程の使い切り具合を見るときに使います。同じ例での比較は編成効率の計算と目標値の決め方にあります。

このTT基準の率は需要に対する平均負荷を示し、負荷の均等さは単独では分かりません。たとえば5工程のCT合計が376秒なら、60 / 87 / 74 / 85 / 70秒でも、全工程75.2秒でも、TT87秒に対する率は同じ86.4%です。工程別CT・最大値・ばらつきと併せて見ます。目標値は、必要な出来高と回復余力、工程ごとのばらつき、投入制御の条件から決めます。特定の率を、理想値や実務共通の目安として置きません。

⚠️ ただし、この数字は単体では意味を持ちません。 成立には前提が2つあり、どちらも満たせないラインでは、組み方そのものを切り替えます(後述)。

前提①:後工程と連携できているか|JITとMES

本稿では、バランス率を上げることを改善目標にする前に、後工程の要求と生産指示・進捗が連携しているかを確認します。後工程が引き取ったぶんだけ前工程が作る流し方は、JITを支えるプル生産の考え方です。率の計算だけで、この流れが実現するわけではありません。

どの工程がどこまで進んだかを確認せず、後工程の必要量を超えて前工程が作り続ければ、仕掛品が増えます。MESは連携の手段の一つです。かんばん等で指示・引取り・在庫上限を管理する方法もあり、MESが無いことと連携できないことは同じではありません。

⚠️ 連携を整えず、率だけを目標に余裕を削らないでください。 遅れの回復が難しくなったり、投入過多で仕掛品が増えたりする可能性があります。負荷の均等さ、工程ごとの利用率、待ち時間は別々に確認します。

同じ「バランス率90%」でも、仕掛品は率だけでは決まらない
連携がある
後工程の引取り・在庫上限に合わせて補充 → 投入量を管理できる
連携が無い
後工程の必要量を超えて投入し続ける → 仕掛品が増える

前提②:作業時間のばらつきは小さいか

バランス率は平均の作業時間で計算します。現場では平均に加え、ばらつきと到着・供給の間隔を確認します。

工程の作業時間は毎回同じにはなりません。部品の向きが悪い、ねじが入りにくい、前工程から流れてこない。こうした揺らぎは必ずあります。TTに対する余裕が小さくなるほど、この揺らぎを吸収できなくなります。

待ち行列では、到着と処理に変動があり、利用率が処理能力の上限へ近づくと平均待ち時間が大きくなるモデルがあります。ここでいう利用率は工程への到着率と処理能力の比で、本稿のTT基準のラインバランス率とは別です。実ラインの待ちは、投入制御・停止・バッファ容量・工程間の連携にも依存し、バランス率だけから計算できません。

単一工程の待ち行列モデルによる仮定例
到着はポアソン、処理時間は独立な指数分布、1台・先着順・待ち場所に上限なしの定常モデル(M/M/1)。平均処理時間を固定して到着を増やした例です
利用率80%
平均待ち=平均処理時間の4倍
利用率90%
平均待ち=平均処理時間の9倍
利用率95%
平均待ち=平均処理時間の19倍
このモデルの平均待ち=平均処理時間 × 利用率 ÷(1−利用率)。棒は4:9:19の比。実ラインの待ち時間を保証する数値ではありません

だから、目標値はばらつきの大きさで決める

手は空くか 揺らぎへの強さ
各工程の利用率が低く余力がある 手が空く時間が生じる 回復余地はあるが、供給・作業条件の確認が必要
各工程の利用率が高く余力が小さい 手が空く時間が少ない 変動を吸収しにくくなる可能性がある
  • 作業時間が安定している → 必要な供給・品質・停止条件を確認しながら、負荷を高められるか検証する
  • ばらつきが大きい → 回復の余力とバッファを設ける案を比較し、実際の良品出来高と待ち時間で確かめる

⚠️ 「バランス率が低い=改善の余地」と機械的に読まないこと。 ばらつきの大きい工程で回復の余力を削ると、遅れや供給切れにより、実際の出来高が下がる可能性があります。

社内で説明するときは: 「バランス率を上げれば生産量が増える」ではなく、「どこまで上げると、遅れを吸収できなくなるか」を論点にします。ばらつきが大きい工程には、バランス率とは別に工程間の置き場(バッファ)をどれだけ持つかを併せて決めます。

