「安全は後付けでいい」は大きな間違いだ

設計が進んでから安全カバーを追加すると、周囲の構造や作業方法の見直しが必要になる場合がある。

配線との干渉、保全時のアクセス、非常停止装置の操作位置などを、設計初期から一緒に検討する。追加対策や改造の際も、その変更による新たな危険を確認する。

たとえば、プレスの危険動作中に手が届き、検出できない範囲が残っていれば重傷につながるおそれがある。これは確認すべき危険シナリオの例であり、実在事故の報告や後付け対策の事故率を示すものではない。

本質的安全設計は、ガードや保護装置に頼らず、機械の形・材料・動作などを変えて危険源を除去・低減する方策である。設計の早期に検討すると構造や工程を選びやすいが、実施できる時期を初期設計に限るものではない。

本記事では、機械安全の国際規格ISO 12100に基づいたリスクアセスメントの進め方と、リスク低減の3原則について解説する。


機械安全とは何か

機械安全(Machine Safety)とは、機械が人に危害を与えないよう設計・管理するための体系的な考え方だ。

日本の法令上の要求と、厚労省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」、国際規格のISO 12100は区別して確認する。指針は設計・製造・改造等を行う者と使用事業者の実施事項を示すもので、法律そのものではない。厚労省の解説では、製造業・建設業等のリスクアセスメントは努力義務と説明されている。一方、適用される法定措置は、評価点が低いことを理由に省略できない。

ISO 12100の核心にあるのが安全の3ステップメソッド(Three-Step Method)だ。リスクを低減するための順序が定められており、この順番を守ることが重要である。

安全の3ステップメソッド(ISO 12100)

本質的な方策を優先し、残るリスクに応じて次の方策を検討・再評価する。

Step 1 ★最優先

本質的安全設計

危険源をなくす・減らす

構造・素材・動作を変えて危険源をなくす・減らす
例:鋭利なエッジを丸め、切傷を減らす

→
Step 2 次善策

安全防護・付加保護方策

危険源を隔離・遮断する

安全防護:ガード、ライトカーテンなど
付加保護:非常停止など(安全防護の代替にしない)

→
Step 3 補完措置

使用上の情報提供

残留リスクを知らせる

警告ラベル・取扱説明書・教育訓練で残留リスクを伝える
例:注意標識、保護具着用指示

⚠ Step 3のみで終わらせると「注意してください」だけの設備になる。Step 1・2を十分に検討した後の補完措置として位置づける。


リスクアセスメントの手順

リスクアセスメントでは、機械の用途・作業者・使用空間・寿命などの範囲を先に定め、危険源と危険な状況を洗い出す。見積り・評価・低減とその効果の確認を繰り返し、見落としや変更の影響を減らす。

ステップ1:ハザード(危険源)の特定

意図する使用と予見可能な誤使用について、誰が、どの作業で、何に接近し、どんな危害を受けるかを具体化する。次の分類は確認の入口であり、これだけで網羅したとはしない。

  • 機械的ハザード:回転部・往復運動部・鋭利なエッジ・高圧流体
  • 電気的ハザード:感電・短絡・静電気
  • 熱的ハザード:高温表面・溶接飛散・冷媒漏れ
  • 騒音・振動ハザード:聴覚障害・手腕振動症候群
  • 化学的ハザード:有害物質・粉塵・燃焼性ガス
  • 人間工学的ハザード:無理な姿勢・重量物取り扱い

設備の「ライフサイクル全体」でハザードを考えることも重要だ。通常運転時だけでなく、段取り替え・メンテナンス・清掃・トラブル対応・搬入・廃棄の場面でも危険源が存在する。

ステップ2:リスクの見積もり

危険源と危険な状況を特定したら、危害の重大性と発生する可能性を組み合わせてリスクを見積もる。以下は本記事の計算例であり、ISO 12100がこの3×3の表や点数を指定しているという意味ではない。

評価項目 内容 評価例
危害の重大性(S) 傷害の深刻さ 軽傷=1、重傷=2、死亡=3
危害の発生可能性(P) ばく露頻度・危険事象の発生・回避可能性等 低=1、中=2、高=3
リスクの見積り値 この例では S × P 1–2=低、3–4=中、6–9=高

数値の組み合わせによる「リスクマトリクス」を使うと視覚的に判断しやすい。

評価尺度と適用する要求を先に確認する

段階数や点数だけを他社から写さず、対象の法令・機械別規格・契約上の要求を確認したうえで、社内の尺度と評価基準をそろえる。適用要求の確認と、社内の記入方法を決めることは別の作業だ。

資料 役割 この例との関係
ISO 12100 機械のライフサイクルを通じたリスクアセスメント・低減の原則 本記事のS・P点数を規格の指定値として扱わない
厚労省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針 同解説」(別添4) 見積り手法と4区分の重大性の例 休業日数だけでなく、死亡・永久損傷等も尺度に含む。下の独自3区分とは換算しない

以下は計算を説明するための独自の簡略尺度である。社内では傷害・疾病の範囲と判定根拠を具体化し、機械や作業に適した尺度を使う。

S 呼び名 本記事で仮定する範囲
1 軽傷 不休。かすり傷程度
2 重傷 休業を伴う。切断など永久損傷もこの例では含める
3 死亡 死に至りうる

厚労省の4区分例では永久損傷は「致命的」に含まれる。本記事の「重傷=2」と混用せず、重篤な危害を低く扱わない。Pの低・中・高も、作業頻度・危険事象・回避可能性とその根拠を記録して判定する。P=1は発生確率1%や危険ゼロを意味しない。

ステップ3:リスク低減措置の実施

評価に基づいて安全の3ステップメソッドに沿い対策を検討し、実施後の効果と新たな危険を再評価する。社内の点数基準だけでなく、適用される要求と残留リスクも確認する。


リスク低減の3原則

安全の3ステップメソッドを、実務レベルで具体的に理解しよう。

原則1:本質的安全設計

機械の構造・素材・動作を変え、危険源をなくす、またはリスクを小さくする方策を優先して検討する。費用対効果の順位は、対象機械と変更内容により異なる。

具体例

  • バリや鋭利なエッジを除去し、切傷や引掛かりを減らす。挟圧点の隙間・力への対策は別に確認する
  • エアシリンダの速度を下げ、衝突のエネルギーを小さくする。速度低下だけで挟圧力が小さくなるとは判断しない
  • 低電圧化を含め、電源・絶縁・保護構成・使用環境に応じた感電保護を設計する。DC24Vという値だけで保護完了としない
  • 軽量化により持ち上げ時の負担を減らす。持ち上げ作業そのものの廃止には、供給・搬送など工程の変更も検討する
  • 危険エリアを作業者が立ち入る必要のない位置に設計変更する

本質的な方策は初期から検討すると構造や工程の選択肢を確保しやすい。完成後でも、変更可能な構造・運転特性を検討し、改造による新たな危険も含めて再評価する。

原則2:安全防護・保護方策

本質的安全設計で除去しきれなかったリスクに対して、ガードや安全装置を設ける。

固定式ガード:危険部への接近や飛散物などに対する囲いとして、必要な範囲・強度・開口部・取外し方法を定める。アクセス頻度を含めて方式を選び、保全のために外す際の措置も決める。

可動式インターロックガード:開いている間は関係する危険動作を禁止し、開けたときの停止を行う。惰性運転中など、危険がなくなる前に人が届く場合はガードロック等を検討する。閉じたという信号だけで区域内が無人・安全とは判断せず、閉鎖だけで再起動させない。

感応式安全装置:ライトカーテン・安全マット・安全レーザースキャナ等で接近や侵入を検出する。検出領域、装置の応答と機械の停止時間、危険部へ届くまでの距離を確認する。飛散物の封じ込めなど、この装置では防げない危険には別の方策が必要になる。

両手操作制御装置:両手で操作ボタンを押し続けている間だけ機械が動作する。プレス機などで多用される。

⚠️ 手を離しても「入れなくなる」わけではない。 切れるのは危険動作の指令であって、危険エリアへの入域そのものは止まらない。この装置が守っているのは「押している間、操作者の両手がボタンに縛られている」という一点だけである。ここを取り違えると、次の2つが手当てされないまま残る。

  • 他の人は守らない。 操作者がボタンを押していても、別の作業者が危険部に手を入れていれば挟まれる。第三者に対しては囲い・インターロック・検知を別に設ける
  • ボタンの位置は停止時間で決まる。 手を離してから機械が止まり切るまでに危険部へ届いてしまう位置なら、装置があっても間に合わない。必要な距離は機械の停止時間と装置の応答時間で変わるので、ISO 13855/JIS B 9715(人体部位の接近速度に基づく位置決め)で確認する。片手やひじで無効化できない配置もISO 13851(両手操作制御装置)が要求している

社内説明では「この装置が守るのは、押している本人の手だけです」と先に言い切る。そうしないと、第三者保護の議論が抜け落ちたまま「両手操作があるから大丈夫」で話が進む。

