「なぜこのラインはこの順番なのか、説明できますか?」

例えば、担当ラインの工程順序を先輩や顧客へ説明する場面を考えてみます。

「このライン、なぜ工程3の前に工程2があるんですか?」「この検査、どの段階に入れるのが最適ですか?」——現場を毎日見ていると「当たり前」に思えてくる工程の順番ですが、いざ説明しようとすると言語化できない、ということが起こります。

工程設計とは、「製品をどの順番で、どこで、どうやって作るか」を計画し、文書化するプロセスです。生産技術の仕事の一つであり、既存ラインの改善でも新ラインの立ち上げでも、工程の順序・時間・品質条件を同じ資料で確認するための土台になります。

この記事でわかること

  • 工程フロー図の整理方法と、規格記号を採用するときの確認点
  • 作業分析票の記入項目と作業時間の正しい測定方法
  • 工程バランス表でネック工程を特定する手順とバランス率の読み方
  • ネック工程への対応策と、作業の再配分・兼務を判断する条件
  • 新ライン設計と既存ライン改善での工程設計の進め方の違い

工程設計の3つの成果物

この記事では、工程設計で扱う情報を3種類の文書に整理します。工程番号を共通にすると、流れと測定値、改善する場所を追いやすくなります。

工程設計の3つの成果物

3つをセットで作ることで「どこに問題があるか」「どこを改善すれば全体が改善するか」が見えてくる

① 工程フロー図
原材料から完成品になるまでの流れを記号と矢印で表した地図。加工・検査・運搬・待ちを可視化する。
何の順番か・どこで何をするか
② 作業分析票
各工程の作業内容・時間・人数・使用設備を一覧にした仕様書。工程設計の根拠データになる。
各工程で何をするか・何秒かかるか
③ 工程バランス表
タクトタイムと各工程の作業時間を並べ、ネックと余裕を可視化した山積み表。
どこがネックで・どこに余裕があるか

① 工程フロー図の作り方

工程フロー図では、加工や検査に加え、運搬・保管・待ちも工程として拾います。最初に対象製品と開始・終了点、記録の細かさを決め、現場で実際の順序と照合してください。ASQのフローチャート解説でも、範囲・粒度・時間・入出力を定め、関係者と現物を確認する方法が示されています。

工程図記号の規格にはJIS Z 8206:1982があります。採用する場合は、契約・社内様式で指定された版の原票を確認し、数量検査と品質検査、貯蔵と滞留などの区分を使い分けます。以下は観察内容を記録するための整理例であり、規格の記号一覧ではありません。

観察する工程 作業・状態の例 図と作業票へ残す情報の例
加工 部品の締結・組立 作業順序、条件、1個当たりの作業時間
運搬 台車で工程間を移動 距離、所要時間、運搬数、頻度
貯蔵 計画に沿って保管 保管量、期間、払出し条件
滞留 予定に反して次工程へ進めない 待ちの開始・終了、原因、発生頻度
数量検査 必要個数がそろっているか確認 数える対象、基準、確認のタイミング
品質検査 寸法や外観が要求に合うか確認 特性、判定基準、測定方法、異常時の処置

JICAの品質・生産性向上マニュアル(2008年、E-10)も、数量検査と品質検査を分けて説明しています。独自の簡略図を使う場合は凡例を添え、規格に準拠した図との違いが分かるようにしてください。

フロー図を書くときのポイント

原材料の入荷から完成品の出荷まで、上から下へ(または左から右へ)流れるように描きます。工程の「入口」と「出口」を明確にすることで、どこで価値が付加され、どこで時間が消費されているかが一目でわかります。

加工・検査に加え、「モノを運ぶ時間」「待つ時間」も記録し、それぞれが全体に占める時間を確かめます。待ちの原因や必要性を確認してから、短縮・統合・配置変更の候補を選びます。

複数の工程が同時に進む場合(例:部品Aと部品Bの加工が並行して行われ、後で組み立てる)は、横に並べて描き、合流点を示します。


② 作業分析票の作り方

作業分析票は、各工程の「中身」を詳細化した表です。工程フロー図が「流れ」を示すのに対して、作業分析票は「各工程で何をするか」を記録します。

作業分析票に記入する項目

項目 内容
工程番号 連番(工程フロー図と対応)
工程名 作業の名称(例:外径旋削、ネジ締め、外観検査)
作業内容 具体的に何をするか(手順の概要)
作業時間 測定の開始・終了点と単位。人の作業、設備の自動運転、移動、待ちを区別
作業者数 何人で行うか
使用設備・工具 設備名・治工具名
品質管理点 どこでどう確認するか
備考 品種、担当者、測定日、サンプル数、ばらつき、除外・補正の理由など

作業時間の測定方法

工程の能力を判断するには、作業時間の測り方と前提をそろえる必要があります。

ストップウォッチ法:サイクルの開始・終了点を決め、複数回の生データと発生状況を記録します。例えば10〜20サイクルから観察を始めることはできますが、必要回数を保証する基準ではありません。品種・作業者・時間帯の違い、ばらつき、求める精度を見て追加測定します。NISTの標本数の解説でも、推定精度と変動の大きさを考慮します。