連携の整備とTOCでの組み方|ボトルネックへ余力を振り向ける

後工程の指示と進捗を握れないラインでは、まず率だけを追う組み方を見直します。本稿では、制約工程へ供給を切らさないTOCの考え方を選択肢にします。ただしTOCでも、制約の把握、投入指示、バッファ監視の連携が必要です。連携を整えることとTOCは、二者択一ではありません。

TOC(制約条件の理論)では、制約工程がライン全体の出来高を制限する点に着目します。需要と安全・品質条件の範囲で、制約を不要に止めないようにします。Drum-Buffer-Ropeでは、制約の計画を基準に、前後のバッファと投入タイミングを管理します。制約が移れば計画も見直します。

  • ボトルネック工程:負荷100%を意図する設定例。有効な能力に対し必要な仕事を用意する考え方で、停止ゼロや常時フル運転を保証・強制する意味ではありません
  • それ以外の工程:負荷70%程度を置く設定例。供給遅れを取り戻す余力を表します。100%・70%は本稿の説明用設定で、必要値は需要・ばらつき・制約条件から決めます
バランス率を追う TOCで組む
成立する前提 後工程引取りと進捗の連携 制約の把握、投入指示とバッファ監視の連携
各工程の負荷 工程別CTと需要・ばらつきを照合 制約へ仕事を確保し、非制約に回復余力を置く
バランス率の見え方 率だけで均等さ・出来高を判定しない 低くても、需要・制約の供給が成立すれば許容できる
仕掛品を抑えるもの 引取りに応じた投入制御 制約の計画に合わせた投入制御とバッファ管理

⚠️ 非ボトルネック工程の余力には役割があります。 手が空く時間を全て無駄とみなして能力を削ると、制約への供給が途切れる可能性があります。一方、余力があるだけでは仕掛品を抑えられないため、必要量を超える投入を管理します。

社内で説明するときは: 「率が低い=非効率」と決めず、「どこが制約か、どの投入指示で必要量を流し、どこに回復余力とバッファを置くか」を説明します。

バランス率の計算例

5工程のラインで、各工程のCTが 60 / 87 / 74 / 85 / 70 秒だとします。

  • ボトルネックCT:87秒(工程B)
  • TTが87秒なら工程Bは損失を省いた計算上の境界(CT = TT)。実際の停止・変動・不良を含めた達成を保証しない
  • バランス率 = (60+87+74+85+70) ÷ (5×87) × 100 = 376 ÷ 435 × 100 ≒ 86.4%
ピッチダイアグラム(TT = 87秒)
工程A
60秒 ✓
工程B
87秒 ⚠ボトルネック
工程C
74秒 ✓
工程D
85秒 ✓
工程E
70秒 ✓
← TTライン(87秒) バランス率:86.4%

ボトルネック工程の見つけ方と見落としのパターン

工程別CTを棒グラフに並べてTT線と比較すると、需要に対する余裕が見えます。TTを超える工程は能力不足ですが、全工程がTT以下でも最も能力の小さい工程が制約となり得ます。停止・品種構成・共通人員や搬送も合わせて確認します。

見落としやすいのは「TTとほぼ同じCTの工程」です。 工程Dの85秒はTT87秒まで2秒の余裕で、85÷87=97.7%です。たとえばCTがTTの95%を超える工程を仮の注意対象にするとDを拾えます。95%は一律の保証境界ではなく、実測のばらつきや停止を踏まえて決める警戒値です。TT超過の能力不足とは区別して管理します。


ラインバランス改善の4つの対処法

CTがTTを超えている工程が見つかったとき、打ち手は主に4つです。

CT > TT の工程を発見 → まず原因を分類する
他工程に余裕が
ある
↓
① 作業分割・再配分
チョコ停・速度低下が
多い
↓
② 設備・治工具改善
設備能力が
根本的に不足
↓
③ 並列化(2台持ち)
需要減・シフト
変更が可能
↓
④ TT見直し

1. 作業の分割・再配分

隣接工程に作業要素を移し、ボトルネック工程の負荷を下げます。工程分割の際は、工程間の搬送ロスが増えないよう注意。分割できる作業と分割できない作業(設備固有の加工時間など)を最初に仕分けするのがコツです。

