「溶接してください」だけでは設計として成立しない

設備フレームや治具のブラケットで「ここは溶接で固定」とだけ指示すると、必要な強度や仕上がりを施工先と共有できない。溶接量の不足だけでなく、過大な入熱による変形も検討対象になる。

設計の入口は「どの継手タイプで・どのサイズの溶接を・どこに入れるか」の3点。荷重・材料・使用環境から必要条件を決め、施工方法、完成寸法、検査と合格条件まで図面や仕様書へつなぐ。記号を描くだけで設計や受入れが完了するわけではない。


溶接継手の種類と使い分け

継手の形と、完全溶込み・部分溶込み・隅肉といった溶接部の作り方を区別して選ぶ。

継手タイプ 部材の配置 設計で見る点 用途の例
突き合わせ継手 部材の端面を向かい合わせる 完全溶込みか部分溶込みか、有効断面と検査可能性 フレーム本体、板材の接合
T継手 一方の部材を他方に直角に立てる 隅肉ならのど断面、片側・両側の配置と荷重分担 ブラケット、補強リブ
重ね継手 板を重ねて端部を接合する 重なり寸法、荷重線の偏心、施工・検査のアクセス 薄板部品など
かど継手 角部で部材を接合する 継手形状、溶込み、内外からの施工性 カバー、板金ボックス

完全溶込みの突き合わせ継手では板厚全体を荷重伝達に使う設計が可能だが、継手名だけで強度の順位は決まらない。隅肉溶接も必要な断面と配置を確保して使う。母材・溶接金属・熱影響部、荷重方向、偏心、繰返し荷重、欠陥の扱いをそろえて比較する。日本溶接協会の継手強度解説も、荷重方向や材料による違いを示している。

選び方: 荷重の流れと必要品質を先に決め、施工コスト、トーチや検査器具のアクセス、後加工まで比較する。高荷重なら一律に突き合わせ、取付部なら無条件にT継手、とは決めない。


隅肉溶接のサイズ設計

ブラケットや補強リブを隅肉溶接で接合するときは、脚長だけでなく、のど厚と有効長を確認する。

脚長・サイズと理論のど厚

脚長は継手のルートから止端までの距離。溶接表面の幅とは異なる。サイズは溶接金属内に取れる三角形に基づく寸法で、不等脚や凹形の断面では脚長と単純に同じ扱いにできない。

ここでは部材が直角に交わり、断面が等脚で表面が平らな理論形状を考える。この条件で脚長とサイズをS、理論のど厚をaとすると、

a = S / √2 ≈ 0.707 × S
S = 6mm のとき a ≈ 4.2mm

この幾何関係は日本溶接協会の理論のど厚解説に対応する。実継手では、表面形状や溶込み、欠陥の扱いを含め、採用する設計基準で有効なのど厚を定める。のど厚だけで継手全体の強度が決まるわけではない。

簡易強度チェック

以下は、有効のど断面に一様な直接せん断だけが作用すると仮定した説明例。曲げ・ねじり・偏心・疲労、母材側の破壊などは別に評価する。

P = τ × a × L
P:このモデルでの許容荷重(N)
τ:採用する溶接設計基準・材料・品質条件に基づく許容せん断応力(N/mm²)
a:計算に用いる有効のど厚(mm)
L:設計したのど厚で荷重を伝達する有効溶接長さ(mm)

計算練習の仮定: a=4.2mm、L=100mm、τ=100N/mm²と置く。

P = 100 × 4.2 × 100 = 42,000N(42kN、約4.3tonf)

100N/mm²はこの練習用の仮定値であり、SS400という材名から決まる共通許容値ではない。42kNも現物の安全な吊上げ荷重を示す値ではない。実設計では、適用基準、母材と溶接材料、荷重の種類、必要品質に対応する許容値の根拠を残す。

同じ有効断面の2本が偏心なく均等に荷重を受け、他の破壊条件が支配しない同モデルなら、面積の合計により84kNとなる。両側に溶接したというだけで2倍にはできない。配置に応じて溶接群の荷重分担やモーメントを評価する。

また、有効長100mmと実際に施工するビード長100mmは同義ではない。始終端の不完全な部分などを含めるかは施工状態と適用基準で確認する。日本溶接協会の教材は、有効長を設計どおりののど厚を持つ部分の長さとして説明している。

板厚と脚長の関係

板厚だけで推奨脚長を一意には決められない。薄い板へ過大な溶接量を与えると、必要強度を満たしていても変形や施工不良の問題を招く。次の条件をそろえて決める。

確認項目 決める内容
接合する両部材の板厚と形 薄い側、板端・面への接合、ルート形状、溶込みの扱い
荷重と有効断面 必要なのど厚・有効長、偏心・繰返し荷重、母材側の限界
施工方法と品質 施工可能な寸法、熱入力、溶接材料、確認・合格条件
変形と仕上がり 総溶接量、配置・順序、拘束、仕上げ加工と許容寸法

