搬送方式は「ワークの特性 × 工場の制約」で決まる
自動化ラインを設計するとき、工程間の搬送をどうするかは初期段階で決めておく必要がある。ベルトコンベアにするか、AGV(無人搬送車)にするか、ロボットで受け渡しするか——この選択が後のラインレイアウトや設備費用を大きく左右する。
搬送方式の選定は「何を・どこからどこへ・どのくらいの速さで・どのくらいの量を運ぶか」の5要素を整理してから行う。
その要求を、ワークの寸法・質量・姿勢、出発点と行先、時間帯ごとの搬送量、受け渡し方法として書き出します。同じ要求を満たす案で、設備費だけでなく設置工事、移載装置、制御連携、保全と運用の費用まで比較します。
搬送方式の比較
以下は方式を絞るための代表例です。重量範囲や費用順位を方式名だけで決める表ではありません。
| 搬送方式 | 検討しやすい用途 | 選定前に確かめること |
|---|---|---|
| ベルトコンベア | 決まった経路での連続搬送 | 接触面、滑り、姿勢、受け渡し部、必要速度 |
| ローラーコンベア | 底面をローラーで支持できる箱やパレットの搬送 | 底面形状、ローラーピッチ、荷重分布、駆動・停止方式 |
| チェーン・スラットなどの搬送機構 | パレットや大型品などを決まった経路で運ぶ | 支持方法、積載荷重、潤滑、騒音、保全性。台車方式とスラット方式は構成を区別する |
| AGV・AMR | 複数の行先や経路変更がある工程間搬送 | 誘導・経路計画、通行条件、積み卸し、配車、充電、設備との連携 |
| 産業用ロボット | 作業範囲内での受け渡し、姿勢変更、整列 | 可搬質量、ハンド、到達範囲、実動作時間、周囲との干渉 |
| 人手・手押し台車 | 作業や搬送先の変更が多い場合の比較案 | 取扱質量、姿勢、搬送頻度、必要人員と通行条件 |
短距離だからコンベア、長距離だからAGVと即決するのではなく、前後工程への受け渡しを含めて案を比べます。
コンベアの仕様設計
必要搬送速度の計算
一列で、1ピッチに1個を載せ、滑らず一定速度で運ぶモデルを考えます。ピッチは進行方向で隣り合うワークの同じ位置どうしの距離です。
搬送速度 V(m/min)= 搬送ピッチ p(m/個)× 搬送個数 q(個/min)
必要搬送間隔を T(秒/個)とすると、q = 60 / T
したがって V = 60p / T
例えば、ピッチ400mm、必要搬送間隔10秒/個という計画例なら、q = 6個/min、V = 0.4 × 6 = 2.4m/minです。「個/min」は生産速度であり、時間/個で表すタクトタイムとは区別します。需要タクトは使用可能な生産時間を需要数量で割って決める指標です。タクトタイムの定義(Lean Enterprise Institute)
この2.4m/minは定常搬送の値です。停止位置決めを繰り返す場合は、加減速・停止・移載の時間を含む1サイクルで必要量を運べるか確認します。速度の調整範囲は、投入のばらつき、前後工程、滑り・転倒や移載への影響から決めます。一律に1.2〜1.5倍へ上げればよいとはしません。選ぶ駆動方式で必要な速度調整と停止精度が得られるかも確認します。
コンベア幅の決め方
まず搬送姿勢におけるワークやトレイの最大幅を決め、位置ずれ、ガイド、受け渡し、品種切替を考慮して実際に使える搬送幅を指定します。ベルト幅、ガイド間隔、機械の全幅は同じ寸法ではありません。
有効搬送幅の検討値 = 搬送姿勢での最大幅 + 左側の余裕 + 右側の余裕
例えば最大幅400mmのトレイに、検討上の余裕を左右100mmずつ仮置きすれば600mmです。これは足算の例であり、100mmを全機種に勧める値ではありません。最小品種も安定して支持できるか、隙間への入り込みやガイドとの接触がないかを、機種の図面と実物で確かめます。幅調整が必要なら調整範囲と固定方法も指定します。
駆動モーターは、定常出力と加減速時のトルクを分けて選ぶ
一定速度で運ぶときの仕事率は、搬送方向の必要駆動力と速度から概算できます。
モーター軸に必要な定常機械出力 P(W)= F(N)× V(m/min)/ (60 × η)
Fは、選んだ機構で必要な搬送方向の駆動力です。ηはモーター軸から搬送部までの伝達効率を小数で表したもので、この式では0 < η ≤ 1の範囲で使います。これはモーターへの電気入力や始動時の容量を求める式ではありません。
- 水平・定速では、走行抵抗、ベルトやガイドの摩擦、外力などを機構に応じて見積もります。全質量の重力mgを、そのまま水平の駆動力にはしません。
- 上り傾斜では、上げる荷の質量m(kg)について、重力の搬送方向成分mg sinθが加わります。gは重力加速度(m/s²)、θは水平面から測った上り傾斜角です。sinθを計算するときは、角度の単位(度・ラジアン)を計算器の設定とそろえます。戻り側を含むベルト・チェーン自体の力は構成によって扱いが変わります。
- 始動・加速では、移動する質量と回転部の慣性、加速時間から追加トルクを確認します。速度が0の瞬間は上の仕事率も0になりますが、必要な始動トルクが0という意味ではありません。
- 減速・下り搬送・保持では、制動、回生エネルギー、停止中の荷の保持を別に確認します。
例えば、水平・定速の簡略モデルでF = μmgと置く場合にも、μが何と何の抵抗を表し、mがどの移動部分を含むかを選定資料に合わせます。固定架台の質量まで加えたり、効率を全機種共通で0.7〜0.85と決めたりしません。
