「全数検査すれば安心」は本当か
※ この記事では「抜取検査」と表記するが、「抜き取り検査」と書く現場も多い。同じものを指す。 JIS上の正式な用語は抜取検査で、社外の文書やJIS Z 9015の抜取表では抜取検査と書かれている。
品質トラブルが起きたとき、「全数検査に切り替えよう」という判断をしがちだ。しかし全数検査には根本的な問題がある——検査員の見落としが積み重なり、不良品を100%捕捉できるわけではない。
全数を検査することと、すべての不良を検出できることは別で、検査方法の能力を確かめる必要がある。一方、抜取検査は、サンプルの結果からロットを受け入れるかどうかを決める方法だ。合格しても、そのロットの不良率や不良ゼロを保証するわけではない。
この記事では抜取検査の原理とAQLの意味、JIS Z 9015に基づくサンプル数の決め方を整理する。
抜取検査の原理
ロット(まとまり)からサンプルを取り出して検査し、あらかじめ決めた抜取計画に従ってロットの合否を判定する。主な目的はロットの受入れ判断であり、不良率そのものを推定することではない。 この記事では、品物を良品・不良品に分類して不良品の個数を数える場合を扱う。
合格判定数(Ac)と不合格判定数(Re)
サンプルの中に不良品が何個以下なら合格か(Ac)、何個以上なら不合格か(Re)を設定する。
判定の説明用の仮定例:サンプル数80個、Ac=2、Re=3 の場合
→ 不良品が0〜2個 → ロット合格
→ 不良品が3個以上 → ロット不合格
この数値は判定の読み方を示すもので、特定のAQLに対応するJISの計画を指定したものではない。
OC曲線(検査特性曲線)
抜取検査の性能を表す曲線。横軸にロットの実際の不良率、縦軸にそのロットが合格になる確率を示す。
合格確率
100%│\
│ \
50%│ \
│ \
0%└─────────
0% 1% 2% 3% ←ロットの実際の不良率
上図は概念図であり、特定の計画の計算結果ではない。不良品の判定に誤りがなく、無作為に抽出するモデルでは、サンプル数とAcを組み合わせて合格確率を求める。有限ロットから戻さずに抽出する場合はロットサイズも関係する。サンプル数だけを比べず、受け入れたい品質水準と見逃しを抑えたい品質水準での合格確率を確認する。 NISTのOC曲線の説明も、サンプル数と合格判定数を一組で設計している。
AQL(合格品質限界)とは
JIS Z 9015-1:2006での呼称は、AQL(acceptance quality limit、合格品質限界)。継続して提出されるロットに対する抜取検査方式を選ぶための指標であり、個別ロットの不良率の上限を保証する値ではない。
AQLは用途名だけで一律に決めない。 検査する不良の種類と重要度を整理し、品質要求に応じて契約または責任者の指定で決める。同じAQLでも、選ぶ抜取計画によってロットの合格確率は異なる。
重要: AQLの指定は、不良品を意図的に含めて納入してよいという意味ではない。検査に合格しても、「このロットには最大AQL%しか不良品が入っていない」とは保証できない。
AQL=1.0%の抜取検査でロットが合格しても、実際のロット不良率が3%である可能性はゼロではない。これは抜取検査の本質的な限界(見逃しリスク)であり、工程能力(Cpk)による工程管理と組み合わせることで補う。
JIS Z 9015-1に基づくサンプル数の決め方
JIS Z 9015は計数値による抜取検査の規格群で、このうち第1部がAQLを指標とするロットごとの検査を扱う。この記事で参照するのは JIS Z 9015-1:2006。JSAの規格情報ではISO 2859-1:1999との対応が示されている。ISOには2026年版もあるが、同じ番号だからといって版の違う条件を混ぜない。
以下は、適用する原本を使って計画を確定するための読み方である。社内規定や取引先との合意が指定する規格・年版、検査対象、1回・2回・多回などの形式を先に確認する。
Step 1:検査水準を選ぶ
| 検査水準 | 特徴 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 特別検査水準 S-1〜S-4 | サンプル数が少ない | 破壊検査・高コスト検査 |
| 一般検査水準 I | IIより低い判別力 | その判別力で要求を満たせる場合 |
| 一般検査水準 II | 標準 | 通常はこれ |
| 一般検査水準 III | IIより高い判別力 | 判別力を高める必要がある場合 |
特に指定がなければ一般検査水準IIを用いるが、水準は責任者の指定に従う。特別検査水準は、少ないサンプルが必要で、それに伴う大きい抜取リスクを許容できる場合に検討する。水準の選択となみ・きつい・ゆるいの切替えは別であり、厳しさを切り替えても指定された水準は変えない。
Step 2:ロットサイズと検査水準から「サンプル文字」を引く
原本のサンプル文字の表で、実際のロットサイズの行と、指定された検査水準の列が交わる文字を読む。
検査水準を変えたときは、同じロットサイズの行を読み直す。 「水準がひとつ上がると文字も必ずひとつ上がる」と換算せず、行と列の見出しを照合する。読み違えると、意図した検査とは異なるサンプル数や判定基準を選ぶことになる。
手順書へ表を転記して使う場合は、規格・年版、表番号、水準の列、注記を原本と照合する。 転記した数値だけで判断せず、どの条件で選んだ表かを確認する。
Step 3:サンプル文字とAQLから、サンプル数と Ac/Re を引く
使用する形式と検査の厳しさに対応する表を開き、サンプル文字とAQLから、サンプル数・Ac・Reを一組で確定する。これはサンプル数にAQLを掛ける計算ではない。矢印や注記がある場合はその指示に従い、移動先のサンプル数と判定数を使う。文字だけを見てサンプル数を固定しない。
この記事では抜取表そのものを再掲せず、読み方を説明する。実際の運用では、採用版の原本でサンプル数と判定数、矢印・注記を照合する。
取引先と条件を決めるときは、双方が同じ版の原本を見て突き合わせる。
引く前に確かめる3つ
| なぜ | |
|---|---|
| どの検査水準か | 通常はⅡだが、指定があれば文書に残す。ここがずれると全部ずれる |
| どの版の規格か | 社内規定・取引先の指定と、参照する原本の年版をそろえる |
| なみ・きつい・ゆるいのどれか | 現在の検査の厳しさに対応する表を使う |
なみ・きつい・ゆるい検査の切り替え
ここではJIS Z 9015-1:2006のなみ検査・きつい検査・ゆるい検査という用語を使う。社内で別の呼び方を使っている場合も、規格のどの状態に対応するかを文書に残す。
検査結果の履歴に基づいて検査の厳しさを切り替える仕組みがある。以下は主要な切替条件の整理であり、切替スコアの計算や例外を含む規格の全手順ではない。実際の運用では、適用する版の箇条9と選んだ形式の表を確認する。責任者から別の指示がなければ、なみ検査で開始する。
図の条件で間違えやすいのは次の3点。
- 数えるのは最初の検査の結果だけ。 選別して再提出したロットが合格しても、切り替えの判定には入れない
- 「連続5ロット以内に2ロット」なので、検査を始めて5ロットに満たなくても、2ロット不合格ならきつい検査へ移る
- ゆるい検査へは「連続合格の回数」だけでは移れない。 切替スコアに加えて、生産の安定と責任者の判断が必要になる。スコアの更新条件は検査形式やAcによって異なり、合格しても0に戻る場合がある。加点・リセットの条件は、適用する原本の箇条9で確認する
社内規定や取引先との検査要領書には、採用する規格の年版と切替条件を明記する。原本との対応を確認してから、取引先と運用を合意する。
