累積公差の計算方法|複数部品を組み合わせたときの「ズレの最大値」を設計前に求める
この記事でわかること
複数部品の公差が積み重なって組立寸法に影響する「累積公差」の計算方法を解説。最悪値法・RSS法の使い分け、組立不良が出る前に公差設計を見直す判断基準まで実務目線でまとめます。
1「部品は図面通りなのに、組み立てると合わない」
各部品は図面公差の範囲内で作られている。しかし組み立てると、どうしても隙間が大きすぎたり小さすぎたりする。
これは累積公差(公差積み上げ、Tolerance Stack-up)の問題だ。
1部品の公差は小さくても、複数部品を組み合わせると公差が積み重なって、最終的な組立寸法のズレが大きくなる。累積公差を設計段階で計算しておかないと、試作・量産で組立不良が続出する。
2累積公差とは何か
3つの部品A・B・Cを横に並べて組み立てる場合を考える。
| 部品 | 公称寸法 | 公差 |
|---|---|---|
| A | 50 mm | ±0.1 |
| B | 30 mm | ±0.1 |
| C | 20 mm | ±0.1 |
合計寸法の公称値は 50+30+20 = 100 mm。
しかし最悪の場合は?
- 最大値:50.1 + 30.1 + 20.1 = 100.3 mm
- 最小値:49.9 + 29.9 + 19.9 = 99.7 mm
公差 ±0.1 の部品が3つでも、組立寸法は ±0.3 のズレが生じる可能性がある。部品が増えるほど累積公差は大きくなる。
32つの計算方法:最悪値法とRSS法
最悪値法(Worst Case)
全部品が同時に最大または最小になった場合の累積公差を計算する。
$$ T_{total} = T_1 + T_2 + T_3 + \cdots + T_n $$
- 確実に組立が成立する保証ができる
- 公差が厳しくなりやすく、コストが上がる
- 安全性が求められる部品・少量生産に向く
RSS法(Root Sum Square:二乗和平方根法)
全部品が同時に最大・最小になる確率は低いという統計的考え方。
$$ T_{total} = \sqrt{T_1^2 + T_2^2 + T_3^2 + \cdots + T_n^2} $$
上記の例(±0.1が3つ)でRSS法を使うと:
$$ T_{total} = \sqrt{0.1^2 + 0.1^2 + 0.1^2} = \sqrt{0.03} \approx \pm 0.17 \text{ mm} $$
最悪値法の ±0.3 に対して、RSS法では ±0.17 になる。
- 大量生産・統計的に不良率を管理したい場合に使う
- 全部品が同時に最悪値になる確率は低い、という仮定に基づく
- ただし稀に最悪値が出るリスクを許容する判断が必要
・少量生産(統計が効かない)
・組立不良ゼロが絶対条件
・部品点数が少ない(3〜5個以下)
・部品点数が多い(6個以上)
・不良率をppmで管理できる体制
・公差を緩くしてコストを下げたい
4実務での累積公差計算:ステップで整理
STEP 1|寸法ループを書く
組立寸法に影響する部品を洗い出し、寸法チェーンを一直線に並べる。「どの部品の寸法が積み重なって、最終的な組立ギャップに影響するか」を追跡する。
STEP 2|各部品の公差を書き出す
図面・規格から各部品の公称寸法と上下の公差を書き出す。
STEP 3|方法を選んで計算する
最悪値法(少量・安全部品)またはRSS法(大量生産)で総累積公差を求める。
STEP 4|要求精度と比較する
求めた累積公差が組立要求(隙間・締まりの範囲)に収まるか確認する。
収まらない場合:
- 個別部品の公差を厳しくする
- 部品点数を減らす(構造の見直し)
- シム・調整機構を入れる
5よくある失敗パターン
パターン①:部品図の公差は通ったが、組立で毎回調整が必要になった
設計段階で累積公差を計算せず、各部品の公差を「±0.1くらいで」と決めた。試作では調整すれば組めたが、量産で10台に1台は調整が必要な状態になった。
なぜ起きるか:部品単体では問題ない公差でも、部品が増えると累積が拡大する。量産では調整工数がそのまま原価になる。
対処:設計段階で累積公差を計算し、組立要求が満たせるかを確認する。調整が必要な場合は調整機構(シムや長穴)を意図的に設ける。
パターン②:公差を厳しくしすぎてコストが跳ね上がった
累積公差の計算はしたが、全部品に最悪値法を適用して全公差を ±0.05 に絞った。加工コストが当初見積もりの3倍になった。
なぜ起きるか:最悪値法は公差を絞り込みすぎる傾向がある。大量生産品ではRSS法で統計的に許容不良率を決め、コストとバランスさせるべきだった。
パターン③:基準面が部品ごとにバラバラで累積がさらに大きくなった
部品Aは左端基準、部品Bは中心基準、部品Cは右端基準で寸法を記入していた。組立時の基準面が揃っていないため、理論値より累積が大きくなった。
なぜ起きるか:設計者ごとに寸法記入の基準が違うと、製造・検査・組立の各段階で基準のズレが積み重なる。
対処:組立で影響する寸法は共通の基準面から書く。GD&T(幾何公差)を活用して基準面を明示する。
6シムで吸収する設計という選択肢
公差計算の結果、どうしても累積公差が組立要求を超えてしまう場合、シム(薄い調整板)を使った設計が有効だ。
- シムは0.1〜数mmの金属板を複数枚用意し、組立時に挿入枚数で寸法を調整する
- 精密な部品を作らずに組立精度を出せる
- ただし組立工数が増える・シムの管理が必要になる
光学機器・精密装置では頻繁に使われる手法だ。
7社内で説明するときの言い方
- 設計レビューで:「この部分、5部品の公差が積み重なります。最悪値法で計算すると累積 ±0.5 になり、組立要求の ±0.3 を超えます。どの部品の公差を絞るか、またはシムを入れるか検討が必要です」
- メーカーへ:「組立公差の要求は隙間0〜0.3 mmです。各部品の公差を決める前に累積公差の計算書を出してください」
- 品質部門へ:「組立不良の原因は部品の寸法不良ではなく、設計段階での累積公差の見落としです。再発防止には設計レビューに累積公差計算を必須にする必要があります」
8累積公差設計チェックリスト
- 組立寸法に影響する全部品を寸法チェーンに洗い出したか
- 最悪値法・RSS法のどちらを使うか根拠を持って選んだか
- 累積公差が組立要求(隙間・締まりの範囲)に収まるか確認したか
- 公差を絞る場合、加工コストへの影響を確認したか
- 調整機構(シム・長穴)が必要な場合、設計に組み込んだか
- 基準面が全部品で統一されているか
9まとめ
累積公差は「部品数 × 個別公差」で増える。最悪値法は安全確実だがコスト高、RSS法は統計的に緩められるが稀に不良が出る可能性を許容する。
設計段階で累積公差を計算することで、量産後の「調整が必要な組立」「不良率の高い工程」を事前に防ぐことができる。
公差設計は「厳しくすればいい」ではなく「要求を満たす範囲で最もコストを下げる」設計だ。
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この記事の執筆者
seigitech 編集部
生産技術・機械設計・自動化・MES・AIを専門とする実務エンジニア集団。 現場での実務経験をもとに、すぐに使える知識とノウハウを整理・発信しています。