ボールねじの選定は「ねじ径とリードを決めれば終わり」ではない。荷重・速度・精度・寿命を確認し、支持構造や取付・潤滑まで条件をそろえる必要がある。確認不足は、共振、位置決め誤差、早期損傷などにつながり得る。本記事では選定の主要な手順と計算例を整理する。数値例は説明用の仮定であり、特定型式や設備の適合を保証するものではない。
ボールねじの基本構造と特徴——すべりねじとの違い
ボールねじは、ねじ軸とナットの間にボールを介在させることで転がり接触を実現した送りねじである。すべりねじ(台形ねじ)と比較したときの主な違いは以下の3点だ。
効率:転がり接触を用いるボールねじは、すべりねじより小さな駆動トルクで推力を得やすい。ただし効率はリード角、摩擦、潤滑などの条件で変わる。選定には採用する製品の効率と予圧トルクを用いる。
バックドライブ性:軸方向の力が回転へ変換される逆駆動が起こり得る。たとえば、ナットの回転を案内機構で拘束し、ねじ軸の軸方向移動を軸受で拘束した構成では、荷重に押されたナットの直動に伴ってねじ軸が回る。回転する側は機構の拘束条件によって異なる。垂直軸では、電源遮断時や駆動伝達部の故障時を含めて落下を防ぐ対策が必要になる。ブレーキ付きモータという名称だけで保持を保証せず、保持荷重・保持位置・故障条件に合わせて機械的支持などを検討する。保持用ブレーキと運動を止める制動用ブレーキの用途も区別する(THK 取扱い上の注意、オリエンタルモーター 電磁ブレーキ)。
寿命:転動面には疲労による損傷が生じる。潤滑だけで走行距離は決まらず、荷重・予圧・取付状態なども影響するため、後述の寿命計算と使用条件の確認を組み合わせる。
基本寸法の定義を整理しておく。「ねじ径」はねじ軸の呼び径、「リード」はねじ軸とナットが相対的に1回転したときの軸方向移動量である。リード角βは、ボール中心径dpとリードPhを同じ長さ単位で表すと tanβ=Ph÷(π×dp) で求める。右辺は角度そのものではない。呼び径、谷径、ボール中心径は用途が異なるので、製品寸法表で区別する(THK ボールねじの構造・リード角・推力)。
ねじ軸回転・ナット直動の例
リードの選定——速度・分解能・推力のトレードオフ
リードは「1回転で何mm動かすか」を決めるパラメータであり、速度・分解能・推力の3つが連動して変わる。
速度:移動速度 V(mm/s)=リード L(mm/rev)×ねじ軸回転数 n(rpm)÷60。直結でモータとねじ軸の回転数が等しい場合、リード10mm・3000rpmなら V=10×3000÷60=500mm/s。リード20mmでは計算上1000mm/sとなる。減速機やベルト伝達があれば回転数を換算し、実際の上限は危険速度・DN値・型式の許容回転数や駆動能力で確認する。
推力:軸方向推力 F(N)=ねじ軸に作用するトルク T(N·m)×2π÷リード(m)×正効率η。同じTとηならリードを2倍にすると推力は半分になる。この関係だけでモータを決めず、予圧・支持部の抵抗、加減速に必要なトルク、伝達比・伝達損失も含めて検討する(THK 回転トルクの検討)。
分解能:直結で電子ギヤなどの換算を省いた場合、エンコーダ1カウントに対応する理論移動量はリード÷1回転のカウント数となる。リード5mm・131072カウント/revなら約0.038μm/count。ただし、これは位置決め精度の保証値ではない。リード誤差、軸方向すきま、弾性変形、熱変位、制御・測定方式を含めて要求精度と照合する(THK 位置決め精度の検討)。
大リード・小リードの得失を比べ、要求を同時に満たせる組合せを探す。リードだけで成立しなければ、モータ・伝達比・支持構造や運動条件も戻って検討する。
プロセス設計の観点からリードを決める考え方については自動化設計をプロセス状態から考えるも参考にしてほしい。選定計算にはTHK Tech-Supportなどのメーカー資料・ツールを利用する。
