抜取検査とAQLの基礎|全数検査が不要な理由とサンプル数の決め方
この記事でわかること
全数検査とどう使い分ければいいか、AQLって何を意味するのか分からない。抜取検査の原理とJIS Z 9015のサンプル数の決め方を実務で使えるレベルで整理します。
1「全数検査すれば安心」は本当か
品質トラブルが起きたとき、「全数検査に切り替えよう」という判断をしがちだ。しかし全数検査には根本的な問題がある——検査員の見落としが積み重なり、不良品を100%捕捉できるわけではない。
検査の疲労・検査速度の速さ・検査環境によって、全数検査の見落とし率は5〜15%に達することがある。これに対して、適切に設計された抜取検査は「統計的に合格できる可能性がある不良率」を保証するもので、目的が違う。
この記事では抜取検査の原理とAQLの意味、JIS Z 9015に基づくサンプル数の決め方を整理する。
2抜取検査の原理
ロット(まとまり)からサンプルを取り出して検査し、ロット全体の合否を判定する。全数を検査しない代わりに、統計的に「このロットは合格できる品質水準か」を判断する。
合格判定数(Ac)と不合格判定数(Re)
サンプルの中に不良品が何個以下なら合格か(Ac)、何個以上なら不合格か(Re)を設定する。
例:サンプル数80個、Ac=2、Re=3 の場合
→ 不良品が0〜2個 → ロット合格
→ 不良品が3個以上 → ロット不合格
OC曲線(検査特性曲線)
抜取検査の性能を表す曲線。横軸にロットの実際の不良率、縦軸にそのロットが合格になる確率を示す。
合格確率
100%│\
│ \
50%│ \
│ \
0%└─────────
0% 1% 2% 3% ←ロットの実際の不良率
OC曲線の形は「サンプル数・Ac」によって決まり、サンプル数が多いほど曲線の傾きが急になって判別力が上がる。
3AQL(合格品質水準)とは
AQL(Acceptable Quality Level)は「このくらいの不良率のロットなら、高確率でライン通過させてよい」という上限値。
- AQL 0.65%: 1,000個中6.5個以下の不良率なら概ね合格 → 高精度部品・重要保安部品
- AQL 1.0%: 1,000個中10個以下 → 一般機械部品
- AQL 2.5%: 1,000個中25個以下 → 一般外観・寸法
- AQL 4.0%: 1,000個中40個以下 → 軽微な外観不良
重要: AQLは「この不良率のロットが高確率で合格になる基準」であり、「このロットには最大AQL%しか不良品が入っていない保証」ではない。
AQL=1.0%の抜取検査でロットが合格しても、実際のロット不良率が3%である可能性はゼロではない。これは抜取検査の本質的な限界(見逃しリスク)であり、工程能力(Cpk)による工程管理と組み合わせることで補う。
4JIS Z 9015に基づくサンプル数の決め方
JIS Z 9015(ISO 2859-1)はロット抜取検査の国際標準。以下の手順でサンプル数を決める。
Step 1:検査水準を選ぶ
| 検査水準 | 特徴 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 特別検査水準 S-1〜S-4 | サンプル数が少ない | 破壊検査・高コスト検査 |
| 一般検査水準 I | 標準より少ない | 検査コスト重視 |
| 一般検査水準 II | 標準 | 通常はこれ |
| 一般検査水準 III | 標準より多い | 判別力を高めたいとき |
通常は一般検査水準 IIを使う。
Step 2:ロットサイズからサンプル文字を調べる
| ロットサイズ | サンプル文字(検査水準II) |
|---|---|
| 2〜8 | B |
| 9〜15 | C |
| 16〜25 | D |
| 26〜50 | E |
| 51〜90 | F |
| 91〜150 | G |
| 151〜280 | H |
| 281〜500 | J |
| 501〜1200 | K |
| 1201〜3200 | L |
| 3201〜10000 | M |
Step 3:AQLとサンプル文字からサンプル数・Acを読む
JIS Z 9015の表(抜粋):
| サンプル文字 | サンプル数 | AQL 1.0% | AQL 2.5% | AQL 4.0% |
|---|---|---|---|---|
| G | 32 | Ac=1/Re=2 | Ac=2/Re=3 | Ac=3/Re=4 |
| H | 50 | Ac=1/Re=2 | Ac=3/Re=4 | Ac=5/Re=6 |
| J | 80 | Ac=2/Re=3 | Ac=5/Re=6 | Ac=7/Re=8 |
| K | 125 | Ac=3/Re=4 | Ac=7/Re=8 | Ac=10/Re=11 |
| L | 200 | Ac=5/Re=6 | Ac=10/Re=11 | Ac=14/Re=15 |
例: ロット500個、AQL 2.5%、一般検査水準IIの場合
- サンプル文字:J(501〜1200の1つ前のJ:281〜500)
- サンプル数:80個
- Ac/Re:5/6
→ 80個検査して、不良5個以下なら合格、6個以上なら不合格。
5正常・強化・緩和検査の切り替え
検査結果の履歴に基づいて検査の厳しさを切り替える仕組みが JIS Z 9015 に組み込まれている。
通常検査(普通)
↓ 直近5ロット中2ロット不合格
強化検査(サンプル数増加)
↓ 直近5ロット連続合格
通常検査に戻る
↓ 直近10ロット連続合格
緩和検査(サンプル数減少)
この切り替え運用により、品質の良いメーカーは検査負荷が減り、品質の悪いメーカーは自動的に厳しい検査になる。
6全数検査と抜取検査の使い分け
| 使うべき場面 | 全数検査 | 抜取検査 |
|---|---|---|
| 安全部品・保安部品 | ✅ | △(リスク評価が必要) |
| 不良品が市場に出た場合の影響が大きい | ✅ | △ |
| ロットサイズが小さい(50個以下) | ✅ | △(統計的意味が薄い) |
| 工程能力が十分(Cpk ≧ 1.67) | △ | ✅ |
| 破壊検査が必要 | ✅不可 | ✅ |
| 大量生産(1000個以上) | コスト高 | ✅ |
重要な考え方: 全数検査が必要な品質レベルは「工程改善で不良を出さない」ことを目指す。全数検査は暫定処置であり、永続的な解決策は工程能力の向上。
7社内で説明するときの言い方
上司・品質管理者に対して: 「このロットはAQL 2.5%、サンプル80個で検査します。不良5個以下なら合格です。工程Cpkが1.33あるので、このサンプル数で十分な判別力があります。」
外注先・仕入れ先に対して: 「受け入れ検査はJIS Z 9015、一般検査水準II、AQL 1.0%で実施します。不合格になった場合は全数選別後の再提出をお願いします。」
現場・検査員に対して: 「このロット500個から80個を無作為に抜き取って検査します。不良が5個見つかった時点でロット不合格です。6個目を見つけたら検査を止めて報告してください。」
8まとめ:抜取検査設計の3ステップ
- AQLを決める——部品の重要度・不良の影響から許容不良率を設定
- JIS Z 9015でサンプル数とAc/Reを決める——ロットサイズと検査水準から読む
- 全数検査との使い分けを明確にする——安全部品・小ロットは全数、大量生産は抜取
次のステップ:
- 工程能力(Cpk)の基礎 — 工程能力で抜取検査の必要性を判断する
- QC7つ道具の実務活用 — 不良原因分析に使うツールへ
- 品質管理の基礎 — PFMEA で検査項目を設計する
この記事の執筆者
seigitech 編集部
生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。