「脚長は板厚以下」は過大溶接を避ける際の着眼点にはなるが、どちらの板厚か、継手形状や適用基準を抜いた一律の合否式にはしない。強度不足なら脚長、有効長、両側配置、継手形状を比較し、施工性と変形も再評価する。長さの延長や両側化で総入熱が増える場合もある。


溶接記号の読み方

図面で採用する規格の年版と表示方式を施工先と合わせる。ここではJFEの公開便覧にあるJIS Z 3021-2010抜粋のA法(第三角法)の説明範囲で、基線・矢・記号の位置を読む。現行規格全文の再掲ではなく、別の年版・方式へそのまま読み替えない。

記号の基本構造

この例では、基線の下が矢の側、上が反対側。横断面寸法は溶接部記号の左、溶接長は右に置く。隅肉の記号は直角三角形で、正三角形や黒丸に置き換えない。

矢側・反対側の断面と、現場・全周の補助記号 2010年版公開抜粋のA法の概念例。右側を矢が指す同じT継手で、右に溶接する上段は記号が基線の下、左に溶接する中段は基線の上。下段は矢と基線の交点の旗と円を別々に示す。 ① 矢側に隅肉溶接基線650下側に記号/左:脚長、右:長さ ② 反対側に隅肉溶接基線650上側に記号/矢は同じ側を指す 旗:現場溶接円:全周溶接旗も円も矢と基線の交点に付く
矢側・反対側と補助記号の位置を読む概念図。脚長6mm・長さ50mmは読取用の仮例で、強度・施工の適否は示していない。狭い画面では横にスクロールできる。
この方式での表示 意味
隅肉記号が基線の下 矢の側に溶接する
隅肉記号が基線の上 矢と反対の側に溶接する
矢と基線の交点に旗 現場溶接。尾部の黒丸ではない
矢と基線の交点に円 全周溶接

断続溶接の長さとピッチ

溶接する1区間の長さと、隣り合う区間の中心間ピッチを分ける。例えば、同一線上に長さ50mmを3区間、中心間ピッチ100mmで並べると、区間間のすきまは50mmとなる。長さ100mm・中心間ピッチ50mmでは区間が重なり、このような断続配置にはならない。

長さ50mm、中心間ピッチ100mm、3区間の配置例 各区間は0から50、100から150、200から250mm。中心は25、125、225mmで、中心間100mm、すきま50mm。 100mm100mm中心間ピッチ長さ50mmすきま50mm寸法の概念図・規格記号ではない
ピッチは非溶接区間の長さではない。実図面では適用する記法で、脚長等の横断面寸法、区間長、数、ピッチ、両側なら並列・千鳥の配置を明示する。

日本溶接協会の断続溶接例も区間長・数・ピッチと実形を対応させている。上の数値は本記事の独自の配置例であり、規格の正式な寸法列を省略記号で再現したものではない。


設計ミスと失敗の構造

以下は設計時に点検する一般的な説明例。原因を一つに決めつけず、図面と施工条件の両方を確認する。

ミス1:必要な溶接寸法を指定しない

「溶接で接合」とだけ書くと、施工先が想定した寸法が設計要求と合わない可能性がある。寸法の省略や強度検討の未完がないかを確認し、隅肉なら必要な脚長等と長さ・位置を明示する。完全溶込みなど別の指示が必要な継手も、採用方式に従って記載する。

脚長だけで品質は保証できない。適用図面版、材料、溶込みや欠陥の扱い、完成寸法の要求を施工先と照合し、必要な確認方法と合格条件を決めてから発注する。すべての案件に一律の非破壊試験や追加の認証を課すという意味ではない。

ミス2:必要条件を確かめず全周溶接を選ぶ

「しっかり固定したい」だけで全周溶接を選ぶと、過大な溶接量や後工程の増加につながり得る。強度、気密・液密、使用環境から連続した溶接が必要かを判断する。必要な全周溶接を、変形低減だけを理由に断続溶接へ変えない。

精度が必要なガイドベースや位置決めブラケットでは、許容変形と仕上げ代を決め、後加工を含む施工案と比較する。

ミス3:溶接アクセスを考慮しない

トーチが入らない狭い隙間、必要な箇所が見えない構造では、図面どおりに施工できないことがある。3D CADでは部品形状だけでなく、実際のトーチの向き・角度・移動範囲、施工順と検査アクセスを確認する。

対策: 工具や治具を含めて干渉を確認するか、施工先へ事前に照会する。問題があれば、継手形状や組立順を見直してから図面を確定する。

ミス4:材料名だけで予熱・後熱の要否を決める

S45Cなどの中炭素鋼や焼入れ鋼では、割れや熱影響部の性質変化に注意する。材質と熱処理状態を確認し、溶接による接合が適するか、材料変更や別の接合法を含めて検討する。「S45C以上なら同じ処理」「SS400・SUS304なら問題なし」という判定はしない。

炭素当量には複数の式がある。下式は炭素鋼・低合金鋼の溶接焼入れ性を評価する指標の一つ、CE(IIW)。各元素は質量%の値を入れる。例えばC=0.20%なら0.20とする。

