「部品は図面通りなのに、組み立てると合わない」
各部品は図面公差の範囲内で作られている。しかし組み立てると、どうしても隙間が大きすぎたり小さすぎたりする。
累積公差(公差積み上げ、Tolerance Stack-up)は確認すべき原因候補の一つだ。姿勢・位置などの幾何偏差、組立時の拘束や変形、温度、測定方法も照合し、寸法公差の計算だけで原因を決めない。
部品の寸法差は、組合せ方に応じて最終的な隙間や全長へ影響する。設計段階で、組立要求に対応する寸法ループと計算の前提を確認する。不具合の原因は現物と測定結果で検証する。ASQの原因分析解説も、問題・原因候補・因果関係を検討する過程を示している。
累積公差とは何か
3つの部品A・B・Cを横に並べて組み立てる場合を考える。
| 部品 | 公称寸法 | 対称公差(mm) |
|---|---|---|
| A | 50 mm | ±0.1 |
| B | 30 mm | ±0.1 |
| C | 20 mm | ±0.1 |
合計寸法の公称値は 50+30+20 = 100 mm。
しかし最悪の場合は?
- 最大値:50.1 + 30.1 + 20.1 = 100.3 mm
- 最小値:49.9 + 29.9 + 19.9 = 99.7 mm
この直列・同方向の足し算では、組立寸法の範囲は 100±0.3 mm。以下のTは、±で表すときの非負の半幅とする。各部品のTは0.1 mm、組立のTは0.3 mmで、組立寸法の上限と下限の差(全幅)は0.6 mmになる。
2つの計算方法:最悪値法とRSS法
最悪値法(Worst Case)
寸法関係を直線的に表せるモデルで、各入力寸法が規定範囲内にあるときの出力の上下限を計算する。Xiは入力寸法、Xi0はその中心値、ciは方向と寸法関係で決まる係数、Yは組立寸法とする。対称公差Xi0±Tiなら:
Y = Σ(ci × Xi)
Y0 = Σ(ci × Xi0)
T_WC = Σ(|ci| × Ti)
組立寸法の範囲はY0±T_WC。足す寸法も引く寸法も、半幅の寄与は係数の絶対値で加算する。例えば隙間G=A−Bなら、Gの最大はA最大−B最小、最小はA最小−B最大となる。同じ寸法変数が複数回現れる場合は係数をまとめ、別々の独立入力として二重計上しない。
- 上下非対称の公差は、上限・下限から範囲の中心と半幅を求める。図面の公称値が範囲の中心とは限らない
- 入力範囲とモデルに含めた寸法関係についての境界であり、幾何偏差・変形・温度・測定誤差などを無視して組立全体を保証する計算ではない
- 全組合せで要求を満たす必要があるか、実際の要求とモデルの妥当性を確認する。生産数量や部品点数だけでは計算法を決めない
Autodeskの一次元解析の説明は、最悪値を出力寸法の上下限として扱い、一方向の解析では角度の影響を含められない点も説明している。
RSS法(Root Sum Square:二乗和平方根法)
RSSは統計的なばらつきを合成する方法で、最大寸法差を求めるものではない。上の線形モデルで、入力の平均をμi、標準偏差をσiとし、入力間が無相関なら:
μY = Σ(ci × μi)
σY = √Σ(ci² × σi²)
T_RSS = k × σY = √Σ(ci² × Ti²)
(最後の等式は、すべてのTi = k × σi、同じkの場合)
NISTのばらつき伝播の説明のとおり、相関があれば分散には共分散の項も必要になる。共通の加工条件などで相関する入力を、根拠なく無相関としない。また、平均が中心から偏ればμYもずれる。
上記の±0.1 mmが各入力で同じkσに対応し、平均が各中心値にあり、無相関と確認できる仮定例では:
T_RSS = √(0.1² + 0.1² + 0.1²)
= √0.03 = 0.173205… mm ≈ 0.17 mm
この仮定で100 mmを中心とする統計的な幅は約±0.17 mmとなる。最悪値の±0.3 mmとは意味が異なり、RSSの幅を超える寸法が不可能になるわけではない。
- 図面公差だけから実際のσや不良率は分からない。同じkという仮定と、工程データによる平均・ばらつき・相関の検証を区別する
- 工程が安定しているかを確認する。kと包含率の関係は分布に依存し、非正規分布へ正規分布の不良率をそのまま当てはめない
- 許容する不良率と判定方法を合意し、モデルに合わない場合は分布・相関を扱える方法を選ぶ。点数が6個以上、量産品という理由だけでRSSを採用しない
PTCの解析方法比較はRSSで入力に共通の品質水準を仮定することを示している。NISTの工程能力解説では工程の安定性、分布、平均の偏りが扱われている。
・加減算の方向と係数
・モデル内の全組合せの境界
・除外した幾何偏差などの影響
・分布・相関・工程安定性
・合意した不良率と判定方法
・最大値との意味の違い
実務での累積公差計算:ステップで整理
STEP 1|寸法ループを書く
求めたい隙間・全長の測定方向と始点・終点を決める。接触面や位置決め部をたどり、寸法の方向を+/−、中心までの寸法なら係数などで表す。一方向のモデルにできない位置・姿勢の影響は、二次元・三次元の解析などで別に評価する。
STEP 2|各部品の公差を書き出す