平均だけでなく範囲や分布も確認します。最速・最遅という理由だけで値を削除せず、誤測定、材料補充、段取り、異常停止などの内容を調べてください。トリム平均などを使うなら、生データ・処理の目的・除外条件を残します。通常作業を比較するために別集計した補充や段取りも、実際に必要な時間として能力計算へ戻します。NISTの外れ値の扱いも、誤りの証拠がない極端値を慎重に扱うよう求めています。

ビデオ分析法:同じ場面を繰り返し見て、動作ごとの時間を整理できます。精度は開始・終了点の判定、画角、撮影フレームレート、時刻情報などに依存します。特にスローモーション映像は、再生速度と実際の経過時間を取り違えないでください。Kinoveaの時間校正の説明で確認できます。

同じ工程番号で、測定から図へつなぐ例

次節では、各1人が担当する5工程の時間を45・65・40・55・30秒と仮定します。工程2の内訳を「取付け15秒、締結35秒、確認15秒」と置くと、合計は65秒です。これは説明用の仮定であり、実測結果ではありません。

文書 工程2へ記録する内容
工程フロー図 工程1から受け取り、取付け・締結・品質確認後に工程3へ渡す。内部を分けて描いても「工程2」の対応を残す
作業分析票 3要素の時間と合計65秒、担当1人、締結条件、確認基準を対応づける
工程バランス表 同じ範囲の65秒を棒にし、需要TT60秒に対する5秒超過を示す
改善案 3要素のどこを短縮・移管できるか、先行順序・品質・設備配置・技能を確認する

実測では、確認作業を省いて時間だけを短く見せたり、人と設備の並行時間を二重に足したりしないことが大切です。


③ 工程バランス表で「ネック」を見つける

工程フロー図と作業分析票が完成したら、工程バランス表(山積み表)で各工程の時間を比較します。需要に応える生産ペースを示すタクトタイム(TT)は、利用可能な生産時間を必要数量で割った値です。LEIのTTの定義を参照してください。

以下は、各工程1人・各1個ずつの直列ラインが定常状態で動き、移送時間・停止・不良を考えない単純な例です。各人の繰返し作業時間を工程CTとし、同じ65秒周期で作業を始められると仮定します。人と設備の自動運転が重なるラインや兼務ラインは、時間の重なりと移動も別に確認します。

工程CTの比較(説明用の仮定)

全て0〜70秒の同じ目盛。橙色の破線は需要TT60秒。

工程1
45秒
工程2
65秒
工程3
40秒
工程4
55秒
工程5
30秒
目盛
03570秒

工程2はTTを5秒超過。 この条件では65秒周期となり、60秒に1個という需要ペースに届きません。

工程5は再配分の検討先。ただし移動・作業順・品質・技能を確認してから兼務を決めます。

時間に比例する棒を共通のTTと比べる考え方は、LEIの作業者バランスチャートにも示されています。図では、工程2が最大CT65秒の制約工程です。まずこの工程で何が時間を使っているかを調べます。

ネック工程への対応策

  • 作業内容の一部を隣の工程に移す(工程分割・工程統合)
  • 設備を追加して並行処理にする
  • 作業方法を改善して時間を短縮する
  • 治工具を改良して必要な作業・段取り時間を短縮する

工程5の30秒という値は、直ちに兼務や人員削減が可能だという意味ではありません。仕事を移す前に、先行順序、設備・治具、動線、作業者の技能、安全と品質条件を確認します。移管後の作業・歩行・待ちを測り直して、TT以内に繰り返せるかを確かめてください。

需要TT基準の負荷比率と、周期基準の編成効率を分ける

合計作業時間は235秒です。分母に何を置くかで、指標の意味が変わります。

この例の指標 計算 読み取ること
需要TT基準の負荷比率 235 ÷(60 × 5)× 100 ≈ 78.3% 需要TTで用意する5人分の時間と総作業量の比。工程ごとの実行可能性は別に確認する
65秒周期での編成効率 235 ÷(65 × 5)× 100 ≈ 72.3% この単純モデルで、1周期の5人分の時間に占める作業時間
同じ65秒周期での手待ち率 (65 × 5 − 235)÷(65 × 5)× 100 ≈ 27.7% 合計90秒の手待ち。各工程では20・0・25・10・35秒

TT基準の78.3%の補数21.7%は、このラインの実手待ち率ではありません。60秒に対する他工程の余裕70秒から工程2の超過5秒を相殺した差であり、工程2の能力不足を解消したことにもなりません。編成効率の分母にネックCTを使う考え方は、JMACの編成ロス解説と対応します。

実ラインでは、変動・移送・欠員・設備停止などを含めた実測を追加します。85〜90%という率や「ネック100%、他工程70%」を全ライン共通の目標にせず、指標の分母、要求数量、ばらつき、必要な余裕を定義して目標を決めてください。

後工程の引取りや生産指示と無関係に各工程の出来高だけを上げると、仕掛品が増えるおそれがあります。負荷率と合わせて、仕掛量・待ち・停止理由・良品の完成数を確認します。需要と能力の整理はタクトタイム設計の実務も参照してください。


工程設計で意識すべき3つの原則

原則1:付加価値を生む作業とそうでない作業を区別する

この記事では、顧客にとって製品の価値を直接変える活動と、現在の条件では必要な確認・維持活動を分けて考えます。

  • 価値を直接生む活動:要求された形状・機能へ変える加工や組立など。加工という名前だけで全てが有効とは限りません。
  • 現在必要な活動:品質・安全・契約上必要な検査や運搬など。必要性があることと、直接の付加価値とは分けます。
  • 減らせる活動:不要な往復、重複確認、原因を除ける待ちや手直しなど。

LEIのムダの分類も、現在の技術では必要な非付加価値活動を区別しています。検査サービスそのものが顧客の購入対象である場合もあり、契約と目的に応じて判断します。非付加価値という分類だけを理由に、必要な検査や安全措置を外してはいけません。

フロー図の運搬や滞留の個数は、調べる場所を探す入口です。図の細かさをそろえ、時間・頻度・距離・必要性・品質リスクを確認して改善対象を選びます。

原則2:品質は工程で作り込む

完成後の検査・選別だけでは、発生原因そのものは除去できません。工程条件の確認を起動条件や停止へ結び付けたり、検査結果を前工程の対策へ戻したりすることは、後続の不良を防ぐために使えます。トヨタの生産方式の説明も、異常の検出・停止と原因への対策をつなげています。どの異常を検知し、何を止め、誰が処置・再開を判断するかまで工程に組み込みます。

工程FMEAを工程設計と並行して行うことで、「この工程でこの不良が出たら、どう検出・防止するか」を事前に計画できます。

原則3:変化点を管理できる工程にする

製造現場では、材料・設備・人・方法(4M)が変化することがあります。工程設計の段階で「変化点が発生したときに、どの工程でどう確認するか」を組み込んでおくと、変化点管理が実行しやすくなります。


新ライン設計と既存ライン改善での使い方の違い

新ライン設計の場合
1
類似工程の実績・設備カタログからフロー図・作業分析票を設計する
2
停止・速度低下・不良を含めた良品生産能力を見積もる(測定に含まれる損失を二重に加えない)
3
試作・検証で実測値を取得し、設計値との差を補正してから本格稼働へ
既存ライン改善の場合
1
現状の工程フロー図・作業分析票を「あるがままに」作成(現状把握)
2
「あるべき姿」のフロー図を別に描き、2つを比較して改善ポイントを特定する
3
現状→あるべき姿のギャップを埋める改善計画を立て、優先順位をつけて実行する

新ラインの能力見積りでは、対象設備・品種・期間をそろえた理想CTとOEEを使う場合があります。Vorneの定義では、理想CTをOEEで割った値は同じ期間の「計画生産時間 ÷ 良品数」に対応します。OEEは小数で扱い、実測値に既に含まれる損失を重ねて補正しないようにします。類似設備の値は仮定として出所と条件を残し、試作で確かめます。


改善で起こりうる失敗と対策

失敗1:フロー図を作ったままにする 作ること自体が目的になり、実際の工程改善に活かされないケースがあります。フロー図は定期的に見直し、実態と乖離していれば更新してください。

失敗2:作業時間を1回しか測らない 1回だけでは、ばらつきや周期的な補充・段取りを捉えられません。測定条件と生データを残し、目的に必要な観測を追加してください。

失敗3:ネック改善後の全体を確認しない ネックの短縮でライン能力が向上しても、次の制約が現れることがあります。今回の単純モデルで工程2だけを65秒から50秒へ短縮できれば、最大CTは工程4の55秒となり、周期を短くできる余地が生まれます。制約が移ったことと、改善効果がなかったことは同じではありません。実施後は完成数・品質・仕掛量も測り直します。

失敗4:人の作業だけを分析する 設備の自動サイクル時間・段取り時間・設備待ち時間なども含めて分析しないと、ネックの本質を見誤ります。


まとめ

工程設計の基本は「工程フロー図で流れを見える化し、作業分析票で時間を把握し、工程バランス表でネックを特定する」という3ステップです。

「なぜこの順番か」「どこを改善すれば生産性が上がるか」という問いへの答えは、この3つの文書の中にあります。新ライン設計でも既存ライン改善でも、まず「現状を見える化する」ことから始め、数字と図で改善の優先順位を決めてください。

手元のラインで試すなら、運搬や滞留の中から調べる工程を選び、同じ工程番号で時間・頻度・必要性を記録してください。記号の個数だけで改善量を決めず、作業分析票とバランス表へつなげ、変更後に効果と品質を確認します。

工程設計で設定したタクトタイムの計算方法はタクトタイム設計の実務で詳しく解説しています。