CE(IIW) = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15

日本溶接協会の予熱推定の解説は、CE(IIW)と低炭素域を考慮する別式を区別し、組成・板厚・水素量・入熱などを挙げている。使う式と対象鋼種の適合を確認し、ステンレスやアルミの溶接性へこの式を流用しない。

0.4%などの数値だけを溶接可否や予熱不要の境界にはしない。材料証明、溶接材料とその管理、板厚、拘束、周囲温度、熱入力を合わせて、施工先と施工要領の予熱・パス間温度・後熱の条件を決める。TWIの水素割れ解説でも、低い炭素当量でも厚板・高拘束・水素条件によって予熱が必要な場合を示している。温度を高くすればよいという単純な対策にもせず、材質と施工条件への影響を確認する。


溶接後の変形対策

熱収縮により変形と残留応力が生じるため、完成寸法に対してどの変形を許容するかを設計時に決める。対策の効果は材質、継手形状、配置、施工順、拘束で変わる。

  1. 必要な溶接量を決める: 強度や密封の要求を満たす範囲で、過大な脚長・長さを避ける。
  2. 配置と施工順を検討する: 中立軸に対するバランス、対称配置、適切な分割施工を検討する。「長い部材は両端から交互」を全構造共通の順序にはしない。
  3. 拘束と解放後を確認する: 治具は変形抑制に使えるが、残留応力や割れの問題、解放後の変形、取外し方法も確認する。
  4. 仕上げ工程を計画する: 必要な面の機械加工、矯正、寸法検査の工程と許容値を施工先と合意する。

TWIの設計による変形対策と拘束の解説は、溶接量・バランスと、拘束に伴う残留応力・割れの両方を扱っている。

熱処理も目的を分ける。水素放出を促す即時後熱と、残留応力を低減する応力除去熱処理は同じ処置ではない。精密な治具ベースでも「応力除去焼鈍→機械加工」を一律に指定せず、材種・調質・強度・耐食性と寸法安定性への影響を確認して要否と工程を決める。TWIの熱処理解説にある目的の区別を、実材料の施工条件へつなぐ。


材料選定と溶接性

材料名は確認の入口。次の表は完成した施工手順や一律の処理条件ではない。

材料 確認の着眼点 施工先と合わせる条件
SS400 材料証明・成分と板厚、必要な継手性能 材名だけで特別処理不要とせず、溶接材料・水素・拘束・入熱を確認
SM400/490 溶接構造用でも材種・板厚・製造条件を確認 板厚25mmという単一境界ではなく、適用基準と施工要領で予熱等を決める
SUS304 熱履歴による鋭敏化・粒界腐食、変形 使用環境、溶加材、入熱・パス間温度、必要な表面処理を確認
SUS316 必要な耐食性と使用環境、熱履歴 304よりすべての環境で安全とはせず、腐食条件と溶接材料を確認
A5052(アルミ) 合金名に加え質別と接合後の要求特性 TIG/MIG等の適合する方法・設備・溶加材・酸化皮膜の前処理、熱影響部の軟化や変形を確認
S45Cなどの中炭素鋼・焼入れ鋼 成分と熱処理状態、硬化・割れ、必要な使用性能 接合法の適否から検討し、予熱・後熱等の要否を施工条件ごとに決める

ステンレスについてはTWIのオーステナイト系ステンレス溶接解説、アルミの質別・方法については日本溶接協会の材料教材と溶接上の注意を参照。アルミの接合後の軟化はTWIの接合法解説でも扱っている。合金・質別・継手条件を揃えずに「鋼より強度が低い」とだけ比較しない。


社内で説明するときの言い方

以下は、要求を具体化するための会話例。数値は案件の承認済み計算・図面と合わせて使う。

上司・設計者に対して: 「このブラケットは溶接寸法が未指定です。荷重・材料・有効長と許容値の根拠を確認し、必要な脚長と配置を図面に追記してから外注に出します。」

外注先・製作会社に対して: 「計算と施工条件を確認したこの図面では、脚長6mm、必要有効長100mmを両側で確保する指定です。施工する長さや始終端の扱いを確認し、完成寸法、矯正・後加工、検査・合格条件を合意してから着手してください。」

現場・組立担当に対して: 「この溶接は荷重を受ける部位です。承認図面と施工要領に沿って寸法・施工条件を確認してください。所定の確認結果を記録し、寸法不足や割れなど疑義があれば設計側へ戻して判断します。」


まとめ:溶接設計で決めるべき3点

  1. 継手と荷重の流れ——溶込み、材料、荷重方向・変動、施工と検査のアクセスを含めて選ぶ。
  2. 必要な有効断面と施工条件——のど厚・有効長・許容値の根拠をそろえ、板厚や材名だけの一律選定を避ける。
  3. 図面と受入れの条件——適用版に合う記号・寸法と、完成要求、施工要領、確認・合格条件を共有する。

次のステップ: