板金設計は「加工の制約」を知らないと使い物にならない
カバー・ブラケット・制御盤の筐体など、板金部品は設備設計で頻繁に登場する。しかし「展開して折り曲げるだけ」と思っていると、曲げが割れる・寸法が出ない・加工できないと言われるトラブルが起きる。
板金設計で守るべき制約を理解しておけば、加工しやすく・コストが低い設計ができる。
曲げ加工の設計ルール
最小曲げ半径
板材を小さな内側半径で曲げると、外側の伸びが大きくなり、割れの原因になります。ただし、最小内Rは板厚だけでは決まりません。材種・調質・板厚、圧延方向、曲げ角度、パンチ・ダイと曲げ方式を加工先へ伝え、対応する材料データと加工条件で決めます。
ここでいう方向は曲げ線(曲げ軸)と圧延方向の関係です。たとえばSSABのStrenx曲げガイドは、可能なら両者を直交させることを勧めています。ただし、同製品の条件を全ての鋼板・ステンレス・アルミの半径値へ転用はできません。「Rを板厚以上にしたから加工できる」とは判断しないでください。
最小フランジ長さと曲げの逃げ
短いフランジはプレスブレーキのダイで十分に支えられず、通常の工具構成では曲げにくくなります。最小長さは材種・板厚・内Rやダイ開口などで変わります。曲げ線からの距離か、完成形状の外寸かも図面でそろえます。Protolabsの加工ガイドも、同社の工具条件に応じてフランジ長と曲げ近傍の距離を分けて示しています。
また、曲げの終端や隣り合う曲げには、裂けや干渉を避けるための逃げが必要になる場合があります。逃げの形状・幅・深さは完成形状と工具の条件で確認します。
穴と曲げ線の距離
穴が曲げ部に近いと変形するため、穴の縁と曲げ部の必要な離隔を確認します。「曲げ線」が展開図の中心線、曲げ開始の接線、完成形状の角のどれを指すかで距離は変わります。
中心距離への換算は、同じ基準線までの穴縁距離を用いて行います。
D = d/2 + e
D:図面で指定した基準線から穴中心までの垂直距離
d:穴径
e:同じ基準線から近い側の穴縁までの距離
説明用に、穴径5mm、eを2mmと置くと、Dは5/2+2=4.5mmです。板厚1mmに対してe=2tと仮定した場合も同じ結果ですが、2tをあらゆる曲げ加工の最低離隔とする根拠にはなりません。必要なeは材種・板厚・内R・工具と穴の変形許容量を加工先と確認します。
穴あけの設計ルール
最小穴径
打抜きで可能な最小穴径は、材料強度、板厚、パンチのガイド・保持、工具状態などに依存します。Mateの工具資料でも、材種とガイド工具の有無で推奨する穴径/板厚比が異なります。穴径≧板厚という一つの値で、打抜き・レーザ・ドリルの全工法を判定しないでください。
求める形状が小径の貫通穴なのか、ねじを掛ける部分なのかも分けます。バーリングは穴周辺にフランジを形成する加工で、バーリングタップはその部分をねじ部として利用します。meviyのバーリングタップの説明も円筒フランジ形状として扱っています。単純な小径穴の代替として一律に選ぶ加工ではありません。
穴と端面の距離
穴縁と端面の間に残る幅をwとすると、穴中心から端面までの距離は「穴径/2+w」です。
換算例: 穴径5mm、残す幅wを1mmと仮定すれば中心距離は3.5mmです。この1mmは説明用で、加工可能な最小幅を保証する値ではありません。端面の変形やバリ、必要強度を考え、工法・材料・工具に対応した残肉を決めます。
穴と穴の間隔
円形穴の中心間を結ぶ方向では、穴縁間の残肉wを確保する中心距離は次のように表せます。
中心間距離 ≧ (穴径d1 + 穴径d2)/2 + 必要な穴縁間距離w
同径なら「穴径+w」です。必要なwは打抜き時の変形、工具、材料や部品の強度から決めます。中心間ピッチと穴縁間距離を混同しないことが大切です。
展開図の設計
板金部品は3D形状を平板に展開した「展開図」で加工する。展開時は曲げ部の中立線長さを曲げ代として考慮します。以下は、中立線を一定半径の円弧で近似する式です。
展開長さ = 曲げの接線位置までの直線部の合計 + 曲げ部の中立線長さ
曲げ部の中立線長さ = (R + k×t) × θ × π/180
R:内側曲げR(mm)
k:内面から中立線までの距離を板厚で割った係数
t:板厚(mm)
θ:平板から曲げた角度=中立線円弧の中心角(度)
単純な一箇所の曲げでは、完成後の内角をαとするとθ=180°−αです。内角120°なら式へ入れるθは60°で、120°ではありません。直線部は曲げの接線までの長さとし、完成形状の外寸をそのまま足す方法とは区別します。
kは材種・板厚・R・工具や曲げ方式に対応した値、または加工先の曲げ表に合わせます。SOLIDWORKSの曲げ代の説明も、中立線による展開と外寸からの曲げ控除を区別し、加工先への条件確認を勧めています。
