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予知保全とは何か:振動・電流データで設備故障を予測する

最終更新日 2026-06-02読了時間 約9対象:製造DX担当者、生産技術担当者、保全担当者

この記事でわかること

振動・電流・温度センサーのデータを使って設備の故障予兆を検知する「予知保全」の基本概念・導入ステップ・コスト感を製造現場の視点で解説する。

1「また突発停止か」——その繰り返しを断ち切るために

朝番のラインが立ち上がった直後に設備が止まる。原因を調べると軸受の摩耗だった。「先週の点検では異常なかったのに」——保全担当者なら一度は経験するシーンだ。

突発停止が起きると損失は多方面に波及する。生産計画が崩れ、後工程の人員が手待ちになり、緊急部品の手配コストが跳ね上がり、残業で何とか取り返す——この連鎖が月に何度も起きている工場は珍しくない。

では、設備が壊れる前に「そろそろ限界が近い」と分かれば何が変わるか。計画的に部品交換でき、ラインを止めるタイミングを選べる。部品の在庫も最小限で済む。これが予知保全の本質だ。

この記事では、予知保全の概念・代表的なセンサーデータと故障の関係・導入ステップ・コストと効果の現実を、製造現場の視点で整理する。


2保全の4種類と使い分け

予知保全を理解するために、まず保全の4種類を整理しよう。

保全の4種類と特徴

コスト・リスク・計画性のトレードオフ

① 事後保全(BM)
壊れてから直す
突発停止・緊急修理が前提。重要設備には不向きだが、影響の小さい補助設備には合理的な場合もある。
② 予防保全(PM)
一定周期で交換・点検
カレンダー・稼働時間で定期交換。計画的だが「まだ使えるのに交換」という過剰保全が起きやすい。
③ 予知保全(PdM) ◀ 今回のテーマ
データで予兆を検知して交換
センサーデータで劣化を継続監視。「本当に交換が必要なタイミング」でのみ介入できる。
④ 改良保全(CM)
設備自体を改良して故障しにくくする
同じ箇所が繰り返し故障するなら、設計・材質・構造を変えて再発防止する。根本対策。

重要なのは「予知保全がすべての答え」ではないという点だ。設備の重要度・故障頻度・修理コストに応じて4種類を組み合わせるのが現実的な保全戦略になる。

たとえば、生産ラインのクリティカルなモータには予知保全を適用し、交換に10分もかからない補助ポンプは事後保全のままでもよい。コンプレッサーのようにオーバーホール周期が明確な設備は予防保全のままが合理的な場合もある。


3予知保全とは何か:「異常の予兆」を捉える考え方

予知保全(PdM:Predictive Maintenance)の本質は、設備が「正常な状態」から外れ始めたシグナルをデータで早期に検知し、実際に壊れる前に対処することだ。

設備の劣化は突然起きるわけではない。軸受が壊れる前には振動が増え始める。モータが過負荷になる前には電流値が微妙に上がってくる。これらの変化は人間の感覚では気づきにくいが、センサーは記録している。

予防保全との違いを一言で言えば、予防保全は「時間で交換」、予知保全は「状態で交換」だ。予防保全では「500時間ごとにオイル交換」のようにカレンダーで管理するため、まだ使えるのに交換するコストが発生しやすい。予知保全は設備が実際に劣化してきたときだけ介入するため、部品寿命を最大限使い切れる。


4代表的なセンサーデータと故障の関係

予知保全で実際に何を測るのか。主要な3種類のセンサーと、それぞれが検知できる故障の関係を整理する。

振動センサー:軸受・ギア・アンバランスの検知

振動センサー(加速度センサー)は設備の「揺れ」をミリ秒単位で記録する。正常な設備にも振動はあるが、劣化が進むと振動の大きさ(振幅)・周期・周波数成分が変化する。

軸受の摩耗が進むと、軸受の転動体・軌道の傷から特定の周波数(軸受固有の損傷周波数)が発生する。通常の振動スペクトルにはない成分が現れ始めるのが予兆だ。ギアの摩耗では、ギアの歯数と回転数の積で決まる「歯車噛み合い周波数」の変化や高調波が目安になる。アンバランス(重心のズレ)は回転数と同じ周波数の振動が大きくなることで検知できる。

振動センサーは「故障の数週間〜数ヶ月前」から変化が現れることが多く、予知保全の中でも特に早期検知に優れる手法だ。ただし、取り付け位置・方向・センサーの固定方法が測定結果に大きく影響するため、設置には注意が必要になる。

電流センサー:モータ負荷変化の検知

モータに取り付けた電流センサーは、モータが消費している電力(負荷)の変化を捉える。機械的な摩擦や抵抗が増えるとモータの電流値が上がるという原理を使う。

ポンプの詰まりやバルブの固着、コンベアのベルト劣化、冷却ファンの異物噛み込みなど、機械的な抵抗が増える故障は電流値の上昇として現れる。逆に、ベルトやカップリングが滑り始める(伝達効率が下がる)場合は、負荷が同じなのに電流が変動しやすくなる。

電流センサーの利点は設備への後付けが容易な点だ。既設の電力盤に電流センサー(クランプ式)を取り付けるだけで計測を始められるため、設備を停止せずに導入できる。導入コストが比較的低いため、予知保全のファーストステップとして選ばれることが多い。

温度センサー:過熱・冷却不足の検知

温度センサーやサーモカメラは、設備各部の温度分布を測定する。正常な設備には正常な温度分布があり、異常が起きると局所的に温度が上がる

軸受の焼き付き前には軸受ハウジングの温度が上昇する。電気系統では接触不良・絶縁劣化が発熱を引き起こす。熱交換器・冷却器の目詰まりは冷却効率の低下→温度上昇として現れる。変圧器やパワーデバイスの過負荷も温度で検知できる。

サーモカメラを使った定期的な巡回点検は、人手をかけながらも広い範囲の設備を素早くスキャンできるため、センサーを取り付けていない設備にも適用しやすい。ただし、連続監視ではなくスポット点検になるため、急速に進行する故障には対応しにくい面もある。


5予知保全の導入ステップ

「何から始めればいいか分からない」という担当者に向けて、現実的な導入ステップを整理する。

予知保全の導入ステップ

スモールスタートで段階的に広げる

1
対象設備を絞る(設備リスク評価)
全設備に一度に適用しない。「止まると生産への影響が大きい」「過去に突発停止が多い」設備を優先的に選ぶ。最初は1〜3台からスタートするのが現実的。
2
センサー設置とデータ収集
選定した設備に振動・電流・温度センサーを取り付け、データを蓄積する。まず「正常時のデータ」を十分に集めることが重要。この正常データが後の異常検知の基準になる。
3
閾値の設定とアラート設計
正常データの統計から「この値を超えたら注意」「この値を超えたら要対応」という閾値を設定する。最初は保全担当者の経験値を参考に設定し、実際の故障データが蓄積されるにつれて調整していく。
4
アラート対応と保全作業の仕組み化
アラートが上がったときに「誰が・何をするか」を事前に決めておく。アラートが鳴っても対応フローが決まっていないと、通知疲れで無視されるようになる。保全担当者・生産管理・設備メーカーとの連携フローを整備する。
5
データ蓄積→精度向上→横展開
実際の故障データと予兆データが蓄積されるほど、閾値の精度が上がる。「予兆アラートから何日後に実際に故障したか」を記録し続けることが、システムの改善サイクルになる。成果が出たら対象設備を広げる。

ステップ3の閾値設定は「科学的に正確な値を最初から決める」必要はない。保全担当者が「この振動値は絶対おかしい」と感じるレベルから始め、実績を積みながら調整していくアプローチが現場では機能しやすい。


6導入コストと効果の現実

コストの目安

予知保全の導入コストは、センサーの種類・台数・データ基盤の規模によって大きく異なる。

小さく始める場合(電流センサー+クラウド送信で3〜5台):センサー・通信機器・初期設定を合わせて数十万〜200万円程度が相場だ。月額のSaaS費用が別途かかるモデルが多い。

工場全体への展開(振動・温度・電流の複合監視で50〜200台規模):数百万〜数千万円の投資になる。ヒストリアンや既存のSCADAとの連携コスト、データ分析基盤の構築コストが加わると、さらに規模が大きくなる。

AI活用・機械学習モデルの導入:教師データ(過去の故障データ)の整備・モデル開発・運用体制まで含めると、単体で数千万〜億円規模になることもある。ただしこのレベルは大手製造業や特定の重要設備に限った話であり、多くの中堅工場にとって当初から目指す必要はない。

効果の現実

予知保全の効果は「突発停止がゼロになる」という夢のような話ではない。現実的な効果を正直に言えば以下のとおりだ。

すぐに出る効果:データが可視化されることで、保全担当者の「なんとなく変だと思っていた」という勘が数値で裏付けられるようになる。これだけでも点検の優先順位付けが変わる。

数ヶ月〜1年で出る効果:予兆アラートで計画的な部品交換が増え、緊急修理の件数が減り始める。部品の在庫を必要最小限に抑えられるようになる。

出にくい効果・過信してはいけないこと:センサーを付けただけで自動的に故障が予測されるわけではない。閾値設定・アラート対応・データの解釈には保全担当者のスキルと経験が必要だ。また、過去に故障経験がない「初めてのモード」の故障は、学習データがないため予測できない。

小さく始めるための考え方

最初から工場全体に展開しようとするのは危険だ。センサー導入→データ蓄積→閾値調整→アラート対応フロー整備——この一連のサイクルを1〜3台の設備で「小さく完成させる」ことが成功への近道だ。

その際、「突発停止を何件減らせたか」「緊急修理コストが何割減ったか」という数字を記録しておくことが重要だ。横展開のとき、その数字が投資判断の根拠になる。


7「予知保全ツール」を選ぶときの視点

市場には予知保全をうたうSaaSやIoTプラットフォームが多数存在する。選定の際に確認すべきポイントを整理する。

既存設備への対応:自社の設備にセンサーを後付けできるか、PLCやSCADAとの連携に対応しているか。特に古い設備は通信仕様が独自で、追加コストが発生することが多い。

アラートのカスタマイズ性:閾値をどこまで細かく設定できるか。製品・ラインが変わるたびに設定を変える必要があるか。

データの所有権:収集したセンサーデータは誰が保有するか。SaaSを解約したときにデータを取り出せるか。工場のデータが外部に流出するリスクはないか。

サポート体制:センサーの故障・通信断が起きたときに、ベンダーがどの程度サポートしてくれるか。保全担当者が自力で運用できる仕組みになっているか。


8まとめ

予知保全は「設備が壊れる前に兆候をデータで捉え、計画的に対処する」保全アプローチだ。

  • 保全には4種類(事後・予防・予知・改良)あり、設備の重要度に応じて使い分けるのが現実的な戦略になる
  • 振動センサーは軸受・ギアの早期劣化検知に強く、電流センサーは後付けしやすく導入コストが低い。温度センサーは過熱や接触不良に有効だ
  • 導入は「対象設備を絞る→データ収集→閾値設定→対応フロー整備→横展開」の順番で進める
  • 小さく始めて成果を数字で記録し、横展開の根拠にするサイクルが現場では機能しやすい

「センサーを付ければ自動で予測してくれる」は過信だ。データの解釈と閾値の調整には保全担当者の経験が欠かせない。ただし、これまで「感覚」に頼っていた判断が「数値」に変わるだけでも、保全の質は大きく変わる。まず1台から始めてみることが、現場の変化を作る最初の一歩になる。


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この記事の執筆者

seigitech 編集部

生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。