この記事でわかること
こんな人向け: 保全と生産技術のどちらかに属していて、もう一方との連携に悩んでいる方。あるいは両者の間に立って調整役を求められている現場管理者。
この記事では、次の3つを整理する。
- 「どこまでが保全の仕事でどこからが生産技術の仕事か」というグレーゾーンの正体がわかる
- 連携の妨げになり得る評価指標・情報共有・判断権限の違いを確認できる
- 連携を改善するための具体的な行動が取れるようになる
「それ、保全の仕事でしょ」「いや生産技術が対応してよ」——境界が曖昧な場面
例えば、設備が繰り返し止まっているのに、誰が動くべきかで時間が過ぎる場面を考える。
「この設備、定期的にアラームが出るんですけど、どうにかなりませんか」と保全に話を持ち込むと「仕様的な問題だから生産技術に聞いてください」と言われ、生産技術に相談すると「稼働中の設備の管理は保全の範囲ですよね」と返ってくる——。
このやり取りだけでは、原因も担当も決まらない。現在の職務分担、必要な専門性、停止の影響を確認する必要がある。
連携を見直す際は、「役割の定義が曖昧なまま仕事が始まっていないか」を確認したい。人間関係だけで結論を出さず、情報・要員・判断権限・業務の優先順位も調べる。この記事では、そのうち役割と情報共有の仕組みに焦点を当てる。
まずは両者の役割の重点を整理し、自社の分担と照合することから始める。
保全と生産技術、それぞれの役割定義
保全:設備を「維持する」プロ
保全(設備保全)は、設備の機能を維持し、故障時に復旧させ、故障しにくさ・保全しやすさを改善する役割を担う。担当範囲は企業や設備で異なる。
代表的な活動として、次の3つが挙げられる。
- 予防保全(PM): 故障前に行う点検・整備など。時間や設備の状態を基に計画し、故障の予防を図る。
- 事後保全(BM): 故障が起きた後の修理・復旧対応。安全な作業と復旧確認が前提であり、速さだけで評価しない。影響を評価したうえで計画的に選ぶ場合もある。
- 改良保全(CM): 繰り返し起きる故障の原因を改善し、再発を防ぐ。
保全には故障への即応だけでなく、中長期の保全計画や更新検討、新設備の設計への参画もある。日々の復旧と将来の信頼性をつなぐ仕事として捉えたい。
生産技術:設備を「作る・改善する」プロ
生産技術の役割は、製品を効率よく作れる工程・設備・しくみを設計・導入・改善することだ。
詳しくは「生産技術とは|仕事内容・役割・他職種との違いを実務目線で解説」を参照してほしいが、活動の中心は次の3つだ。
- 工程設計: 量産前の工程設計・タクトタイムの計算・作業手順書の作成。
- 設備導入: 仕様書の作成・メーカーへの発注・試運転・検収。
- 改善活動: 稼働中のラインのOEE分析・ボトルネック工程の特定・改善案の実施。
生産技術は中長期の工程設計・導入を担う一方、専門性や社内の分担に応じて稼働中設備の故障解析・復旧支援にも関わる。「短期は保全、長期は生産技術」と固定すると、共同で扱う課題が抜けてしまう。
役割対比図
保全 vs 生産技術:役割対比
役割の重点の例。保全計画・設計参画・故障改善には重なりがある
図は重点の例であり、職務や指標の専有範囲を決めるものではない。課題ごとに主体・支援・承認者を合意することが重要だ。日本プラントメンテナンス協会(JIPM)の設備管理の説明も、設計から運用・保全・廃棄までのライフサイクルを扱っている。
役割の境界線がグレーになる場面(具体例5つ)
担当の合意が必要になる5つの場面を整理する。部門名だけで担当を決めず、自社の権限・能力・設備への影響を合わせて考えたい。
① 繰り返し故障の原因改善
同じ箇所が月に何度も故障する。保全は「修理する」。でも根本原因を直すのは保全か生産技術か。
保全の視点:「修理は私たちの仕事。でも設計を変えるなら生産技術が動いてほしい」 生産技術の視点:「どこが悪いかのデータは保全が持っている。先に分析してほしい」
両者ともに言い分はある。記録と現物を一緒に確認し、原因の調査、暫定処置、恒久対策の担当を決める。保全も対策を立て、生産技術もデータを集める。同じ箇所の故障でも、同じ原因とは限らない。
② 改良保全の実施主体
部品の材質変更や機構の簡略化など、設備の仕様に踏み込む改良。これは保全の「改良保全」として実施すべきか、生産技術の「改善活動」として扱うべきか。
改良の規模だけで担当や承認の要否を決めない。小さな変更でも安全・品質・設備仕様への影響を確認し、「誰が承認し、誰が記録し、誰が品質への影響を確認するか」を社内の変更管理に沿って決める。
③ 新設備の立ち上げ後サポート
例えば、量産移行後3か月を導入側の支援期間案とするなら、期間中に何を引き継ぐか、未完了なら誰が支援を続けるかを決める。3か月は習熟の保証や共通基準ではない。
検収時や初回定期点検時などの節目を使い、図面・取扱説明書・点検基準の版、教育、予備品、連絡先、未解決事項を確認する。未解決事項には担当・期限・暫定対応を付け、引継ぎを承認する人を決める。日付の到来だけで責任を移さず、導入側と保全側が現物・資料を合同確認し、合意した完了条件と支援範囲を記録する。
④ 予知保全・状態監視のデータ活用
振動センサーや温度ログなどで設備状態を監視するシステムを入れた。このデータを誰が見て、誰が判断し、誰が対処するか。
システムの導入担当と日常監視の担当を分ける場合は、受渡し前にアラームの意味、判断基準、対応担当、連絡経路を合意する。担当を分けただけでは、異常を判断して対処する運用まで整ったことにはならない。
⑤ OEE低下の原因対応
例えばOEEが80%から75%になったなら、差は5パーセントポイント(相対的な低下率は6.25%)だ。同じ対象・算定条件で比べたうえで、故障・段取り・速度・品質などの損失記録を調べる。ロス名だけで部門の責任を確定せず、原因が未確認のものは区別して合同で調べる。
誰が分析し、改善計画を承認し、現場へ説明するかが曖昧だと、報告後の対応が止まり得る。各案件の担当・判断者・期限を決め、実施後に同じ条件の指標と安全・品質への影響を確認する。
連携を妨げる要因を確認する
役割の曖昧さに加えて、評価指標、情報の所在、判断の期限が合っているかを確認する。以下は点検の観点であり、摩擦の原因を一つに断定するものではない。
評価指標が違う
保全・生産技術で共有する指標の例
重点が違っても、対象・定義・期間と共通の安全・品質条件をそろえる
- MTTR(平均修理時間):起終点を定義
- MTBF(平均故障間隔):動作時間で比較
- 故障件数・突発停止件数
- 点検実施率
- OEE(設備総合効率)
- 工程CTと需要タクトの比較
- 改善コスト削減額
- 設備導入プロジェクトの進捗
指標を共有する際は、次の条件を一緒に記録する。
- MTTR: 対象設備・故障と測定の開始/完了を定め、待機・調達・復旧確認時間を含めるかを統一する。短縮のために安全な作業や復旧確認を省かない。
- MTBF: 修理して使う設備の故障間の動作時間として扱う。設備群、故障の定義、観測期間をそろえる。暦時間全体や個体の寿命と混同しない。
- OEE: 設備/ライン、期間、生産予定時間、品種別の理想CT、総数・良品数、停止の扱いをそろえる。良品数には再加工を要しない初回良品を使う。定義を変更した前後の値は、そのまま比較しない。
- 需要タクトと工程CT: 需要タクトは対象期間の生産可能時間を必要数量で割った需要ペース、工程CTは対象工程の処理を実測した時間である。品種、作業範囲、人員、時間の含め方を示して比較する。
指標の基本的な考え方は、JIPMの保全評価指標例(PDF・印刷頁126)、VorneのOEE計算、需要タクトの定義、Lean Enterprise InstituteのCTの定義を参照した。採用する定義・測定範囲は社内で明文化する。
例えば故障対策と新設備導入が同時に求められた場合、指標や要員の制約が判断に影響する。担当者の意欲を推測せず、影響・期限・利用できる要員を並べ、判断権限を持つ人へ相談する。
情報が分断されている
故障データ・修理記録・点検ログと、工程設計書・設備仕様書・改善計画が別々に管理されている場合、必要な担当者が同じ設備・版の情報を参照できるかを確認する。
例えば保全が電源基板の故障を疑っているなら、発生条件・記録と未確認の仮説を分けて設計側へ伝える。また、同じ品種・作業範囲で工程CTを20秒から18秒へ10%短縮する変更をしたなら、負荷や運転条件の変更点を保全側へ伝え、必要な点検基準の改訂と承認を確認する。これは処理時間の変更例であり、需要タクトを10%短くしたという意味ではない。
情報には設備ID・対象版・確認日を付け、誰が次の判断に使うかまで決める。共有先に置いただけで、参照・理解・反映が完了したとはしない。
「緊急」と「重要」の時間軸がずれている
「今止まっている設備の復旧」と「来期の改善計画の承認期限」が重なる、といった場面を考える。どちらの部門にも緊急対応と計画業務があり、職種だけで優先順位は決まらない。
