「とりあえずグリースを塗る」では設備が壊れる
ベアリング・ギヤ・チェーンの潤滑が不適切だと、摩耗・発熱・焼き付きが起きる。「グリースを入れておけば大丈夫」という認識で過剰給脂をすると、温度上昇でシール劣化・グリースの酸化劣化を加速させる逆効果になる。
適切な潤滑設計は「何に・何を・どのくらいの量で・どの頻度で」を設計段階で決めることから始まる。
潤滑の目的と効果
潤滑の主な効果:
1. 摩擦低減(動力損失・発熱を減らす)
2. 摩耗防止(金属面同士の直接接触を防ぐ)
3. 冷却(摩擦熱を除去する)
4. 防錆(金属面を油膜で覆う)
5. 異物排出(循環潤滑の場合)
グリースとオイルの使い分け
| 項目 | グリース | オイル(液体潤滑) |
|---|---|---|
| 封入・保持 | 潤滑部に保持しやすい。漏れ・異物侵入を防ぐ構造も必要 | 油を保持・回収する構造やシールが必要 |
| 冷却 | 循環油のように熱を外へ運ぶ用途には向かない | 循環式では油で熱を外へ運べる |
| 交換・補給 | 再給脂する型と、封入済みで再給脂しない型を区分する | 油量・劣化状態とメーカー指定に応じて補充・交換する |
| 回転速度・荷重 | 基油粘度・製品特性と軸受条件を照合する | 必要粘度に加え、油浴・循環などの方式を選ぶ |
| 付帯設備 | 給脂口・排脂経路や自動給脂器など、構造による | 油浴・滴下もあり、すべてに外部タンク・ポンプが必要ではない |
選定の基本:
- ベアリング → 機器・軸受メーカーの指定を起点に、速度・荷重・温度・密封構造から方式と製品を選ぶ。封入済み密封軸受へ一律に定期給脂を追加しない
- 冷却が必要な部位 → オイル循環を検討する。油浴と循環給油では構成が異なる(NSK:油潤滑の方式)
- ローラチェーン → ピンとブシュの接触部へ油を届かせるのが基本。外側へグリースを塗るだけで代用せず、型式・速度に応じた指定油と給油方法を確認する(椿本チエイン:ローラチェーンの潤滑)。特殊な無給油仕様などはその製品の指示に従う
- ギヤボックス → 歯車・軸受の条件とメーカー指定から油種・粘度・供給方法を選ぶ。極圧添加剤入りというだけでは、材質や運転条件への適合は決まらない
グリースの種類と選定
基油と増ちょう剤を分けて読む
グリースは、基油・増ちょう剤・添加剤を組み合わせた製品である。鉱油、PAO、フッ素油、シリコーン油などは基油の分類、リチウム系、ウレア系、PTFEなどは増ちょう剤の分類だ。分類名だけで、使える上限温度や食品・クリーン用途への適合は決められない。
| 確認する項目 | 製品資料と使用条件で照合すること |
|---|---|
| 基油 | 運転温度で必要な粘度、接触するシール・樹脂などとの適合 |
| 増ちょう剤・添加剤を含む完成品 | 使用温度範囲、離油性、耐水性・防錆性、荷重条件に対する性能 |
| 食品機械 | 食品と接触する可能性、必要な登録・認証と対象製品の範囲 |
| クリーン環境 | 要求清浄度に対する発塵・揮発・アウトガス、洗浄や滅菌条件 |
使用温度範囲の表示内でも、軸受が必要とする粘度や油の供給を満たすかを確認する(SKF:グリース選定、印刷95頁)。食品用途では、たとえばNSF H1の対象は偶発的な食品接触であり、フッ素系すべてが登録品という意味ではない(Chemours:製品グレードと食品用途)。クリーン用途も、潤滑剤と部品・環境の組合せで評価する(Chemours:クリーンルーム用途の選定条件)。
稠度(硬さ)の選定
グリースの硬さはNLGI番号で表す。数字が大きいほど硬い。番号は 000・00・0〜6 の9段階で、000 と 00 は 0 より軟らかい(流動〜半流動に近い)。配管の長いセントラル潤滑で 0 でも押し切れないときに出てくる領域なので、落とさないこと。
| NLGI番号 | 硬さ | よく使われる先 |
|---|---|---|
| 000・00 | 流動〜半流動 | 配管の長いセントラル潤滑・一部のギヤケース |
| 0〜1 | 軟らかい側 | 自動給脂システム・ギヤ |
| 2 | 標準的な硬さ | ベアリング一般(最も多い) |
| 3 | やや硬い | 垂直軸・飛散防止が必要 |
⚠️ この表は「どれを調べるか」の入口で、選定表ではない。 実際に使える番号は採用する製品の仕様と、その装置の給脂方式・配管条件で決まります。メーカーの製品資料で確認してください。
給脂量と給脂周期の決め方
ベアリングへの補給量
過剰給脂は温度上昇の原因になるため、初期封入と運転中の補給を区別する。次は、軸受の側面から補給する場合の質量を求めるSKFの式である。すべての軸受・補給方式の共通値ではなく、対象の指示へ適用できることを先に確認する(SKF:Replenishment、印刷100頁)。
補給グリース質量 Gp(g)= 0.005 × D × B
D:ベアリング外径(mm)
B:ベアリング全幅(mm)
0.005:上記の寸法単位で、補給質量をgとして得る係数
例:この側面補給式を使う条件で、外径80mm・全幅20mmと仮定
Gp = 0.005 × 80 × 20 = 8 g
8gを8cm³と読み替えない。 体積で計量するなら採用品の密度ρ(g/cm³)を使い、体積V(cm³)= 質量G(g)÷ρ と換算する。手動グリースガンなら、採用品を容器へ吐出して質量を量り、1ストローク当たりの量を確認しておく。給脂経路が未充填の場合などは配管へ入る量と軸受への補給量も分け、実際に給脂点へ届くことを確認する。
初期封入量
軸受内部と、ハウジング内で軸・軸受などを除いた自由空間は別の対象である。初期封入量は構造・回転速度・排脂経路に応じたメーカー指示で決める。すべての空間を一律に1/3〜1/2としたり、満杯を一律に禁止したりしない。 NSKの説明も、軸受内部とハウジング自由空間を分け、後者の充填割合を速度条件で区分している。
給脂周期の決め方
給脂周期は、軸受・グリースと使用条件に対応するメーカーの図表・計算手順から設定する。内径と回転数だけで一律の時間に置き換えず、次の順で根拠を残す。
- 対象を特定する。 軸受型式・寸法、採用グリース、再給脂できる構造かを確認する。密封封入型のグリース寿命と、再給脂型の補給間隔は同じ扱いにしない
- 計算の条件をそろえる。 回転数・荷重・軸受温度・取付姿勢・水や粉じんの侵入条件などを、採用する図表の前提と比較する
- 基準値と補正を記録する。 資料名・版・該当箇所、入力条件、補正後の周期と1回量を残す。温度上昇や汚染への補正は、その手順で定められた範囲を使う
- 運転状態で見直す。 温度・振動・異音・潤滑剤の状態や供給実績を確認し、機器・潤滑剤メーカーの指示と照らして量・周期を見直す
たとえばNSKの給脂周期の説明では、軸受種類や速度・寸法に加え、温度や荷重の条件を扱う。食品機械や清潔な環境という理由だけで、任意の係数を置いて周期を延ばさない。採用品番、量・単位、計量方法、周期の根拠と変更履歴を既存の保全記録へまとめると、担当が交代しても計画を再現しやすい。
自動給脂システムの設計
手動給脂の管理が難しい場合や、アクセスが困難な場所は自動給脂システムを検討する。
種類
| 供給構成 | 特徴 | 確認すること |
|---|---|---|
| 単点式自動給脂器 | 1つの給脂点へ供給。電動・ばね式などがある | 採用潤滑剤、必要量、供給圧力、配管長・温度条件 |
