記号だけでなく、対象と基準まで読む

幾何公差を読むときは、どの要素を、どの基準に対して、どんな範囲に収めるかを一組で確認する。記号と数値だけでは、測る場所や公差域を決められない。

この記事は、主要な記号から図面要求を読み、検査で確認すべき条件へつなぐための入口である。最初に図面の単位、適用する規格と版、注記・共通仕様を確認する。以下はJIS系の基本的な読み方を中心にした例で、ISOやASMEを含むすべての規格・版で同じ扱いになるとは限らない。JIS B 0021:1998の書誌情報も参照し、実務ではその図面に適用される規定を照合する。

サイズ公差だけでは、形状や姿勢を判定できない

サイズ公差は直径などの許される大きさを指定する。単位がmmの図面で直径20±0.05なら、サイズの許容範囲は19.95〜20.05 mmになる。ただし、どのサイズをどう評価するかは図面と適用規定で確かめる。この範囲に入ることだけで、部品全体の合格とはならない。

幾何公差は形状・姿勢・位置・振れを規制する。たとえば同じ「真直度」でも、円筒表面の母線を対象にする場合と、円筒から求める軸線を対象にする場合がある。円筒に付いた真直度をすべて軸の曲がりと読まない。 対象の指示位置と、公差値の前の直径記号も確認する。キーエンスの真直度・形状公差の解説

主要な記号と、読み分ける対象

次の表は主要記号の見分け方であり、全記号・全指示方法を網羅した規格表ではない。線の輪郭度・面の輪郭度などもある。図形は名称と併記し、単円と同心二円、平行四辺形と四角形を区別する。キーエンスの記号一覧

形状公差

以下の4項目は、他の面や軸をデータムにして姿勢・位置を決める要求とは分けて読む。

記号 名称 対象と読み方の要点
真直度 母線などの線、または軸線の真っ直ぐさ。指示位置と直径記号を確認する
平面度 面を挟む二つの平行平面の間隔。記号は平行四辺形
真円度 円形断面を挟む二つの同心円の半径差。記号は単円
円筒度 円筒面全体を挟む二つの同軸円筒面の半径差

姿勢公差

記号 名称 対象と読み方の要点
平行度 データムに対する面・線などの平行な姿勢
直角度 データムに対する面・線などの直角な姿勢
傾斜度 データムに対し、指定した理論的な角度にある姿勢

たとえば面の平行度0.05をmm単位で指定した場合、その面をデータムに平行な二平面の間隔0.05 mmの中へ収める。単なる角度の差でも、データムからの高さ寸法でもない。

位置公差

記号 名称 対象と読み方の要点
位置度 理論的に正しい位置に対する対象の位置。基準寸法、データム等の指示を一緒に読む
同心度・同軸度 データム中心に対する中心、またはデータム軸に対する軸線の位置。記号は同心二円
対称度 データムに対して対称であるべき中心面などの位置。記号は中央が長い平行三線

位置度などは、記号だけからデータムの有無や公差域を決めず、記入枠と図面全体の指示を読む。

振れ公差

記号 名称 対象と読み方の要点
円周振れ データム軸の周りに回転させたときの、各測定円周での指定方向の振れ
全振れ 回転と走査により、指定された面全体で評価する振れ

径方向の円周振れなら、軸に直交する各断面で、データム軸上に中心を持つ二つの同心円の半径差が公差域の幅になる。円筒面の径方向の全振れなら、データム軸と同軸な二つの円筒面の半径差で面全体を規制する。

一方、端面を軸方向に評価する場合は同じ円筒域にはならない。端面の円周振れは各半径位置の円周、端面の全振れは面全体を対象とし、軸方向の変動を評価する。後者の公差域はデータム軸に垂直な二平面で挟まれる。回す対象、測定方向、走査範囲を図面に対応させる。 ミツトヨの幾何公差・検証方法の図解(PDF)

データムは基準、データム形体はその基準を作る実物

データムは、幾何公差を評価するための理論的に正確な平面・軸などの基準である。それを設定するために部品上で指定された実在の面などがデータム形体になる。現物の面にある凹凸と、評価に使う理想的な基準面を同じものとして扱わない。

図面では、三角形を含む指示線と枠で囲まれた文字などによってデータム形体を示す。面を指すのか、サイズ寸法に結び付いて軸線や中心面を基準にするのかは、指示の付く位置まで確かめる。キーエンスのデータム解説

記入枠とデータムの優先順位

公差記入枠は、幾何特性の記号、公差値と必要な付加記号、必要に応じてデータム参照を組み合わせる。たとえば「平行度|0.05|A」を面に指示し、図面の単位をmmとした例では、データムAに平行な二平面の間隔0.05 mmが要求となる。公差記入枠の解説

データムを別々の区画にA、B、Cと並べた場合、その並びは第一・第二・第三データムの優先順位を示す。CMMで点を取る時間順を指定したものではない。先に取った点でも、評価時には指定された優先順位で基準を構成する必要がある。

互いに直交する三つの平面を使う例では、第一の基準で決まる自由度を保ちながら第二、第三で残る自由度を拘束する。ただし、軸や共通データムなど別の構成もあるため、すべての図面を三平面の3-2-1支持へ置き換えない。共通データムとデータム系の解説