軸径の選定——座屈荷重と危険速度の確認
リードが決まったら軸径を仮選定する。座屈と危険速度を満たす径を出発点に、軸の許容引張・圧縮荷重、端末強度、ナットの静的容量、支持部・取付部の強度と剛性、寿命も確認する。最小径を求めただけでは選定完了にならない(THK 許容軸方向荷重、静的安全係数)。
座屈荷重
理想的な細長い弾性部材のオイラー座屈荷重は次式で与えられる。実際の支持剛性や荷重位置に合うモデルかを確認して使う。
Pk = (π² × E × I) / (λ × L)²
E:縦弾性係数(鋼の計算例では 2.06×10⁵ N/mm²)、I:断面二次モーメント(=π×d⁴/64)、d:ねじ谷径(mm)、L:圧縮荷重を受ける区間の長さ(mm)、λ:座屈の有効長係数。ナット位置によって圧縮区間が変わる構成では、ストローク中の不利な条件も確認する。
以下は理想支持を仮定した有効長係数の例で、固定-支持の0.7は近似値である。
| 支持方式 | λ(有効長係数) |
|---|---|
| 固定-固定 | 0.5 |
| 固定-支持 | 約0.7 |
| 固定-自由 | 2.0 |
数値例:呼び径32mm(谷径 d=28mm)、圧縮区間 L=800mm、固定-支持(λ=0.7)を仮定する。I=π×28⁴/64≒30,172 mm⁴。Pk=(9.87×2.06×10⁵×30,172)÷(0.7×800)²≒196,000N≒196kN。軸方向最大圧縮荷重50kNとの比は約3.9となる。これは理論座屈荷重との比であり、この値だけで安全性や型式の適合を判定しない。
メーカーの許容荷重式には低減係数を含むものがある。たとえばTHKの座屈による許容荷重式は安全を考慮した係数0.5を含むため、上の理論Pkとは区別する。必要な余裕は荷重変動・衝撃と製品条件に合わせ、軸の降伏やナットの静的容量についてもそれぞれの基準で確認する。
危険速度
回転軸の曲げ固有振動数に対応する回転数に近づくと、共振が問題になる。理論危険速度 Nc(rpm)の関係式は次の通りである。
Nc = (60 / 2π) × (μ² / Lc²) × √(E × I / (ρ × A))
ρ:密度、A:谷径で求める断面積(mm²)、Lc:危険速度計算に用いる支持間距離(mm)、μ:支持条件に応じた曲げ振動の固有値。座屈の有効長係数λとは別の値であり、固定-支持のTHK掲載値はμ=3.927となる。使用する距離の端点もメーカーの支持図と照合する。
単位をそろえないと桁を間違える。 E を N/mm²、I を mm⁴、A を mm² で入れるなら、密度も力の単位系にそろえて ρ=7.85×10⁻⁹ N·s²/mm⁴(鋼)を使う。7.85×10⁻⁶ kg/mm³ のまま代入すると、1 N=10³ kg·mm/s² の換算が抜けて、答えが約31.6倍(√1000倍)ずれる。
実務ではTHK 許容回転数など、採用メーカーの式・係数表で照合する。THKの危険速度に基づく許容回転数には0.8の低減が既に含まれる。理論Ncと許容値を混同し、0.8を重ねて掛けない。
さらに、ボール循環などで決まるDN値からの許容回転数と比較し、厳しい方を使う。THKで用いるDはボール中心径であり、呼び径をそのまま代入しない。DN値や最高回転数は型式で異なるので、個別製品の上限も確認する。
関連規格はJIS B 1192シリーズで、第3部:精度測定方法、第5部:静定格荷重,動定格荷重及び寿命などに分かれる。ここでの計算説明は公開メーカー資料に基づくもので、規格本文の許容値を転載したものではない。
寿命計算——動定格荷重とL10寿命
L10寿命(定格寿命)は、同条件で使う同一ボールねじの集団の90%が、転動面・ボールの疲労によるフレーキングを生じずに達する総回転数として扱う。個々の製品の交換期限や、異物・潤滑不良などによる全故障の発生時期を保証する値ではない。