2. 設備・治工具の改善

速度低下やチョコ停が見込能力との差を生んでいるなら、6大ロスの分析手法で対象時間を分けます。連続運転中のCTと停止を含む期間の平均間隔を区別し、原因に合わせて設備・治工具等を改善します。機械を速くするだけで停止損失も解消するとは限りません。

3. 並列化(工程の複数持ち)

1台では間に合わない場合、同じ設備を2台並べて、その工程から製品が出てくる間隔(工程側の処理間隔)をおよそ半分にする方法です。TTは需要から決まる値なので、並列化しても変わりません。変わるのは工程側で、1台あたりのCTはそのままでも「CT ÷ 台数」がTT以内に収まれば間に合う、という考え方です。初期投資が増えるため、需要が安定しているか確認してから判断します。投資コストだけでなく、搬送ルーティングと設備稼働率の均一化も設計に含める必要があります。 このCT÷台数は、同能力の設備が独立して処理でき、負荷が均等である場合の平均的な能力換算です。共通の人員・搬送・段取りが制約になる場合や停止を含む場合は、その実効能力で再確認します。

4. TTを見直す(需要・シフト変更)

需要が下がった場合や残業・シフト追加でカバーできる場合は、TTを再設定します。「TTを変更するか、設備・人員を追加するか」は費用対効果で判断しましょう。TTを緩めることは「手抜き」ではなく、需要に合った設備負荷に整合させる正当な設計判断です。


多品種混流ラインのタクトタイム設計

単一品種ではなく複数品種を同じラインで流す場合、「どのTTでラインを設計するか」が実務で最も迷うポイントです。

合計需要から共通TTを求め、品種別の負荷を確認する

同じ時間枠で流す合計需要からライン共通のTTを求めます。これは各品種のTTを生産比率で平均した計算ではありません。

例:月間1,000個、品種A(60%/600個)・品種B(30%/300個)・品種C(10%/100個)の場合

  • 稼働時間:26,100秒/日 × 20日 = 522,000秒/月
  • 共通TT = 522,000秒 ÷ 1,000個 = 522秒/個(約8.7分/個)

品種構成を使うのは、たとえば各工程の平均作業負荷の確認です。品種別CTをCT_A、CT_B、CT_Cとすれば、この例の加重平均CTは0.6×CT_A+0.3×CT_B+0.1×CT_Cです。ただし平均がTT以下でも、時間の長い品種が続けば一時的な滞留が生じます。品種別CT、投入順、段取り、バッファを併せて確認します。

段取り時間の2つの扱い方

多品種ラインでは、型替・治具交換などの段取り時間を需要側(TT)と工程側(必要時間)のどちらに入れるかを決めます。ここでは3つの時間を分けて呼びます。

  • TT:需要から決まる「1個あたりに許される時間」
  • 処理間隔:設備・工程から1個が出てくる間隔(並列化すると短くなる)
  • 1個あたり必要時間:処理間隔に、段取りの割り付け分を足した時間
パターンA:稼働時間から差し引く
段取りを計画停止として稼働時間から除いてTTを出す
TT =(稼働時間 − 段取り合計)÷ 必要数
→ TTが短くなる(ラインへの要求が厳しくなる)
→ 工程側は処理間隔をこのTTと比べる
→ 対象期間の段取り回数・合計時間を記録
パターンB:工程側の必要時間に割り付ける
TTは稼働時間 ÷ 必要数のまま変えない
1個あたり必要時間 = 処理間隔 + 段取り時間 ÷ ロットサイズ
→ この必要時間がTT以内かで判定する
→ ロットを小さくすると必要時間が延びる様子が見える
→ 品種別ロットと段取り回数を記録

AとBは、同じ期間・需要・段取り時間なら等価な時間収支です。たとえば26,100秒で300個、段取り合計600秒なら、Aは処理間隔≤85秒、Bは処理間隔+2秒≤87秒です。安定性だけで方式を選ばず、自社の計画時間と工程負荷の定義に合わせ、期間・段取り回数・損失区分を設計書へ明記します。ばらつきは両方式で別途見込みます。

やってはいけないのは、両方に入れることです。稼働時間から段取りを引いてTTを短くしたうえで、工程側の必要時間にも段取りを足すと、同じ段取りを二重に数えて、実際より厳しい設計になります。逆に、段取りをどちらにも入れないと、量産に入ってから段取りの分だけ間に合わなくなります。


製品ステージ別のタクトタイム設計アプローチ

タクトタイムの扱い方は、製品が「開発ステージ」にあるか「量産ステージ」にあるかによって大きく異なります。同じ計算式を使っていても、どの数字を根拠にするか・OEEをどう織り込むかが変わるため、自分がどのステージで設計しているかを常に意識してください。

開発ステージ
① 需要予測(幅あり)をTTとして仮設定
需要シナリオ別にTTと費用・運用条件を比較
② 装置のサイクルタイムをTT以内に収める
各工程のCTがTTを超えないよう工程設計・設備選定
③ OEEを考慮した実効CTで装置を設計・発注
CTの損失範囲とOEEの時間・数量基準をそろえる
量産ステージ
① 安定した需要予測からTTを算出
出荷実績・受注計画をもとに精度高くTTを計算できる
② TTを各工程のCTに落とし込む
工程別のCTをTTと照合しバランス率を管理
③ 需要変動に応じてTTを定期見直し
見直し条件を決める(±10%は設定例)。期間・品種変更も確認

開発ステージでOEEを無視してはいけない理由

開発時に「カタログCTがTT以内」だけで判断すると、想定に含まれない停止・段取り・速度低下等で能力不足となる可能性があります。カタログ値の測定条件を確認し、想定する品種・運転・品質条件で必要良品数を満たすか検証します。

開発ステージでは需要が読みにくい分、設備にはOEEを加味した余裕を最初から持たせる設計が必要です。OEEの詳細はOEEの基礎知識を参照してください。

例:OEEを考慮したCT設計

  • TT = 87秒、想定OEE = 80%の場合
  • 必要な設備の理論CT ≤ 87秒 × 0.80 = 69.6秒以内が目安
  • ロス未織込みの理論CTが87秒なら、実効良品間隔 = 87 ÷ 0.80 = 108.75秒 > TT。26,100秒では240良品相当となり、需要300個を満たさない

⚠️ OEEを掛けるか割るかを取り違えないこと。 1個あたりの時間(CT)は稼働率が下がるほど延びるので割る。1時間あたりの個数(能力)は減るので掛ける。同じ前提でも、時間で見るか個数で見るかで演算が逆になります。

⚠️ 同じロスを2回引かない|割る前に揃える3つ

実効CTの計算は、同じロスを2回引くと簡単に壊れます。 割り算に入る前に、次を揃えてください。

揃えるもの 確かめること
どのCTを割るか ロスをまだ織り込んでいない理論CTを割る。 カタログ値もこの条件を満たすか確認する。実測CTは、連続運転中の一サイクルの測定か、チョコ停・速度低下等を含む観測期間の実績かで、含まれるロスが異なる。すでに含むロスをOEE等で二重に補正しない。時間基準と各率の定義を揃える
良品率(Q)の置き場所 必要生産数で見込むか、CTの割り算に入れるかの、どちらか一方。 両方に入れると不良ぶんを2回見込む。作り直すぶんは「多く作る」であって「1個が遅くなる」ではない
時間を引く母数 TTの稼働時間からすでに引いた計画停止(休憩・計画保全・朝礼)を、時間稼働率でもう一度引かない。負荷時間に対して測る

⚠️ 上の例(÷0.80)は、必要生産数に不良ぶんを見込んでいない場合の書き方です。 必要生産数の側で すでに不良を見込んでいるなら、割るのは時間稼働率 × 性能稼働率までにします。

「OEE」という一語で済ませない。 時間に効くのは時間稼働率と性能稼働率、個数に効くのは良品率で、 どれを、どの母数に対して、どちらの式に入れたかを書き残しておくと、後から検算できます。

量産ステージへの移行タイミングでTTを再設定する

開発時に仮置きした需要・時間条件は、量産へ移る際の最新計画で見直します。余った能力を理由なく使い切るのではなく、需要に合う投入量と運用時間を決め、想定との差を監視します。


新ライン立上げ時のタクトタイム設定ステップ

新ライン設計では、需要と稼働条件からTTを設定し、工程能力とすり合わせます。後からの需要変更にも対応できるよう、前提と見直し条件を記録します。

Step 1
需要確認・TT算出
月間需要・稼働日数を確認しTTを計算する
→
Step 2
工程設計・CT見積
実効CTで各工程の処理時間を見積もる
→
Step 3
ピッチダイアグラム確認
全工程CTをTTと比較・バランス率を算出
→
Step 4
パイロット試作・実測
実機でCTを実測し見積もりとのズレを確認
→
Step 5
量産移行後モニタリング
定期的にCTを実測しバランス率の推移を管理

