「壊れてから直す」では生産が止まる
設備が突然停止し、部品や修理体制の準備もなければ、生産計画が崩れやすい。事後保全(BM:Breakdown Maintenance)は故障後に復旧する方式だが、費用や停止時間は故障の影響、代替手段、予備品の準備によって変わる。「BMなら在庫管理ができない」「予防すれば必ず安い」とは決まらない。
設備保全の目標は、安全と必要な品質を確保しながら、計画した稼働を支えること。そのために、故障の影響と劣化の進み方に応じた保全計画を作る。
保全の種類と使い分け
予防保全(PM)は故障前の対処を含む広い分類で、時間基準保全(TBM)と状態基準保全(CBM)に分けて考えられる。ここでは、周期で行う作業と、状態監視・予測を使う作業を区別して整理する。電気学会の保全方式の解説も、この分類と方式ごとの適用条件を説明している。
| 保全の種類 | 内容 | 選ぶときの条件 |
|---|---|---|
| 事後保全(BM) | 故障後に修理・交換 | 故障の影響を許容でき、復旧手段を準備できる対象で検討する |
| 時間基準の予防保全(TBM) | 時間・回数などで点検や交換を計画 | 経年・使用量と劣化の関係、指定周期、点検実績を確認する |
| 状態基準・予知保全(CBM・PdM) | 状態の変化を捉え、必要に応じて劣化の進行を予測して対処 | 検出できる故障モード、対処までの余裕、監視費用を確認する |
| 改良保全(CM) | 故障原因や保全上の問題に対して設備を改良 | 原因を検証し、改良後の効果と新たなリスクを確認する |
選択の基本方針:
- 影響の大きい設備では、故障モードごとに時間基準・状態基準・設計改善・復旧手段を組み合わせる。
- 代替があり影響を許容できる対象ではBMも候補になる。ただし、安全・環境・品質の要求や必要な点検を省く理由にはしない。
- 同じ箇所の再発は原因分析のきっかけにする。同じ場所でも原因が同じとは限らない。
予防保全計画の作り方
Step 1:設備のランク分け(重要度評価)
生産停止だけでなく、人への危険、環境への影響、不良の流出、代替の有無、復旧時間も評価する。次は生産影響を中心にした社内分類の例で、ランクだけから保全方式や在庫数を決めるものではない。
Aランク(最重要)の例:
・停止で生産ライン全体が止まる、代替設備なし
→ 故障モード別の対策と復旧計画を優先して検討
Bランク(重要)の例:
・停止で一部工程が止まる、代替が難しい
→ 影響と劣化に応じた点検・交換・予備品を検討
Cランク(一般)の例:
・停止の影響が限定的、代替あり
→ 必要な安全点検等を保ち、BMを含め費用と影響を比較
⚠️ Aランクだから予知保全、とは決まらない。 主な確認点は、①劣化の兆候が測れる②兆候を捉えてから故障するまでに対処できる③監視・対処の費用が回避できる損失に見合うこと。兆候が測れないからといって、時間基準の交換が有効とも限らない。時間や使用量に応じた劣化と交換の効果を確認し、有効な保全で抑えられない故障には設計改善や復旧手段も検討する。
Step 2:点検項目と周期の設定
設備の部位ごとに「何を・いつ・誰が・どの状態で・どう測り・何を基準に判断するか」を決める。取扱説明書、適用される点検要求、負荷・環境、劣化実績を根拠に周期を設定し、履歴から見直す。日次・週次・月次・年次という表だけで、給脂・交換・清掃の時期を一律に決めない。
【保全計画の記入欄の例】
・設備/部位/型式:対象を特定
・項目:音・振動、油面、ドレン、張力など対象に必要なもの
・実施時期:始業前/指定の動作時間・回数/定期日/異常後など
・根拠:取扱説明書の版と該当箇所、点検実績、適用要求
・方法と条件:運転状態、測定位置、器具、安全な作業手順
・判定:型式に合う許容値や外観基準、異常時の処置
・担当と予定:実施者、確認者、必要な計画停止、次回予定