オリエンタルモーターのベルトコンベア選定例でも、加減速時間、プーリ、外力、効率などを入力し、トルク・速度・慣性を照合しています。選んだメーカーの資料で減速比を含む軸の換算を揃え、始動・加速時のピーク、連続運転時の負荷、繰返し運転の発熱を確認して型式を決めます。
AGV・AMRの導入判断
名称より、走り方と運用条件を比べる
AGVの誘導方式は磁気テープやQRコードに限りません。ダイフクのAGV紹介には、周囲の特徴を用いる方式、レーザー、慣性なども挙げられています。
AMRも、導入先の地図や走行条件を準備せず、そのまま使えるという意味ではありません。例えばオムロンLDシリーズの仕様には、環境の走査とソフトウェアへの地図データの取込みが示されています。障害物を迂回できるかは、その機種の機能と通路・運用設定で確認します。
| 比較する条件 | 確認すること |
|---|---|
| 搬送能力 | 最高速度だけでなく、積み卸し、交差点での待ち、空車回送を含む搬送時間と台数 |
| 経路と床 | 通路幅、旋回、扉、段差、勾配、床の状態を採用機種の条件に照合する |
| 複数台の運用 | 優先順位、対向・交差時の待ち、渋滞、停止車両の回収、通信断時の扱い |
| 費用 | 車両、移載機構、充電器、工事、制御連携、保守を同じ要求・期間で比較する |
| 変更と管理 | 地図・経路・設定変更の手順、再確認、担当者教育、メーカー支援 |
「10m以上なら有利」「コンベアの3〜10倍の費用」「初導入ならAGVの方が管理しやすい」といった一律の順位では決めません。変更する経路や必要搬送量を具体化し、同じ条件の見積と運用案で判断します。
充電時間と必要台数は一緒に計画する
充電時間は、機種、開始・終了時の充電率(SOC)、荷重、走行条件、充電器によって変わります。メーカーの走行時間も、無負荷と積載時などの条件を確認します。「8時間あたり0.5〜1時間」を共通値にはしません。
説明用に、8時間の観測枠の中で1時間充電し、それ以外の停止がないと仮定すると、その個体が充電以外に使える時間の割合は7/8 = 87.5%です。予備車を1台加えても、この個体の充電時間が減るわけではありません。
搬送全体では、時間帯ごとの必要台数、充電へ回す台数、充電器の同時利用、移動・接続時間を組み合わせます。充電中にも必要な搬送を満たせる配車計画を作り、ピーク時間帯や故障時を含めて確認します。単に「必要台数+1台」で搬送要求の達成や稼働率90%以上を保証しません。
搬送自動化で見落としやすい条件
ワークの姿勢
重心が高い、接触面が小さい、転がりやすいといった形状では、発進・停止・曲がり・受け渡しの際に姿勢が崩れる可能性があります。重心位置と接触面を確認し、必要に応じてパレット・トレイで支持します。載せるだけで安定すると考えず、搬送する姿勢と動作で確認します。
工程間のバッファ
実際の供給ペースが払出しペースより速い状態が続くと在庫が増え、逆なら減ります。バッファは一時的な差を吸収できますが、恒常的な平均能力差をなくすものではありません。
量を検討するときは、需要から決めるタクトタイムと、実際の到着間隔・処理時間・停止のばらつきを分けて記録します。アキュムレーション搬送の説明(Dorner)も参考に、製品どうしの接触可否や前後工程への受け渡しに合う蓄積方法を選びます。工程能力の釣合いはラインバランシングで併せて確認します。
メンテナンスのための空間
レイアウト図には、作業者が近づく空間だけでなく、カバーの開閉、工具操作、ベルト・ローラー・モーターを抜く方向、取り外した部品を支持する場所を示します。
例えばDorner 2200シリーズの保全マニュアル(851-453 Rev.B)では、支持脚や駆動部の構成でベルト交換手順が分かれています。このように、採用機種の手順と取外し経路を図面へ重ねて確認します。側面・下面に600mmあれば交換できるという一律の判定にはしません。この寸法検討を、通路や安全距離の適合確認の代わりにもしません。
社内・メーカーへ説明する例
以下は要求を伝えるための文案例です。実際の導入費や実測値を示すものではありません。
上司・設計者に対して: 「工程間距離15m、行先3工程という条件で、固定コンベアと移動搬送を比較します。ピーク時の搬送量と積み卸し時間を揃え、設備費・工事費・運用費と経路変更の手間を見積もります。」
搬送機メーカーに対して: 「ワーク5kg、搬送ピッチ500mm、必要搬送間隔15秒/個なら、定常搬送速度は2m/minです。最大トレイ幅400mmに左右100mmを仮置きして有効幅600mmを検討しています。移載、最小品種の支持、加減速、停止精度、交換作業の空間を含めて成立する仕様をご提案ください。」
まとめ:搬送方式を仕様へ落とす
搬送物と経路、時間帯ごとの必要量、受け渡し条件から方式を絞り、速度・幅・駆動・充電・保全を同じ運転計画で確認します。方式名の費用順位や一律の余裕率を、そのまま選定基準にはしません。
決めた入力条件と確認方法を設備仕様書へ残し、構想・方式選定から安全設計、運用までのつながりを自動化・省力化ロードマップで確認してください。
- ラインバランシングの基礎 — 搬送を含めたライン設計へ
- タクトタイムの設計 — 需要のペースと搬送間隔を区別する
- 産業用ロボット導入の基礎 — ロボット搬送の設計へ