Step 1:需要確認とTT算出

営業・生産管理から月間需要数を入手し、TTを計算します。需要変動幅(±何%か)も必ず確認してください。この段階で「需要が読めない」と言われた場合は、TTを仮置きで決めるのではなく、需要シナリオ別にTTを複数算出して設計の幅を把握しておくことが重要です。

シナリオ別TT試算の例(月間需要が不確定な場合)

シナリオ 月間需要 1日あたり需要(20日) TT(稼働26,100秒)
保守的(上限) 7,200個 360個 72.5秒/個
標準 6,000個 300個 87.0秒/個
楽観的(下限) 4,800個 240個 108.8秒/個

上限シナリオの需要を、想定した時間・品種・損失・人員条件で満たす案を検討します。その範囲を超える需要まで保証されるわけではありません。下限時の余剰能力と運用費も比較し、稼働時間の調整や段階的増設の判断条件を決めます。

Step 2:工程設計とCT見積もり

作業分析・類似ライン実績・設備仕様から各工程のCTを見積もります。設備カタログの値もロスを含むか確認し、まだロスを織り込んでいないCTを、時間稼働率と性能稼働率を加味した実効CTに補正して考えます(良品率の置き場所は前述のとおり、必要生産数か割り算かの一方)。実測値を使う場合は測定範囲を確認し、すでに含むロスは重ねて補正せず、時間基準と各率の定義を揃えます。「カタログ値でバランスを合わせたが、実際は段取りやチョコ停で全然追いつかなかった」という失敗を防ぐための重要なステップです。

Step 3:ピッチダイアグラムで確認

全工程CTをTTと比較し、制約と余裕工程を可視化します。後工程との連携が成立するラインでも、平均負荷だけで再編を決めず、個別CTとばらつき、良品出来高を照合します。連携を確認できないラインでは、率だけの再編判定を使いません。 制約への供給と投入制御を先に確認します。発注前に、工程分割・再配置・能力追加等の実施条件を検討します。

Step 4:パイロット試作で検証

実機・実作業でCTを測定し、見積もりとの差と原因を確認します。たとえば見積もりより10%・20%長い場合を比較するのは感度分析の仮定で、一般的な発生頻度ではありません。試作では品種・作業者・停止を含めた測定範囲も記録し、工程設計へ反映します(→ 設備導入・新ライン立上げの流れ)。

Step 5:量産移行後の継続モニタリング

立上げ後はCT・停止・良品出来高を継続して追います。最初の3〜6か月を重点確認期間とするのは運用例であり、その後の確認が不要になるわけではありません。需要・品種・シフト等が変わる場合の再計算条件と担当を決めます。


まとめ

タクトタイムはライン設計の「共通言語」です。需要・稼働時間・工程能力を1本の数字に結びつけ、全員が同じ基準で判断できるようにするためにあります。

手元の工程データでピッチダイアグラムを書き、工程別CT・ばらつき・需要との関係を確認してください。平均のバランス率だけで結論を出さず、供給・投入制御と損失を合わせて、作業分割・設備改善・並列化等の案を比較します。

実務で迷ったときの判断軸:

  • TTを変えるか、設備を変えるか → 需要の幅と継続期間を確認し、残業・シフト・能力追加等の費用、人員、品質・運用条件を比較する
  • 設備発注前に損失を織り込んだか → 同じ計画時間と良品需要を基準に、ロス未織込みの理論CTなら実効良品間隔 = 理論CT ÷ OEE、必要条件は理論CT ≤ TT × OEE。OEEは想定条件から見積もり、本文の「割る前に揃える3つ」に従って二重計上を避ける
  • 負荷と余力をどう見直すか → 工程別CTと制約を確認し、作業分割・設備改善・並列化等の効果と総費用を比較する。実施順や最安案は現場の条件で変わる

炉・洗浄機・めっきタンクなどを含むラインでも、需要TTは必要な生産ペースを示します。能力側はバッチ数・サイクル・段取りと工程の重なりから換算します。詳しくはバッチライン設計の手順を参照してください。

参考資料