樹脂部品の設計は「成形の制約」から考える
機械設計者が樹脂部品を設計するとき、金属部品と同じ感覚でCAD形状を作ると「抜き勾配がない」「肉厚が均一でない」「アンダーカットが入っている」と外注先から設計変更を求められることがある。
この記事では、主に熱可塑性樹脂の射出成形を扱う。材料グレードと成形プロセスの制約を理解した上で形状を決める。
射出成形の基本プロセス
① 溶融樹脂を金型に射出・充填する
② 必要な保圧を行い、金型内で冷却・固化させる
③ 金型を開き、突き出しピンなどで取り出す
④ ゲート方式に応じてランナー・ゲート跡などを処理する
取り出しやすさに加え、樹脂の流れ・冷却・収縮が形状や寸法に影響する。ゲートの切り離し方も金型構造によって異なる。
設計の基本ルール
抜き勾配(テーパー)
型から部品を取り出しやすくするため、型抜き方向の側面に勾配(テーパー)を設ける。必要角度は材料・深さ・表面の模様・突き出し方法などで変わる。
抜き勾配を決める確認順序:
型抜き方向と、勾配を付ける面を決める
材料グレード・深さ・表面仕様を指定する
成形先の設計基準で角度と離型方法を確認する
寸法・外観への影響を図面と成形品で確認する
Protolabsの抜き勾配の解説では、一般的な目安を1〜2°、同社のシボ仕様PM-T1を3°以上、PM-T2を5°以上としている。これは同社の仕様・成形条件を前提にした面の勾配の目安で、シボ深さだけから追加角度を計算する共通式ではない。
0°でも製作できる場合はあるが、勾配不足は傷や変形などの離型リスクを高める。同社の製造性評価の説明でも、無勾配のリスクは製作不能と区別されている。
肉厚の均一化
肉厚が局所的に厚い部分は冷却・収縮が周囲と異なり、ヒケ(凹み)や内部の空洞につながる場合がある。一方、薄くすれば流れや必要強度を満たせなくなることもある。
肉厚を決める条件:
材料グレード・充填材・流動性
ゲートからの流動距離と成形条件
必要な剛性・強度・外観・寸法
局所的な厚肉を確認する場所:
肉厚が急変する箇所・リブとの接続部・ボスの根元
ヒケ対策: 厚肉の塊を避け、必要な補強をリブなどで確保する。Protolabsのリブ設計の解説はリブ厚を基準肉厚の60%以下とする目安を示すが、この比率だけで成形性や強度を保証できるわけではない。根元Rや周囲との接続を含め、対象材料と成形条件で確認する。
確認が必要:厚いリブやボスの接続部に肉が集中する
検討する案:肉抜き・リブ配置・断面を調整する
確認する結果:ヒケ、充填状態、強度、寸法、外観
アンダーカット
型を開いて取り出す方向に引っかかる形状がアンダーカットだ。単純な型開きだけでは取り出せない形状では、分割位置や形状を変えるか、追加の離型手段を検討する。
よくあるアンダーカット:
- 横穴(型開き方向と直交する穴)
- フック形状
- ねじ形状(通常はアンダーカット。特殊対応が必要)
対策: 横穴は分割ラインで表裏から抜けるようにする案を検討する。条件に応じて、スライドコア、型の合わせ面を使うシャットオフ、部品と一緒に取り出して外す入れ子(pickout)などもある。Protolabsの複雑形状の解説を参考に、形状・材料・生産量と作業負担を成形先と確認する。追加費用は採用する構造の見積りで比較する。
リブ・ボスの設計
リブ(補強)とボス(ねじボス・ピン受け)は、成形性と使用時の荷重を合わせて設計する。過度な肉厚や締付けによって、ヒケ・割れなどが生じる場合がある。
リブの設計:
肉厚・高さ・勾配を、充填性と補強効果から決める
根元Rは応力集中を緩和しつつ厚肉化を避ける
ボスの設計:
下穴径・外径・ねじ込み深さを、採用ねじの推奨条件で決める
材料・充填材・必要な締結力・使用温度を確認する
締付け時の割れと使用中の緩み・変形を部品で評価する
Protolabsのボス設計は厚肉化を避ける補強を説明している。EJOTの樹脂用ねじの解説では、ねじ形状がボスへの負荷や引抜き性能に関わることが示されている。下穴径をすべてのねじで同じ比率にしない。東レのPPS樹脂の締結資料も、締付け条件や温度変化で割れ・緩みが起こる例を示すため、寸法比だけで保持性能を判断しない。
代表的な樹脂材料の選定
以下は候補を絞るための特徴と用途例で、個別部品の適合を保証する表ではない。同じ材料名でもグレード・充填材・成形条件で性質が変わる。配管など、射出成形以外の製法を使う用途も含む。
汎用樹脂
| 材料 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| PP(ポリプロピレン) | 軽量・耐薬品性。低温時の衝撃特性はグレード確認 | カバー・容器・クリップ |
| ABS | 剛性・寸法安定性・外観を検討する材料 | 外観部品・ハウジング |
| PE(ポリエチレン) | 種類で柔軟性・強度・成形収縮が異なる | 容器など。密度区分と製法を確認 |
| PVC(塩ビ) | 配合・用途に応じたグレードを選ぶ | 配管・建材・電気機器など |
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)
| 材料 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| PA(ナイロン) | 強度・耐摩耗を検討。吸水による物性・寸法変化に注意 | ギヤ・軸受け・コネクター |
| POM(ポリアセタール) | 寸法精度・摩擦低い・疲労強度 | ギヤ・スライダー・精密部品 |
| PC(ポリカーボネート) | 透明性・耐衝撃性を検討。薬品との適合も確認 | カバー・窓・コネクター |
| PBT | 電気絶縁・耐薬品・耐熱 | コネクター・センサーハウジング |
材料比較はProtolabsの製法・材料ガイド、PVCの用途は信越化学の製品案内を参照できる。PCを防護窓に使う場合も、材料名だけで防護性能を決めず、厚さ・支持方法・衝撃条件・経年変化などを含む実構成で評価する。
スーパーエンプラ(高耐熱・高強度)
| 材料 | 熱に関する確認点 | 特徴 | 用途例 |
|---|---|---|---|
| PPS | 強化材・成形状態による熱変形と長期特性 | 耐薬品性・電気特性など | 電装部品・ポンプ部品 |
| PEEK | 荷重・時間・環境を含めたグレード別特性 | 高温下の機械特性や耐薬品性を検討 | 航空・医療・半導体関連部品 |
| PI(ポリイミド) | 材料系・グレードと成形法の適合 | 耐熱性・摺動特性などを検討 | 高温部品 |
「耐熱温度」は一つの値にまとめない。融点、荷重を加えたときの熱変形温度、長期使用での物性保持は異なる指標だ。東レのPPS熱変形温度資料も、荷重条件と強化・非強化グレードによる差を示している。必要な使用温度・荷重・時間と許容変形などを決め、該当グレードのデータで確認する。
PIも名称だけで射出成形可能とは判断しない。三井化学のAURUMは射出成形に対応する熱可塑性PIの例で、すべてのPIの加工条件や性能を表すものではない。
候補を絞る目安(グレードと使用条件の評価が前提):
- 外観・コスト重視 → PP・ABS
- 摺動・精度部品 → POM・PA
- 透明・衝撃 → PC
- 高温・耐薬品 → PPS・PEEK
ゲート位置と影響
ゲートは溶融樹脂が金型に流入する入口。位置・数・方式が流れと外観・強度に関わる。
ウェルドラインとは: 樹脂の流れが合流する部分にできる境界。Protolabsの解説では、見え方や強度への影響が材料・充填材・温度・充填条件などで異なると説明されている。必ず目に見える線や同じ強度低下が生じるとは限らない。
ゲート位置の設計ポイント:
- ウェルドラインが強度が必要な部位・外観面に来ないようにゲートを配置する
- 薄肉部・複雑形状では充填性を確認し、必要に応じて複数ゲートも比較する。合流部が増える影響や費用も確認する
- ゲート方式ごとの特徴を踏まえ、重要面・必要強度部・ゲート跡・突き出し位置を成形先と確認する
よくある失敗
失敗1:金属部品の設計をそのまま樹脂に転用
直角コーナー・均一でない肉厚・アンダーカット——金属部品で採用した形状でも、樹脂の成形・離型条件に合わなければ不良の要因になる。
対策: 材料が樹脂と決まったら設計を樹脂用に見直す。特にコーナーRと肉厚の均一化を優先する。
失敗2:吸水による寸法変化を無視
PA(ナイロン)は吸水で寸法や物性が変化する。東レのアミラン資料では、PAの種類・温湿度・形状・成形履歴などで吸水状態が変わることが示されている。質量に対する吸水率と寸法変化率を同じ数値として扱わない。
対策: POM・PBTなども比較し、必要精度と他の機能を満たすグレードを選ぶ。PAを使う場合は調湿状態を明確にし、検査時と使用時の温湿度・吸湿状態に対する寸法変化を確認する。標準状態の寸法だけで、すべての使用環境を保証しない。
失敗3:後加工を考慮しない
タップ加工・圧入・塗装を後工程で行う場合、成形後の残留応力・ウェルドラインの位置に加え、加工・圧入の負荷や薬品との適合が割れに関わる場合がある。
対策: 圧入部位はウェルドラインを避ける案を検討し、圧入代・保持力・割れを実部品で確認する。必要に応じてアニール(熱処理)による残留応力の低減を検討する。Ensingerの射出成形品の後処理の説明も参考に、材料メーカーと対象グレード・形状に合う条件を決め、処理後の寸法・物性を確認する。万能な温度・時間を設定せず、応力が完全になくなるとも考えない。
社内で説明するときの言い方
以下は仮定の部品・見積りを使った説明例で、費用相場や全材料への寸法推奨ではない。
上司・設計者に対して: 「この横穴に対応するスライドコア案では、今回の仮見積りは金型費が50万円増えます。分割位置や形状の変更案と、機能・作業・費用を比較します。」
外注先・金型メーカーに対して: 「基準肉厚2.0mm、リブ1.2mm(基準の60%)を検討案にしています。指定材料と必要強度を満たし、ヒケを抑えられるか確認してください。ゲートはこの面の裏側を候補に、正面の外観と強度が必要な箇所への合流の影響を確認したいです。」
採用した材種・グレード、形状、ゲート位置と外観・寸法・強度の確認方法を、合意した図面版へ対応させる。
まとめ:樹脂部品設計の3チェックポイント
- 抜き勾配を条件付きで決める——材料・深さ・表面仕様と離型方法を確認
- 肉厚と補強を一緒に設計する——流れ・ヒケ・強度・寸法を対象部品で確認
- アンダーカットの離型方法を比較する——形状変更と追加機構・作業・費用を検討
次のステップ:
- 材料選定の基礎 — 金属と樹脂の使い分けへ
- 切削加工の設計ルール — 樹脂の切削加工と成形品の使い分けへ