原則3:使用上の情報提供

Step 1・2 を実施してもなお残る「残留リスク」について、作業者に適切な情報を提供する。

  • 警告ラベル・注意標識の貼付
  • 作業手順書・取扱説明書の整備
  • 保護具(手袋・安全靴・保護メガネ)の指定と着用指示
  • 定期的な安全教育・訓練の実施

繰り返しになるが、このステップはあくまで「補完」である。「注意してください」という情報提供だけで安全設計が完結したとは言えない。


インターロックと非常停止の設計ポイント

インターロックによる安全機能と非常停止は、対象と役割を分けて設計する。非常停止は付加保護方策であり、ガードや保護装置の代わりにはならない。

インターロックの基本

インターロックとは、「特定の条件が満たされていない限り、機械の特定の動作を禁止する」仕組みだ。

設計の原則

  • 安全状態を定義する:危険源ごとに、停止だけでよいか、落下部の保持や圧力・残留エネルギーへの措置も必要かを決める。断線・短絡・電源喪失と復帰など、想定する故障時と復旧時の挙動も確認する。
  • 安全機能ごとに要求を決める:作動条件・応答時間・運転モード・再起動条件を整理し、ISO 13849-1を用いる場合は要求PLrと達成PLを照合する。カテゴリB/1/2/3/4は構成と故障時挙動に関する要素であり、カテゴリだけでPL a〜eが決まるわけではない。
  • 構成と妥当性を確認する:入力・論理・出力を含め、部品の信頼性、診断、共通原因故障等を評価する。すべての機能に同一の冗長構成を当てはめず、要求性能と適用規格に応じて設計・検証する。オムロンの設計プロセス解説も参照できる。

本記事のS×PからPLrや安全距離を直接換算しない。通常の工程インターロックを設けたことだけで、安全関連制御の性能を満たしたとも判断しない。

保全は、まず防護を解除せずに行える構造、次に停止した状態での作業を検討する。必要な動力源の隔離・誤投入防止・残留エネルギーの除去や機械的保持を含めて手順を定める。

停止できない調整等で防護の解除が必要な場合は、対象と範囲を限定し、通常生産と区分された設計済みのモードを使う。他モードの禁止、継続操作による動作許可、必要な速度・力の制限等の代替保護を確認する。承認・記録・期限の管理だけで解除中の稼働を許可せず、作業後の復帰と安全機能の検証までを一組にする。厚労省指針の別表2~4では、保全の優先順位、専用モード、安全防護・付加保護を確認できる。

非常停止の設計

非常停止は、現に生じている、または切迫した危険に対し、人の操作で危険の進展を抑える機能である。リスクを増やさず可能な限り速やかに停止させる。停止カテゴリ0はアクチュエータへの動力を即時に除去する停止、カテゴリ1は停止に必要な動力を使って制御停止した後に除去する停止である。即時の動力遮断は、機械の動きがゼロ時間で止まる保証ではない。慣性・重力・負荷・保持の必要性を含めて停止方式と時間を確認する。オムロンの停止カテゴリ解説も参照する。

設計のポイント

  • 位置:想定する作業位置・姿勢から見つけやすく、安全かつ速やかに操作できる配置を確認する。通常運転だけでなく段取りや保全も対象にする。
  • 色・形状:赤い操作部と、背景を設けられ実行可能な場合の黄色背景を基本に、適用規格と機器形式に応じて確認する。きのこ形押ボタンは代表例で、すべての非常停止装置が同じ形ではない。IDECのISO 13850解説を参照する。
  • 自己保持:押したら保持状態になり、意図的なリセット操作なしに自動復帰しない設計にする。
  • 設置範囲:各操作場所や人が介入する箇所を評価し、必要な位置・個数と停止させる範囲を決める。大型かどうかだけで判断しない。
  • 停止後の確認手順:作動原因と安全状態を確認して意図的に解除する。解除・リセットだけでは再起動させず、安全条件を満たしたうえで別の起動操作を要する設計にする。

リスクアセスメント表の記入例

リスクアセスメントは「記録に残す」ことが重要だ。設計時の判断根拠を残すことで、設備の変更時・事故発生時の原因究明、審査対応などに役立つ。

以下はS×Pの記録方法を説明するための仮定例で、実機の測定・妥当性確認を終えた評価ではない。S・Pは前節の独自尺度、低=1–2・中=3–4・高=6–9を用いる。対策後をS′・P′と表記し、数値を変えた理由と効果の確認方法を併記する。

No. ハザード 危険状態 危害の内容 重大性(S) 発生可能性(P) リスク(S×P) 対策(Step) 対策後リスク
1 回転部(モータ軸) 回転中にカバー開放 巻き込み(死亡に至りうる) 3(死亡) 2(中) 6(高) 到達前の停止・保持を含むガード(Step2) S′3 × P′1 = 3(中)
2 高温ヒータ表面 素手で接触 熱傷(休業を伴う程度) 2(重傷) 2(中) 4(中) 接触を防ぐカバー+残留リスクの表示(Step2/3) S′2 × P′1 = 2(低)
3 エアシリンダ 段取り中の誤作動 挟まれ(指の切断) 2(重傷) 1(低) 2(低) 専用モード・必要な代替保護とインターロック(Step2) S′2 × P′1 = 2(低)

対策後の値を置くために確認すること

  1. 回転部:危険部へ届く前の停止、停止中の保持、無効化への対策等が有効で、危害の発生可能性をP′=1と見積もれると仮定した。巻き込み時の危害そのものは残る条件なのでS′=3を維持した。結果は3(中)であり、低区分には達していない。
  2. ヒータ:カバーの開口部・表面温度・固定状態と想定作業を確認し、接触の可能性をP′=1へ低減できたと仮定した。接触した場合の熱傷の程度は変わらない条件なのでS′=2とした。表示を付けただけで点数を下げない。
  3. シリンダ:代替保護の機能・故障時挙動・復帰を確認するが、この粗い尺度ではPはもともと1で、切断の可能性が残るためSも2のままとした。対策を付けたという理由だけで1点へ下げない。

これらの仮定を実機の試験・設計根拠・作業観察で確認できなければ、対策後は未判定と記録する。Sが必ず不変という規則ではなく、危害の程度が変わる方策ならその根拠を別に示す。上の「低」は計算上の区分で、安全・稼働可の結論ではない。社内の許容基準、法定措置、重篤な危害への対策と残留リスクを併せて判断する。

表の使い方のポイント

  • 対策後のS・Pと根拠、効果確認結果を残し、適用要求と組織の基準に照らして低減を繰り返す
  • 担当者・確認日・承認者、対象機械・制御の版、試験記録と未決事項を対応させる
  • 設備の改造・仕様変更のたびに見直す

リスクマトリクス(見積もりの目安)

本記事の独自尺度による計算例。低区分でも稼働可とは判定しない

重大性 ↓ / 可能性 → 低(1) 中(2) 高(3)
軽傷(1) 低(1) 低(2) 中(3)
重傷(2) 低(2) 中(4) 高(6)
死亡(3) 中(3) 高(6) 高(9)

※ 例示の区分:1–2は低、3–4は中、6–9は高。適用要求・重篤な危害・対策の効果を別に確認する。


設計・運用時の確認事項

失敗1:完成後にリスクアセスメントを実施する

基本設計から着手し、詳細設計・製作・試運転・使用や改造の各段階で評価を更新する。完成後は構造・費用・工程の制約が増える場合もあるが、本質的な方策を検討対象から外さない。

失敗2:通常運転のみを対象にアセスメントする

通常生産だけでなく、段取り・調整・清掃・修理・搬入・廃棄等の作業を対象にする。作業者以外の接近や予見可能な誤使用も確認する。

失敗3:インターロックをバイパスしたまま運用する

保護装置の解除状態で通常生産を続けない。解除が必要な作業の承認・記録・期限は社内の管理方法として定め、前節の専用モード・代替保護・復帰検証と併せて運用する。誤検出があれば、原因と適用条件を確認する。

失敗4:安全対策を「コスト」として扱う

必要なリスク低減を、費用だけを理由に省略しない。設計初期から実施・検証・維持のための費用と日程を見込み、複数の方策を安全上の要求と実施条件に照らして比較する。

失敗5:リスクアセスメントを「書類作り」と思っている

表を埋めることに加え、危険シナリオ・根拠・方策と実機での確認結果を結び付ける。未確認事項には担当者と解消条件を置き、完了した対策と区別する。


まとめ

機械安全の基本は、「安全を最初から設計に組み込む」という発想の転換だ。

ISO 12100の安全の3ステップメソッドは、本質的安全設計→安全防護→使用上の情報提供の順に優先して対策を立てる。この順番を守ることが、効果的かつ効率的なリスク低減につながる。

リスクアセスメントは一度やれば終わりではない。機械のライフサイクルと変更に応じて見直し、安全機能ごとの安全状態・要求性能・復帰条件を検証する。防護解除の手続きと技術的な代替保護の両方をそろえる。

最初の一歩として、今手がけている設備の通常生産以外の作業も書き出し、誰が何に接近するかを確かめる。 見つかった危険と、情報が足りない箇所を記録し、設計・使用の担当者と評価を進める。


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