基本動定格荷重Caは、定格寿命が10⁶回転となる一定の軸方向荷重を基準に定義される。L10そのものが常に10⁶回転という意味ではない。 距離へ換算するときは計算した回転数にリードを掛ける。なお、THKのリニアガイドではボール式の50kmとローラー式の100kmなど、基本動定格荷重の定義距離を区別している。ねじとガイド、または異なる定義の定格荷重を混ぜて計算しない(THK ボールねじの寿命、LMガイドの定格寿命)。
THKの公開式に沿い、一定荷重での基本式と荷重係数を用いる修正式を分ける。
L10(回転) = (Ca / F)³ × 10⁶
L10m(回転) = (Ca / (fw × F))³ × 10⁶
走行距離(km)= 回転数 × リード(mm/rev)/ 10⁶
Ca:基本動定格荷重(N)、F:軸方向荷重(N)、fw:振動・衝撃などの使用条件に対応する荷重係数、L10m:修正定格寿命。良好な潤滑・適切な取付を前提とし、メーカーや製品が指定する追加条件も確認する。変動荷重では単純な時間平均を代入せず、負荷と走行量から平均荷重を求めるメーカー手順を使う。予圧品の内部分担荷重も含め、採用型式に合う計算法へ接続する。
数値例:説明用に、Ca=24,000N、呼び径32mm×リード10mm、一定のF=6,000N、fw=1.2を仮定し、予圧による内部荷重の追加は含めない。 L10m=(24,000÷(1.2×6,000))³×10⁶≒37×10⁶回転。 走行距離=37×10⁶ × 10mm = 370×10⁶ mm = 約370km。
走行時間への換算では、1サイクルの総走行距離を往復800mm、サイクル時間を1秒と仮定する。時間当たりの走行距離は800mm/s(=0.8m/s)。 370,000m ÷ 0.8m/s ÷ 3,600 ≒ 128時間。1日8時間このサイクルを継続すれば約16稼働日分となる。
これは前節の3000rpmの速度例とは別条件である。リード10mmでは平均の絶対回転数が4800rpmに相当し、停止や加減速を含めるとピーク回転数はさらに高くなる。実際に成立する速度線図・荷重変動・許容回転数を先に確認し、fw=1.2も仮定のまま採用せず使用条件から決め直す。設計目標を1年=250稼働日、1日8時間と置くなら、この例は目標に届かない。
寿命不足なら、基本動定格荷重の大きい型式、負荷・運動条件、必要剛性を満たす予圧の見直しなどを比較し、再計算する。径を1サイズ上げれば必ず足りるわけではない。予圧低下で変わるのは内部接触荷重であり、外部から加わるラジアル荷重の低減とは区別する。予防保全の考え方については予知保全の基礎も参照してほしい。
バックラッシュとpreload(予圧)の設計
バックラッシュの影響
バックラッシュは、反転時に軸方向すきまなどが位置誤差へ影響する要因になる。たとえば0.1mmのすきまがあっても、常に「目的位置の0.1mm手前で止まる」とは限らない。負荷方向、制御・測定方式、補正条件で現れ方が変わるため、両方向からの位置決めを所定の負荷・温度で確認する。
予圧の種類
ダブルナット予圧:2つのナットを用い、スペーサーなどで相対位置を調整して予圧を与える方式がある。
オーバーサイズボール予圧:大きめのボールを用いて予圧を与える方式。方式の選択は、必要剛性・トルク・発熱・寸法などと製品仕様を合わせて行う。これら以外にも方式があり、使用者が自由に分解・調整できるという意味ではない(黒田精工 ボールねじの予圧)。
予圧量と寿命のトレードオフ
予圧は軸方向すきまや剛性に関わる一方、内部接触荷重、トルク、発熱、寿命にも影響する。Caの一定割合以下なら寿命への影響を一律に無視できるとはせず、予圧方式・予圧量・外部負荷に合うメーカーの寿命計算法を用いる。ねじ軸の支持方式だけからナット予圧の有無も決められない。
システム全体の剛性には、ねじ軸・ナットだけでなく支持軸受やブラケットも関わる(THK 剛性の検討)。リニアガイドとの組み合わせ設計についてはリニアガイドの選定と設計も参考になる。