切替条件を満たしたかをロットごとに記録し、責任者が必要な判断を行う。合格が続いたことだけを理由に、その場でサンプル数を減らさない。
全数検査と抜取検査の使い分け
| 判断する条件 | 全数検査で確認すること | 抜取検査で確認すること |
|---|---|---|
| 安全に関わる特性・流出時の影響が大きい特性 | 適用される要求と、検査方法の検出能力を確認 | 抜取が許されるかを確認し、必要な消費者危険などを計画で評価 |
| 小ロット | 全数を調べる負担と検査の影響を比較 | ロットサイズに対して必要なサンプル数がどの程度かを確認 |
| 工程能力(Cpk)が高い | Cpkだけで要否を決めない | 必要な判別力を抜取計画ごとに確認 |
| 破壊検査 | 出荷する全品を同じ破壊試験にかけることはできない | 必要な試料数と、合否判断のリスクを確認 |
| 大ロット | 検査時間・コスト・能力を確認 | 時間を短縮できるかに加え、必要な判別力を確認 |
ロットが50個以下か1000個以上かだけで、方式は決まらない。安全に関わる検査は、適用要求、製品のリスク評価、顧客との合意に基づいて責任者が決める。工程改善による不良の発生防止と、検査による受入れ判断を併せて管理し、工程能力が向上しても全数検査の要求を自動的に解除しない。
社内で説明するときの言い方
上司・品質管理者に対して: 「工程能力はCpkで確認します。一方、抜取検査のサンプル数が十分かは、サンプル数と合格判定数を組み合わせた抜取計画のOC曲線で判断します。受け入れたい品質水準と、見逃しを抑えたい品質水準を定め、それぞれのロット合格確率が要求を満たすかを確認します。」
外注先・仕入れ先に対して: 「受入れ検査は、合意した規格の年版、検査形式、水準、AQL、現在の検査の厳しさを検査要領書に明記します。不合格ロットの識別・処置・再提出の条件も、あらかじめ確認します。」
現場・検査員に対して(判定境界を説明する仮定例):
以下の500個・80個・Ac=5・Re=6は説明用の組合せであり、JISの特定の水準・AQLから選定した計画を示してはいない。現場指示に使う際は、原本で確定した数値と中止手順に置き換える。 「このロット500個から80個を無作為に抜き取って検査します。不良5個までは合格、6個目が出た時点でロット不合格です。6個目を見つけたら検査を止めて報告してください。」
抽出と不合格ロットの扱い
サンプルは取りやすい箱や上側の品物だけから選ばず、ロットの範囲を決めたうえで無作為に選ぶ。例えば個体に番号を付け、重複しない乱数で対象を選ぶ方法がある。合理的な基準でロットを層別する場合は、各層の大きさに比例した割付けを計画に定める。
不合格ロットは識別して合格品と混在させず、検査結果と処置を記録する。選別・修正後の再提出は、最初の不合格をなかったことにせず、合意した再検査手順に従う。サンプルを取り直して合格するまで繰り返す運用にはしない。
まとめ:抜取検査設計の3ステップ
- 品質要求をそろえる——対象の不良区分、AQL、見逃しを抑えたい品質水準とリスクを確認
- 計画を一組で確定する——規格・年版・形式・検査の厳しさをそろえ、サンプル数とAc/Reを原本で読む
- 運用を決める——抽出方法、切替履歴、不合格時の処置を決め、全数検査の要求とも整合させる
次のステップ:
- 工程能力(Cpk)の基礎 — 工程のばらつきと規格の関係を確認する
- QC7つ道具の実務活用 — 不良原因分析に使うツールへ
- 品質管理の基礎 — PFMEA で検査項目を設計する
参照資料
- NIST:抜取検査の目的
- NIST:1回抜取計画と合格確率
- ISO 2859-1:1999の公開原文サンプル(iTeh掲載):AQL、抽出、切替え、計画選択の説明を確認。JIS原本の表や個別の取引条件の代用にはしない。