seigitech

応力集中の考え方|穴・段差・溝で局所応力が何倍になるかを設計前に把握する

最終更新日 2026-06-03読了時間 約5対象:機械設計者、生産技術担当者、設備の構造設計に関わるエンジニア

この記事でわかること

機械部品の穴・段差・切り欠きで局所応力が集中するメカニズムを解説。応力集中係数Ktの意味、設計で集中を緩和する方法、安全率計算への組み込み方まで実務目線でまとめます。

1「計算上は安全なはずなのに、ここから破れた」

断面積から応力を計算し、安全率3倍を確認した部品が、想定より早く破損した。破損箇所を見ると、穴の縁か、段付き軸の段差のところだった。

これは応力集中によるものだ。

平均応力に安全率を掛けた設計では、局所的に応力が集中する箇所を見落とすことがある。 応力集中を無視して設計すると、疲労破壊が「安全なはず」の部品から起きる。


2応力集中とは何か

均一な断面に力をかけると、応力は断面全体に均等に分布する。しかし、穴・段差・切り欠き・溝があると、そこで力の流れが乱れ、局所的に平均応力の何倍もの応力が発生する。

これを応力集中という。

応力集中の大きさは応力集中係数 Kt(理論応力集中係数)で表す。

$$ \sigma_{max} = K_t \cdot \sigma_{nom} $$

  • σmax:最大局所応力
  • Kt:応力集中係数(1以上の無次元数)
  • σnom:公称応力(断面積で計算した平均応力)

Kt = 3 なら、穴の縁では平均応力の3倍の応力が発生している。


3代表的な形状と応力集中係数の目安

Ktはノッチの形状・寸法比によって変わる。代表的な例を示す。

形状 条件 Kt(目安)
円孔(引張) 無限板に円穴 3.0(理論値)
円孔(引張) 板幅に対し穴が小さい 2.5〜3.0
段付き軸(曲げ) r/d = 0.05(鋭い) 2.5〜3.5
段付き軸(曲げ) r/d = 0.2(緩やか) 1.5〜2.0
キー溝(ねじり) 1.8〜3.0
ねじ谷底(引張) 2.0〜4.0
溶接止端部 2.0〜3.0(以上の場合も)

r/d(フィレット半径 / 軸径)が小さいほど、つまり角が鋭いほど Kt が大きくなる。


4応力集中が特に危険な場面:繰り返し荷重

静的な一度限りの荷重なら、応力集中による局所応力が降伏点を超えても、材料が塑性変形して応力が再分布し、大事に至らないことがある。

しかし繰り返し荷重(疲労荷重)では話が変わる。

繰り返し荷重では、局所的に高い応力が繰り返しかかることで、き裂が発生・進展して最終的に破断する。これを疲労破壊という。応力集中部は疲労き裂の起点になりやすい。

静的荷重の場合
局所応力が降伏点を超えても塑性変形で応力再分布が起きる。Ktの影響が緩和されることがある。
繰り返し荷重の場合
き裂起点になりやすく、疲労破壊が起きる。Ktは安全率計算に必ず組み込む必要がある。

5安全率計算への組み込み方

応力集中がある場合、安全率の計算は以下の手順で行う。

疲労荷重がある部品の場合:

$$ \text{実際の安全率} = \frac{\sigma_w}{K_f \cdot \sigma_a} $$

  • σw:疲労強度(S-N線図から)
  • Kf:切り欠き係数(Ktに材料感受性を加味したもの。Kf ≤ Kt)
  • σa:振幅応力

実務では、厳密な Kf の算出が難しい場合、Kt をそのまま使って保守的に評価することが多い。


6設計で応力集中を緩和する方法

応力集中を減らす設計変更
フィレット半径を大きくする
段付き軸の角をR0.5→R2にするだけでKtが大幅に下がる。r/d ≥ 0.1を目安にする。
断面変化を緩やかにする(テーパー形状)
急な断面変化を複数段に分けると、1箇所あたりのKtが下がる。
穴のエッジを面取り・バリ取りする
穴縁の鋭角エッジはKtを高める。C0.3〜C0.5の面取りでも効果がある。
表面処理で疲労強度を上げる
ショットピーニング・窒化処理で表面に圧縮残留応力を与えると、疲労き裂の進展が抑制される。Ktを下げる代替にもなる。
❌ 硬くする(焼入れ)だけでは応力集中は変わらない
Ktは形状で決まる。材質・硬度を変えてもKtは変わらない。

7よくある失敗パターン

パターン①:キー溝を入れた軸が疲労破壊した

回転軸にキー溝を入れて動力を伝達していた。平均応力で計算した安全率は3倍あったが、数百万回の回転後にキー溝の角から疲労き裂が発生して破断した。

なぜ起きるか:キー溝のKtは1.8〜3.0程度あり、疲労計算にKtを組み込んでいなかった。静的な安全率計算だけでは繰り返し荷重への耐性を評価できない。

対処:キー溝角のRを取る、軸端にキー溝を設けない設計にする、またはスプライン・セレーションに変更する。

パターン②:穴あけ加工後に応力集中を考慮しなかった

板材に複数の穴を開けて軽量化した。穴の間隔が狭かったため、穴と穴の間(リガメント部)に高い応力が集中し、そこから亀裂が入った。

なぜ起きるか:穴と穴が近いと、それぞれの応力集中場が重なって局所応力がさらに高くなる。穴間距離は穴径の2倍以上を確保するのが基本。

パターン③:溶接部の応力集中を見落とした

溶接構造物の安全率を母材の強度で計算した。溶接ビードの止端部(溶接の終端)に応力集中があることを考慮していなかった。

溶接部のKtは2〜3以上になることがある。溶接構造物では溶接継手の形状と品質が設計の鍵になる。


8社内で説明するときの言い方

  • 設計レビューで:「段差の角がRゼロになっています。繰り返し荷重がかかる部位なので、応力集中係数Ktが3前後になる可能性があります。フィレットR2以上を入れることを提案します」
  • メーカーへ:「この軸のキー溝角の形状とフィレット半径を図面に明示してください。疲労荷重があるため、Ktを含めた応力計算書を確認します」
  • 上司へ:「平均応力の計算だけでは疲労破壊は防げません。繰り返し荷重がかかる部位では応力集中係数を掛けた上で安全率を確認する必要があります」

9まとめ

応力集中は「形状」で決まる。穴・段差・溶接止端では局所応力が平均応力の2〜4倍になることがある。

繰り返し荷重がかかる部品では、Ktを安全率計算に組み込まないと、計算上安全でも疲労破壊が起きる。

対策はフィレット半径を大きくすること、断面変化を緩やかにすること、表面処理で疲労強度を上げること。「硬くする」だけでは応力集中は変わらない。


10関連記事

👷

この記事の執筆者

seigitech 編集部

生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。