取り付け精度とアライメント
ボールねじ単体の選定が正しくても、取り付け精度が不十分だと本来の性能を発揮できない。確認すべき項目は主に3つだ。
ナット取付面の形状と姿勢:平面度は面自体の形状を評価する。軸や取付基準に対する傾きは、直角度・平行度などの姿勢の管理と区別する。基準、測定範囲、取付状態と許容値を図面・メーカー仕様で定め、一つの平面度の数値だけで芯出しを済ませない(キーエンス 姿勢公差)。
軸受サポートの芯出し:軸受・ナット・案内面の位置関係がずれると、不要な荷重や作動抵抗につながる。メーカーの組立手順に従い、基準側から位置を合わせて作動と振れ・軸方向すきまを確認する。振れの許容値は型式・等級・測定位置・支持締結状態と一緒に決める(THK 取付手順)。
カップリングのミスアライメント:偏心・偏角・軸間距離を、採用カップリングの指定条件と照合する。芯出し測定は電源や残留エネルギーを管理し、垂直荷重を支持するなど安全を確保した手順で行う。運転中の回転部へゲージや手を近づける作業にしない。試運転はガード等を復旧してから、所定の点検条件で実施する(HSE 保全時の安全確保)。
幾何公差の規格情報はJIS B 0021(JSA Web Store)を参照。設備構造設計の全体像については設備構造設計の基礎で解説している。
保全計画——グリース管理と異常兆候の見方
適切な潤滑と点検条件を、設備の運転・保全計画に組み込む。
グリース管理
補給間隔:THKの一般的な案内には走行距離100km(3〜6か月)という目安があるが、最終的な間隔と量は使用条件・実機状態で設定する。全メーカー・全型式の共通周期ではなく、潤滑仕様や環境、走行条件に応じて見直す(THK 潤滑の注意)。
給脂量:THKはナット内の空間容積の約1/3を一般的な目安とし、型式ごとの量の確認を案内している。ナット外形の容積の1/3や、毎回その量を追加する指示ではない。初期充填・補給・交換のどの量かを区別し、既存の充填状態と給排脂方法をメーカーへ確認する(THK 潤滑方法・潤滑量)。
グリース種類:採用型式の指定潤滑剤を起点に、銘柄の基油・ちょう度・使用温度・速度・負荷との適合を確認する。NSKの潤滑剤資料にも用途と物性の異なる製品が示されている。低温用途を増ちょう剤の名前だけで決めたり、食品用途の適合を外観の色で判断したりしない。食品機械では接触条件と用途に必要な適合を製品資料で確認する。異種油脂は混ぜず、銘柄変更時の洗浄・交換方法もメーカーへ確認する。
異常兆候の見方
次の変化は調査の手掛かりになるが、単独では原因や残寿命を確定できない。許容基準・警戒基準と超過時の処置は、要求精度、製品仕様、初期記録から設備ごとに定める。
- 異音:同じ速度・負荷条件での音の変化を記録し、潤滑状態、異物、取付状態、内部損傷などを調べる。
- バックラッシュ増大:負荷方向・測定位置・温度などをそろえて初期値と比較する。位置決め精度への影響と製品の管理基準から、調整・調査・交換の要否を判断する。
- 温度上昇:速度・負荷・周囲温度・測定位置を記録し、従来の傾向や製品の使用条件から外れていないかを見る。温度だけで潤滑不足や予圧過大を断定しない。
危険な振動・異音などを認めた場合は運転を継続せず、設備の停止・隔離手順に従って確認する。設備異常の兆候管理を体系的に行う方法については作業標準の作り方でも取り上げている。
以上がボールねじ選定の主要ステップだ。「リード→軸径(座屈・危険速度)→寿命→予圧・バックラッシュ→取付精度→保全計画」を一巡させ、成立しない条件は前段へ戻って検討する。計算結果だけでなく、荷重・速度線図、支持図、型式と資料の版、要求精度・寿命、未確認条件を残して設備設計レビューへ渡す。メーカーの選定計算を使う場合も、入力条件と適用範囲を確認してから結果を採用する。