図面の版、公称寸法、上下の限界、単位を一覧にする。規格参照値は実際の対象・適用条件を確認する。図面基準・加工/検査基準・組立接触面の対応と測定温度も記録する。RSSを検討する場合は、寸法公差と別に工程データの平均・σ・相関・採取条件をそろえる。
STEP 3|方法を選んで計算する
モデル内の限界を確認する最悪値法と、前提を確認して統計的な幅を見積もるRSS法を区別する。RSSに必要なデータがない場合は、仮定値であることと未検証事項を残し、実績の不良率として扱わない。
STEP 4|要求精度と比較する
組立寸法の中心値と上下限、または平均と統計的な幅を、要求された隙間・締まりの範囲へ照合する。RSSでは合意した不良率も確認する。計算書と試作・測定結果を突き合わせ、モデル外の誤差を評価する。
収まらない場合:
- 個別部品の公差を厳しくする
- 部品点数を減らす(構造の見直し)
- シム・調整機構を入れる
よくある失敗パターン
パターン①:個別部品の公差だけで組立性を判断する
個別部品の公差を決める際は、組立寸法への寄与も計算する。試作が調整で組み上がったことだけでは、量産時の無調整組立や必要な調整範囲を確認したことにはならない。
一般的な確認点:個別の寸法が範囲内でも、組合せで要求を外れる場合がある。ただし調整の発生率や原因は、実寸法・組合せ・接触状態・調整記録で確認する。
対処:設計段階で累積公差を計算し、組立要求が満たせるかを確認する。調整が必要な場合は調整機構(シムや長穴)を意図的に設ける。
パターン②:公差を厳しくしすぎてコストが跳ね上がった
最悪値計算で要求を外れる場合も、全寸法を同じ幅へ厳しくする前に、寄与の大きい寸法と加工方法を検討する。費用は変更後の図面と検査条件に対応する見積もりで比較する。
一般的な確認点:全寸法を一律に厳しくする前に、各寸法の寄与、構造変更、調整機構と見積条件を比較する。量産だからRSSへ切り替えるのではなく、要求と工程データで採用可否を判断する。公差幅だけから加工費の増加率は決められない。
パターン③:基準面が部品ごとにバラバラで累積がさらに大きくなった
部品Aを左端、部品Bを中心、部品Cを右端から寸法記入する構成なら、それぞれの基準間の関係を寸法ループへ対応させる。基準の違いだけを寸法不一致の原因とは決めない。
一般的な確認点:部品ごとの基準が異なることだけで累積が増えるとは限らない。基準間の関係、位置・姿勢の偏差、実際の接触や拘束を計算に含められているかを確認する。
対処:機能上の位置決めに沿って基準を設定し、図面・加工・検査・組立でその対応が追えるようにする。すべての部品を同じ一面から寸法記入するという意味ではない。キーエンスのデータムターゲット解説には、面全体でなく点・線・領域を使って基準を設定する例もある。
シムで吸収する設計という選択肢
公差計算の結果、どうしても累積公差が組立要求を超えてしまう場合、シム(薄い調整板)を使った設計が有効だ。
- 必要な調整範囲と刻みに合うシムを選ぶ。選べる板厚だけでなく板厚公差を計算へ含める。MISUMIのシム製品でも板厚ごとに寸法公差が示されている
- 接触面、締付けによる変化、使用中のずれや脱落の防止、再組立時の再現性を確認する。調整で吸収できる方向・範囲以外の誤差は残る
- 調整後の寸法を測定して合否を確認し、厚さ・枚数・位置・測定条件を記録する。加工費だけでなく調整/検査工数と保守時の復元を比較する
社内で説明するときの言い方
以下は前提を置いた説明例で、実在案件の事実確認や実績値の報告ではない。
- 設計レビューで:「5部品の寸法ループについて、計算結果が中心値から±0.5 mm、同じ中心値の要求が±0.3 mmだったと仮定します。計算書で入力の上下限・係数を確認し、寄与の大きい寸法や構造・調整機構を検討します」
- メーカーへ:「この例の隙間要求を0〜0.3 mmとします。図面版・組立状態・温度・測定位置をそろえ、各入力の限界と計算法を含む計算書を確認させてください」
- 品質部門へ:「累積公差を原因候補として、実寸法と組立記録で計算を検証します。幾何偏差や拘束・測定条件も確認し、原因と再発防止策を決めます」
累積公差設計チェックリスト
- 組立要求から、入力寸法・方向・係数・接触状態を寸法ループへ整理したか
- 最悪値と統計的な幅を区別し、RSSの平均・σ倍率・分布・相関・安定性を確認したか
- 累積公差が組立要求(隙間・締まりの範囲)に収まるか確認したか
- 公差を絞る場合、加工コストへの影響を確認したか
- 調整機構(シム・長穴)が必要な場合、設計に組み込んだか
- 図面・加工・検査・組立の基準が対応し、幾何偏差・温度・測定条件も評価したか
- 調整後の測定、シム公差・固定・復元方法を記録したか
まとめ
最悪値は入力範囲内での境界、RSSは前提に基づく統計的な幅である。「部品数×個別公差半幅」は、各係数の絶対値が1で半幅が同じ場合の最悪値の式に限る。RSSを最大値や、工程データなしの不良率保証として扱わない。
設計段階の計算を試作・測定結果で検証し、量産や変更後も前提が成り立つかを確認することで、組立不良や調整のリスクを減らす。
公差設計は「厳しくすればいい」ではなく「要求を満たす範囲で最もコストを下げる」設計だ。
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