安全装置の確認は一律に年1回へまとめず、採用品・設備の要求に応じて始業時、定期、据付・変更・修理後などの確認を計画する。運転中の外観監視と、ガード内に入る整備・清掃は区別する。後者では停止だけでなく、エネルギーの隔離、再起動防止、残圧・重力など蓄積エネルギーへの措置を作業手順に定め、必要な知識を持つ担当者が行う。点検周期の考え方はHSEの点検ガイダンス、整備時の措置は保全ガイダンスも参考になる。これらは英国の資料であり、国内の適用法令・設備ごとの要求は別に確認する。
Step 3:部品の寿命と交換周期の設定
MTBFと軸受のL10は異なる指標で、その一定割合を交換周期にする共通則はない。
- MTBF(平均故障間隔)は、修復して使う設備の故障間の動作時間に関する平均の指標。集計対象・故障の定義・観測期間を揃え、動作時間と故障件数を記録する。平均値だけでは経年による故障の増え方や個々の交換時期は分からない。JIPMの指標解説を参照。
- 軸受の基本定格寿命L10は、所定条件で運転する同一の軸受群の90%が、転がり疲れによる剥離を生じずに到達できる寿命。一定回転速度なら時間でも表せるが、個々の軸受の故障時刻や無条件の交換期限ではない。荷重・潤滑・汚染・温度などの条件と、他の損傷原因を確認する。JTEKTの軸受寿命解説を参照。
- 交換周期は、メーカーの指定、故障モードと劣化傾向、点検結果、故障の影響を合わせて決める。不明な値をMTBFやL10の0.7〜0.8倍で補わない。故障履歴が少ない対象は、暫定の根拠と見直し条件を明記する。
次は交換周期の推奨ではなく、動作時間を稼働日・年へ換算するだけの仮定例だ。
動作時間の仮定:16,000時間
稼働条件の仮定:8時間/日、年250日
16,000時間 ÷ 8時間/日 = 2,000稼働日
2,000稼働日 ÷ 250日/年 = 約8年
※16,000時間を採用する根拠は、この換算からは得られない。
点検記録と管理
点検チェックシートの設計
点検チェックシートは、測定条件と判断基準を明記する。「確認した」だけでも、型式を無視した数値だけでも判断がばらつく。
不足する例:「ベルトの状態を確認する」
記入欄の例(空欄のまま合否判定に使わない):
□ ベルト型式・測定スパン・測定方法:__
□ 指定たわみ量と、そのときの張り荷重の許容範囲:__
□ 歯・側面・背面などの損傷判定と処置:__
□ 根拠となるメーカー資料の版・箇所:__
□ 実測値/判定/処置/確認者:__
たとえばVベルトの取付説明では、スパンに応じたたわみと、そのときの荷重を対応させている。「たわみ5〜10mm」だけでは張力の判定条件が足りない。損傷もタイミングベルトの損傷例など採用品の基準を確認する。異なる種類のベルトへ同じ摩耗率・交換基準を流用しない。
保全記録のつけ方
保全記録は将来の計画見直しと故障分析に使う。点検の種類に応じて、次の情報を対応づける。
・実施日時、設備番号・部位・型式、実施者・確認者
・動作時間・回数、運転条件、点検・作業内容
・測定値・外観、基準と判定、写真やアラーム等の根拠
・故障症状、原因の確認状況(推定と確認済みを区別)
・交換した部品(品番・数量)、使用した予備品と補充状況
・実施した処置、未処置事項の担当・期限・暫定措置
・再稼働の確認・承認、処置後の状態、次回点検予定
故障間隔を比較する際は、停止時間も含む暦時間と実際の動作時間を混ぜない。記録は同じ設備・故障の定義で集計し、部品や運転条件を変更した期間は区別する。
予知保全の導入
振動・温度・電流などの継続監視は、対象の故障モードに対応していれば異常の兆候を捉える助けになる。測定値の変化だけで原因を確定せず、負荷・回転速度・周囲温度・測定位置などの条件と追加点検を合わせて判断する。
予知保全で確認する情報の例
| 監視対象 | 測定の例 | 兆候と、追加で確かめること |
|---|---|---|
| ベアリング | 振動・温度 | 変化を捉え、回転条件や潤滑・取付状態などを調べる。値だけで損傷原因を断定しない |
| モーター | 電流・波形など | 負荷や回転系の変化を調べる。巻線の絶縁劣化には対応した絶縁監視・試験が必要 |
| ポンプ・ファン | 振動・流量など | 流量・振動の変化を捉え、運転点・吸込条件・閉塞や回転部などを確認する |
| 油圧ユニット | 油温・圧力など | 温度・圧力の変化を捉え、設定・負荷・漏れなどを確認する。油の状態は必要に応じ水分・粒子や分析結果も使う |