現場での対応: 板金CADの自動展開は、採用した板厚・内R・kなどの設定を前提に計算されます。Fusionの板金ルールで設定項目を確認できます。設定を加工先とそろえ、完成形状・展開図・図面の版を対応させて支給します。Fusionでは展開側だけの変更が元の折曲げモデルへ戻らないため、更新箇所も確認します。手計算は概算確認に使い、寸法精度が厳しい部位は必要に応じて試作や加工実績で設定を確かめます。
コストに影響する設計ポイント
コストが上がる設計
- 曲げ工程が多く、持ち替えや工具の段替えが増える
- 特殊な曲げ形状(Z曲げ・ヘミング曲げ等)
- 加工先の通常工具で対応できない小さいRの指定
- 複雑な打ち抜き輪郭(CAMプログラムが複雑)
- バーリング加工・カシメ・スタッドナット(工程追加)
コストを下げる設計変更
- 工具の干渉や加工順を確認し、持ち替え・段替えを減らせる曲げ配置にする
- 穴を標準サイズに揃える(Φ4・Φ5・Φ6等)
- 長方形のブランクから取れる形状にする(材料歩留まり向上)
- 板厚を標準サイズに統一する(板厚が少種類のほうが材料管理しやすい)
板厚は材料の規格・調質・許容差と加工先の在庫を確認して選びます。曲げ数だけで段替え回数や価格は決まらないため、数量・取り数・仕上げをそろえて変更案を見積もります。Protolabsの見積説明も在庫板厚の対応と数量別価格を区分しています。同社の在庫を国内全加工先の標準とみなすものではありません。
図面への書き方
板金部品の図面記載事項
材質:SPCC(説明例。実発注では採用材を指定)
板厚:1.6mm
表面処理:粉体塗装(外面、説明例。採用処理と範囲を指定)
曲げR:内側R2.0(特記なき場合)
溶接:設計で決めた種類・脚長・長さを部位別に指示
穴位置公差:±0.3mm(説明例。機能と加工条件で決定)
上記は記載項目の例です。隅肉溶接の寸法は板厚だけで決めず、相手板、継手、荷重、材料、施工方法などから決めます。TWIの説明も、設計荷重・材料・設計基準から寸法を定めて図面に示す手順を述べています。板厚1.6mmに脚長3mmという2値だけで施工の可否や強度は判定できません。
スポット溶接の指示
板金部品同士をスポット溶接で接合する場合は、位置だけでなく、採用する記号体系と必要寸法を図面に示します。
基本記号の形:○(点溶接。文字による模式表示)
ピッチ:〇〇mmピッチ
ナゲット径:Φ〇〇以上
KOBELCOのJIS Z 3021抜粋では、点溶接の基本記号は白抜きの円です。位置図に黒丸を使う場合の凡例と、正式な溶接指示は区別します。実図面では採用規格の版に合わせ、基準線・引出線・寸法の記入方法を確認してください。
よくある失敗
失敗1:鋼板の圧延方向を無視した曲げ
「曲げる方向」だけでは、曲げ線と材料が伸びる方向を取り違えることがあります。曲げ線と圧延方向の関係を図面上で決め、材料メーカーが示す方向別の曲げ条件を確認します。
対策: 重要な曲げ部位は、採用材の曲げ条件に従って方向と内Rを決めます。必要なら図面へ圧延方向の矢印を入れ、曲げ線との関係を加工先と共有します。
失敗2:板厚を無視した溶接設計
薄板では入熱による変形に注意が必要ですが、1mmという板厚だけで隅肉溶接を不可とはできません。必要強度、継手、溶接長・施工順序・拘束と許容変形を確認します。TWIの変形対策は、必要以上に溶接を大きくしないことや施工順序の検討を示しています。スポット溶接やリベットも比較候補ですが、接合強度・アクセス・気密性などを含めて選びます。
失敗3:切り欠きが鋭角
鋭い切り欠きは、部品の応力集中や加工工具への負担を確認する箇所です。必要なRは荷重・材料・板厚・加工方法・工具で決め、R1を全切り欠きの共通下限にはしません。曲げの逃げを兼ねる場合は、幅・深さと完成後の残肉も確認します。
社内で説明するときの言い方
上司・設計者に対して: 「この曲げ部の内Rが、採用材と加工先の条件に合うか確認します。圧延方向と曲げ線、板厚、工具の条件をそろえ、必要なら形状を変更します。」
外注先・板金業者に対して: 「完成形状・展開図・CADデータは同じ改訂版で支給します。板厚1.6mmのSPCC、内R2.0という案です。御社の加工条件と展開設定を確認し、表面処理の範囲・後工程と合わせて合意したいです。」
まとめ:板金設計の3チェックポイント
- 曲げ条件をそろえる——材種・調質・板厚・圧延方向・工具から内Rとフランジ長を確認する
- 距離の基準を明確にする——穴中心・穴縁・曲げ線を区別し、必要な離隔を加工先と決める
- 同じ版と条件で支給・比較する——完成形状・展開設定・図面を対応させ、品質と見積を確認する
次のステップ:
- 溶接設計の基礎 — 板金部品の溶接設計へ
- 表面処理の選び方 — 板金の防錆処理へ
- IP等級と防塵・防水設計 — 板金筐体の防水設計へ