依頼には、必要な判断・期限・遅れた場合の影響を付ける。要員が足りなければ、管理者と対応順序や支援を見直す。安全や品質に関わる異常は、定例会議を待たず、定めた連絡・停止判断の手順へつなぐ。
連携のために決めておくこと
ここからは、自社の分担を整えるための提案だ。会議や共有の有無だけで効果を決めず、決定事項が実行され、必要な結果につながったかを振り返る。
① グレーゾーンに名前がついている
例えば「保全主体・生産技術支援」「生産技術主体・保全支援」を出発点に、課題ごとに調査・実施・承認の担当を決める。件数や規模だけでなく専門性と安全・品質への影響を確認し、必要な部門やメーカーも加える。担当者が交代した際に引き継げる形で残す。
② 定期的な合同ミーティングがある
例えば週次または月次で、故障記録・改善計画・設備導入予定を確認する。会議では必要な判断、決定事項、担当、期限、効果の確認方法を記録し、次回に対応状況を確かめる。頻度は課題と影響に合わせて決める。
③ 設備導入時に保全を巻き込んでいる
仕様検討の段階から保全担当者が参加し、安全な点検・交換作業のしやすさ、予備品の入手性、過去の故障情報を設計要求へ反映する。参加した事実だけで保全性が確保されるわけではなく、要求への回答と実機・資料での確認結果を残す。
④ 故障データが共有されている
必要な担当者が修理記録・故障ログを参照し、対象期間の頻度、停止時間、安全・品質への影響を確認できる状態にする。記録の欠落や原因未確認も明示し、件数だけで優先順位や原因を決めない。
連携を改善するための実践ステップ
連携フロー図
保全×生産技術の連携改善フロー
情報・役割・合同改善をつなぐ整理例。緊急対応をこの順番待ちにしない
今日からできること(個人レベル)
情報を共有する権限や社内手順の範囲で、個人レベルから始められることがある。下の回数・件数は整理の例であり、安全対応を待つ条件ではない。
保全担当者が今日できること:
- 繰り返し故障しているトップ3の設備・箇所を書き出して生産技術に共有する
- 修理記録に「根本原因不明」「同一故障モード・今月3回目」など、未確認状態や集計条件の分かるタグを付ける。同じ原因と確認済みの記録は区別する
- 設備導入の打ち合わせへの参加を相談し、保全上の確認事項を持ち寄る
生産技術担当者が今日できること:
- 改善案を作る前に「保全が一番困っている設備はどれか」を聞きに行く
- 設備仕様書を作るときに「メンテナンスしやすいか」を確認項目に入れる
- OEE低下の原因分析結果を保全と共有し、次のアクションを一緒に決める
よくある誤解と落とし穴
「保全が強い現場は生産技術が弱い」は間違い
保全体制だけで故障がなくなるとは限らず、工程改善の機能も必要だ。組織を変更するなら、維持・復旧・改善・設計の機能を誰が担い、知識をどう残すかを確認する。保全と生産技術の強みは、二者択一にせず組み合わせて考えたい。
連携の問題を「仲が悪いから」で片付けない
相談しやすい関係は助けになる。そのうえで、担当者が変わっても必要な情報と判断を引き継げるように、役割・連絡先・承認・記録のルールを明文化し、運用を見直す。人間関係だけ、仕組みだけで全ての問題が解決するとは考えない。
生産技術が「設備を直す」ことを避けない
生産技術も、自分が設計した工程・導入した設備の不具合を保全と一緒に確認し、次の設計へ戻したい。ただし、職種名だけで修理や通電試験を行う権限が決まるわけではない。作業に必要な能力・資格、許可、停止・エネルギー遮断等の手順を確認し、担当範囲内で調査・支援する。英国HSEの保全ガイダンスも、力量のある担当者、明確な連絡、安全な作業計画を重視している。これは英国の指針の紹介であり、日本の個別作業の法令・社内手続きの代替ではない。
まとめ
連携を見直す入口は、役割の重点、共通指標、情報と判断の受け渡しを確認することだ。原因を職種や人間関係だけに決めつけない。
- 維持・復旧と設計・導入には重点の違いがあるが、両者とも現在の課題と将来の改善に関わる
- 境界案件では、主体・支援・承認者、比較する指標の定義、引継ぎの完了条件を合わせる
- 共有や会議を設けた後も、決定事項の担当・期限・確認方法を追跡し、実施後の効果と影響を確かめる
まず一つの課題について、根拠となる記録を共有し、次の判断を誰がいつまでに行うかを合意する。結果を振り返り、自社の設備・組織に合う連携へ修正していこう。