OMRON K6CMの説明では、電流総合診断、振動・温度、絶縁抵抗で測定する項目を分けている。通常の電流値の大小を、そのまま絶縁抵抗の診断に置き換えることはできない。また、ifmの油用センサでも粒子・水分・温度などを区別している。使用する機種の測定対象と適用条件を確認し、警報後に誰が何を調べ、いつ対処するかまで設計する。
導入判断の目安: 予知保全装置のコスト < 1回の突発停止による損失 × 年間発生頻度
⚠️ これは入口の目安で、この式だけで決めない。 左辺は装置の初期費用しか見ていないので、センサーの保守・通信・監視にかかる運用費が抜けています。右辺も、予知保全で実際に防げる割合を掛けていません(前兆が出ない故障モードは、監視しても止まります)。
比べるときは期間を揃える。 たとえば5年で見るなら、運用費を含めた5年の総額と、その5年で回避できる見込みの損失を並べます。
よくある失敗
以下は、計画を運用するときに起こり得る問題と対策である。
失敗1:保全計画はあるが実施されない
現場が忙しいと作業が後回しになり、計画が機能しなくなるおそれがある。
対策: 保全作業を生産スケジュールに組み込む(計画停止)。必要な人員・部品・安全措置も準備し、延期する場合は影響、暫定措置、判断者、変更した期限を記録する。
失敗2:消耗部品の在庫がない
たとえば部品の調達に2週間かかると仮定すると、故障後に発注する計画では、代替・修理手段がなければその間の停止につながる。
対策: 交換周期だけで在庫数を決めず、計画交換の需要、故障時の需要とばらつき、調達・修理のリードタイム、欠品時の影響、保管費用を合わせて検討する。IBMの予備品在庫の解説も、欠品リスクと保管・購入費用の関係を説明している。予備品リストには品番・適合設備、現数・引当・発注残、補充の判断点と数量、調達先・納期、保管条件を記載し、使用後の補充まで確認する。
失敗3:保全記録がなくて繰り返し壊れる
同じ箇所で再発しても、症状・条件・処置が残っていなければ、原因の比較や改良につながりにくい。
対策: 重大な安全・品質影響は初回から調査する。回数にかかわらず、対策後の再発や劣化の急変も見直しのきっかけにする。「3回壊れるまで待つ」という共通基準にはしない。原因の仮説、確認結果、対策後の効果を記録し、周期・判定基準・予備品計画へ反映する。
社内で説明するときの言い方
上司・管理者に対して(提案例): 「この設備は代替がなく、生産停止の影響が大きい対象です。故障モードとメーカー指定、点検履歴から点検・交換案を作り、計画停止に組み込みます。予備品数は需要と調達期間、欠品時の影響を示して決めます。」
現場・保全担当に対して(対象設備の手順を定めたうえでの説明例): 「始業前には、この設備のチェックシートで指定した項目を確認してください。人への危険が切迫している場合は連絡待ちにせず、設備の手順に沿って安全を確保し、作業停止・退避など必要な措置を取って通報してください。安全や品質を確認できない異常では、所定の停止・対象品の保留などの処置を行い、始動・再開せず責任者へ連絡してください。その他の兆候も、運転継続の可否を含めた所定の判定手順に従ってください。」
労働災害の急迫した危険に対しては、労働安全衛生法第25条が事業者による作業停止・退避等の必要な措置を定めている。停止方法は設備の危険に応じて定めるもので、どの異常でも一律に電源を切れば安全になる、という意味ではない。原因確認・必要な修復・安全確認と承認を経て再稼働する。
まとめ:保全計画設計の3ステップ
- 設備をランク分けする——故障の影響と劣化の特性から、保全・復旧方法を決める
- 点検項目と判断基準を決める——採用品に合う測定条件、数値・外観基準、異常時の処置を設定する
- 記録を残して改善につなげる——処置と効果を確かめ、周期・判定・予備品を見直す
次のステップ:
- 予防保全と生産技術の役割分担 — 保全と生産技術の役割分担へ
- OEEの基礎 — 保全効果をOEEで測定する
- 6大ロスの削減 — 故障ロスの削減アプローチへ