包絡要求は、サイズ限界と完全形状の境界を分ける

サイズの指示に付く は丸囲みEで、包絡要求を表す。最大実体寸法での完全形状の境界と、サイズの許容範囲の両方を満たすように読む。最大実体状態は材料が最も多い状態なので、穴は許される最小径、軸は許される最大径が最大実体寸法になる。包絡要求の解説

直径20 H7の穴に包絡要求が付いた例

ここでは、単位mm、ISO 286に基づく20 H7の円筒穴を例とする。寸法許容差は下側0、上側+0.021なので、サイズ限界は20.000〜20.021 mmである。H7の数値はこの呼び寸法についてのもので、他の径へそのまま流用しない。Elesa+Ganterの20 H7の数値例

確認するもの この例での意味
サイズ 適用するサイズ評価の規定に従い、局部サイズを20.000〜20.021 mmに収める
最大実体の完全形状境界 穴の最小径側である直径20.000 mmの完全な円筒境界を、穴の対象長さにわたり材料が侵さない
実際の穴の表面 直径20.021 mmの完全円筒そのものになる必要はない。ただし上の二つを満たす必要がある

たとえば、局部的な直径が範囲内でも、穴が曲がっていて直径20.000 mmの真っ直ぐな完全円筒を収められなければ、包絡要求を満たさない。これは境界を理解するための例で、測定点数や通りゲージの設計・判定手順を定めたものではない。

独立の原則を適用する図面では、特別な関係を指定しないサイズ要求と幾何要求は独立に扱う。包絡要求などの指定がある場合は、その関係も評価する。丸囲みEがないという一点だけで、他の形状要求や共通指示まで存在しないとは判断しない。図面の適用規格・版・個別指定を確かめる。産総研公開の幾何公差基礎資料、独立の例外規定の節(PDF)

最大実体公差方式の丸囲みMを読む

幾何公差値の後ろに付く は丸囲みMで、最大実体公差方式を表す。適用できる対象と指示を確認した上で、サイズが最大実体状態から離れる分を幾何公差へ関係付ける。サイズ公差そのものを外れてよいという意味ではない。

位置度などで組立時の関係を管理するために使われるが、穴と軸の組付け専用ではなく、部品内の形体間の関係にも使える。すべての幾何公差へ自動的に加算できるわけではない。組立機能、対象のサイズと幾何要求、検査方法を確かめて採否を決める。データム参照に付くMなど、別の位置にある付加記号は同じ説明だけで処理しない。キーエンスの最大実体公差方式の説明、産総研公開資料の最大実体公差方式の節

普通幾何公差は、適用の指定を探す

個別の幾何公差が書かれていないからといって、JIS B 0419が自動的に適用されるとは判断しない。図面の注記、表題欄、参照された共通仕様・契約条件から、適用する規格・版・等級と対象範囲を確認する。個別指示との関係も確かめる。

JIS B 0419は個別に指示がない幾何特性を扱う普通幾何公差の規格で、3等級を規定している。ただし、すべての特性や加工法に一律の数値を与える表として使わない。JSAの公開プレビュー、適用範囲(PDF)、ミスミの一般公差の指定方法

設計時は、回転の振れ、基準面への着座、穴同士の位置関係など、機能上必要な要求を先に決める。その要求を共通指示で満たせるか確認し、満たせない箇所には個別に指定する。根拠なく厳しい公差を一律に付けたり、指示がない箇所へ検査側だけで数値を追加したりしない。

図面要求から測定条件へ渡す手順

  1. 適用条件を確かめる。 図面版、単位、規格・版、普通公差や共通仕様を確認する。
  2. 対象と公差域を読む。 記号、指示の付く要素、公差値、直径記号、付加記号を一組で確認する。面の平行度なら二平面、直径指定の軸線真直度なら円筒域、径方向円周振れなら各断面の同心二円、という違いを保つ。
  3. 基準を構成する。 データム形体と参照の優先順位を特定し、支持・固定の方法と、測定データから基準を作る方法を整理する。
  4. 評価範囲と測定方法を決める。 対象面のどこを何点測るか、走査範囲、測定器、評価方法、測定の不確かさを確認する。
  5. 要求と手順を整合させる。 要求の追加・変更は図面または正式に参照する仕様へ反映して合意する。測定点や支持方法等は検査手順へ記録し、要求と矛盾させない。

三点で平面を作れることと、実際の面を十分に測って評価できることは別である。CMMの測定点の位置・個数やデータムの定義は測定結果の不確かさに関係する。任意の面を「三点測れば合格判定できる」と扱わない。ミツトヨのCMMと測定の不確かさの解説

また、面の平行度をダイヤルゲージで評価する場合は、基準の作り方、走査範囲、支持や押付けによる変形などを確かめる。一箇所の読みや、部品を置いたという事実だけで対象面全体の適合を判定しない。キーエンスの平行度測定の解説

社内・外注先へ確認するときの文案例

設計要求を確認する例: 「この面には平行度0.05 mmが必要という理解です。図面と参照仕様で既に要求されているか確認し、未指定なら正式な要求へ追加して承認しましょう。測定方法の補足は検査手順に対応付けます。」

測定条件を相談する例: 「データムAに対する面の平行度を評価します。Aの支持・固定と基準面の構成方法、対象面の測定点・走査範囲を決めましょう。CMMの点を取る順番と、データムの優先順位を分けて確認します。」

次のステップ: