「防水仕様なのに水が入った」は設計ミスではないかもしれない
IP67対応の機器を屋外に設置したのに内部に浸水した——こういうトラブルは実際に起きる。原因のひとつは、IP等級の「試験条件」が現場の使用条件と合っていないこと。
IP67の表示だけから、高圧洗浄や継続的な水没への適合までは判断できません。一方で、IP67の製品がすべて洗浄に使えないという意味でもありません。必要な水の条件と、製品が確認した試験・取付条件を対応させることが選定の出発点です。
IP等級は、規格番号と版を一緒に読む
IPコードは、外郭による保護の種類と程度を表します。基本の二つの数字は、第一が危険部への接近と外来固形物、第二が水の浸入に関するものです。油や洗剤など、液体一般への耐性を表す数字ではありません。
現在の国内規格はJIS C 60529:2026です。旧JIS C 0920:2003は2026年1月20日に廃止され、C 60529へ移行しました。日本規格協会は、IEC 60529の改訂で追加されたIPX9との整合を制定の背景として説明しています。旧番号が残る製品資料では、試験した版を確認します。番号の変更だけで既設機器を不適合とは判断しません。
IEC 60529側のIPX9と、ISO 20653など車載分野の規格で扱うIPX9Kは、出典を分けて読みます。JQAの説明もこの区別を示しています。9KをIECの数字表へそのまま継ぎ足さず、仕様書には適用規格・版を記します。
第一の数字:固形物の侵入と危険部への接近
たとえばIP65の「6」は耐塵形、「5」は噴流水に関する表示です。第一の数字の0は特に保護を指定しないもの、1〜4は所定の固形物・接近プローブによる保護、5は機能・安全性を損なう量の粉塵が入らない保護、6は粉塵が入らない保護を示します。いずれも規定された試験条件での評価です。
オムロンの説明では、2について固形物の侵入と指相当のプローブが危険部に届かないことを区別しています。開口の寸法だけで感電・巻込みなどの安全全体を判定しないでください。
第二の数字:水の作用を分ける
| 水の作用 | 読み分ける表示 | 確認する条件 |
|---|---|---|
| 滴下・散水・飛まつ | X1〜X4 | 方向、傾き、試験器具と水量 |
| 噴流水・強い噴流水 | X5・X6 | ノズル、流量、距離、面積に応じた時間 |
| 一時的な浸漬 | X7 | 機器の高さ、水深の基準点、時間 |
| 継続的な浸漬 | X8 | 製造者と使用者が定めた圧力・時間など |
| 高圧・高温の水噴射 | X9、別規格のX9K | 規格・版、温度、圧力、噴射位置、対象寸法 |
この表は選定時の確認項目であり、試験手順書ではありません。東洋電装の旧JISに基づく解説は、X1の公称降水量を1 mm/分、X2を3 mm/分と区別しています。X1の「200 mm/h」とX2の「同上」という扱いは適切ではありません。同資料ではX3/4の方式別条件、X5/6の面積当たり時間と最低時間、X7の機器高さによる水深基準点の違いも示されています。「3分」「1 m・30分」などの一部の値だけを切り出して全機器へ適用しないようにします。
実際の試験・受入れでは、採用した規格の版と製品規格に戻り、装置・許容差・前処理・判定条件まで確認します。高温高圧噴射も、小型品の回転台での試験概要を大型盤へそのまま流用しません。
数字の大小で、洗浄と水没をまとめて選ばない
噴流への保護と浸漬への保護は、別々に必要性を確かめます。 IP68だけで洗浄も含む、IP69Kだけで水没も含む、という読み方はできません。Phoenix Contactの複数表示の説明も、噴流・浸漬・高温高圧噴射の組合せを分けています。
| 使用する状況 | 要求のまとめ方 | 避ける判断 |
|---|---|---|
| 粉塵のある屋内 | 粉塵の性状・量、危険部への接近、放熱条件を整理する | 屋内という理由だけで等級を決める |
| 雨や飛まつがかかる屋外 | 水の方向・量に加え、日射、腐食、温度変化も確認する | IPの数字だけで屋外寿命を保証する |
| 洗浄する | ノズル、圧力、流量、距離、温度、洗剤、時間を伝え、必要な試験と使用可否を確認する | IP66ならどんな高圧洗浄でもよいとする |
| 水没の可能性がある | 一時的か継続的か、水深・時間・姿勢を明示する | IP67の表示だけで任意の長時間水没を認める |
| 洗浄と水没の両方がある | 両方の要求を列記し、それぞれに対応する表示・試験条件を確認する | IP68かIP69Kのどちらか一つで両方を満たすとする |
IP65とIP67も、一方の表示だけで他方の水試験を確認したことにはなりません。「IP67は噴流試験を通っていない」と製品全体について断定するのも避けます。別の等級を併記した製品があるからです。たとえばオムロンE3ZMの仕様はIECのIP67とDIN 40050-9のIP69Kを別々に表示しています。採用型式と接続状態も合わせて確認します。
筐体と付属品を、組み上がった状態で確かめる
ケーブルグランド・未使用穴
グランドの表示を筐体とそろえるだけでは、完成状態の保護を確認したことになりません。選んだ部品が必要な試験条件に対応し、メーカー指定の構成と施工条件を満たす必要があります。
- ケーブル外径と、グランド・シールの適合範囲を合わせる。
- 穴径、板厚、ねじ部、取付面、パッキンの構成を取扱説明書に対応させる。
- 指定の締付け条件を守り、未使用穴は適合するプラグで封止する。
- 部品型式、施工状態、完成後の確認方法を記録する。
icotek KVT-ERの製品例でも、ケーブル径やグロメット構成に条件があります。同じIP表示でも、任意の穴・ケーブル・締め方へ適用できるわけではありません。
コネクター・扉・窓と保守
コネクターのかん合・ロック、扉パッキンの接触、窓のシール、開口加工を確認します。Rittal AX樹脂筐体の取扱説明書は、指定トルクや開口部のシール、使用環境に応じた保守を求めています。
点検では緩み、亀裂、変形、パッキンの劣化などを調べ、必要な補修・交換を記録します。周期はメーカー指示と使用・洗浄条件から決めます。「年1回」は同説明書の条件付きの例であり、すべての設備の十分な周期ではありません。増締めのし過ぎでも部品を傷めるため、一律に強く締める運用にはしません。
IP等級と結露対策は別に考える
高いIP表示があっても、空気や水蒸気を全く通さないとは限りません。結露は内部の水分と表面温度・露点の関係で起きます。保守で扉を開いたときの湿気や、温度変化も確認します。
Rittalの結露解説を参考に、次を組み合わせます。
- 温湿度と冷える面を確認し、必要ならヒーターと制御で露点を下回る状態を避ける。部品の許容温度も守る。
- 適合する通気膜・ブリーザーを検討する。気体を通す機能と防水性能の両方を、取付状態で確認する。
- 乾燥剤を使う場合は吸湿量と交換・再生の管理を決める。入れたままで永久に無結露とは扱わない。
ベントを付けること自体で、どの環境でも結露がなくなるわけではありません。開口の追加による保護性能と、実際の温湿度の両方を確認します。
温度・薬品・振動の条件も仕様に分けて書く
水の試験を満たすことから、洗剤・油・溶剤への耐性までは推定できません。濃度、温度、接触時間と、筐体・シール・接着部それぞれの材料適合を確認します。耐熱性も材料名だけで決めず、グレードと連続・間欠使用条件を見ます。シリコーン材料メーカーの説明も、温度や使用環境による性能・寿命の違いを示しています。
振動・衝撃への耐性も別の要求です。振動を抑える設計は防振設計の基礎へ進み、据付けや配管からの伝達経路も整理します。IP等級を振動試験の代用にはしません。
図面・仕様書と確認記録へ落とし込む
たとえば「IP65(適用規格・版を指定)」を要求する場合も、その一行だけで発注せず、次を添えます。
| 仕様欄 | 記入・確認する内容 |
|---|---|
| 実環境 | 粉塵、水・洗剤、温度、圧力、距離、浸漬の時間・深さ |
| 要求する保護 | 噴流・浸漬など必要な試験を別々に指定し、規格・版と対応させる |
| 完成構成 | 筐体・グランド・コネクター・窓・ベント・プラグの型式と取付条件 |
| 材料・温度 | 材質、表面処理、シールのグレードと使用条件 |
| 受入れ | 対象構成の図面版、試験・確認方法、判定条件、提出記録 |
| 保守 | 点検箇所、周期、交換条件、記録先 |
材料欄の「SS400・外面粉体塗装」や「シリコンゴム・連続使用温度−40〜200℃」は要求を相談する例として記せますが、全製品で満たせるという保証ではありません。水の条件や寿命も含めて具体品で確認します。
社内での説明例:「高圧洗浄と一時的な浸漬の両方があります。圧力・温度・距離と水深・時間を仕様に書き、それぞれへの対応をメーカーへ確認します。」
外注先への依頼例:「指定した水の条件に対応する完成構成を提案してください。グランド等の型式と取付条件、対象構成の試験結果・確認記録を提出してください。」
保全担当との確認例:「パッキン・窓・接続部の点検箇所と交換条件を取扱説明書に合わせましょう。洗浄条件を変える場合は、使用可否も見直します。」
次のステップ:
- 制御盤設計の基礎 — 盤全体の構成と放熱・配線へ
- 設備構造設計の基礎 — 筐体・フレームの構造設計へ
- 機械安全のリスクアセスメント — 環境条件を含む安全設計へ