| 集中給脂(セントラル潤滑) | ポンプと配管・分配器で複数点へ供給 | 各点の必要量と、分配・到達を確認できる構成 |
タイマーによる時間制御などは、上の供給構成とは別の選択軸である。集中給脂と時間制御は併用できる(SKF:集中潤滑の構成と制御例)。方式名だけで量や周期を決めず、給脂点ごとの計画に合わせて設定する。
設計のポイント:
- 配管径は粘度・距離・吐出量に合わせて選定
- 低温では「潤滑として合うか」と「配管を押し通せるか」を別々に確認する。 低温用の基油を選んでも、ちょう度が高ければ圧送できない。逆に軟らかくして圧送できても、油膜が持たなければ潤滑にならない。片方だけでは足りない
- ヒーターを使うか、何℃まで温めてよいかは、グリースの製品条件に従う(加熱で分離・劣化するものがある)
- 吐出量は「元で出たか」ではなく「給脂点に計画量が届いたか」で確認する。 途中の漏れ・詰まり・分配弁の不調は、元側の吐出量では見えない
よくある失敗
失敗1:過剰給脂
「多く入れれば安心」と給脂しすぎる。グリースが詰まり、ベアリング内部でかき回されて発熱・劣化が加速する。
確認: なじみ中はグリースのかくはんで温度が上がり、分散後に下がる場合があるが、「数分後に下がれば正常」とは判定しない。測定位置・負荷・速度をそろえ、機器の許容温度と推移、異音・振動、シールや排脂経路を確認する(SKF:試運転と温度確認、印刷49頁)。
失敗2:異種グリースの混用
異なるグリースを混ぜると、軟化・硬化などで物性や性能が悪化する組合せがある。互換性には基油・増ちょう剤・添加剤が関わるため、「リチウムとカルシウムだから危険」「同じ系統だから混ぜてよい」とは判断しない。
対策: 給脂点ごとに指定製品を管理し、混用を避ける。変更時は両製品のメーカー・供給者へ互換性と移行手順を確認する。旧剤の排出・洗浄を含め、装置で実行できる方法を決めてから切り替える(NSK:グリースの互換性と変更手順)。
失敗3:高温部に汎用グリースを使う
温度が上がるほどグリースは酸化が進み、寿命が短くなる。ただし「何℃を超えたら使えない」という一律の線は無い。 使用温度の上限は基油・増ちょう剤・添加剤などの配合で変わり、同じ「リチウム」でも製品ごとに違う。分類名だけで選ばず、採用するグリースのメーカー仕様(使用温度範囲・許容回転数・給脂周期)で必ず確認すること。
対策: 設計段階で運転温度を見積もり、候補製品の適用条件と照合する。耐熱性だけで選ばず、必要粘度・軸受条件・シール適合・給脂方法まで確認する。
社内で説明するときの言い方
上司・設計者に対して: 「仮に運転温度が130℃で、採用品のメーカー仕様上限が120℃なら、使用条件を満たしません。候補製品の温度・粘度・軸受への適合と変更手順を確認し、その製品と運転条件に対応する根拠で給脂量・周期を設定します。」
現場・保全担当に対して: 「この例では、側面からの補給式を使えることを確認して1回8gと計算しています。指定グリースを使い、質量で量るか、事前に確認した1ストローク当たりの量から回数を決めてください。初期封入や別の軸受には、そのまま転用しません。」
まとめ:潤滑設計の3ポイント
- 用途と環境に合ったグリースを選ぶ——温度・水・速度が選定基準
- 給脂量は適正量を守る——多すぎると逆効果
- 給脂周期を根拠とともに計画化する——メーカーの適用条件と運転状態から量・周期を決める
次のステップ:
- ベアリング寿命計算 — 給脂設計と寿命計算を組み合わせる
- 設備保全計画の立て方 — 給脂計画を保全計画に組み込む
- 防振・制振設計の基礎 — 潤滑不足による振動への対策